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「いっつも廉造が世話んなっとるなあ」
「あいつドスケベやろ。苦労するなあ」
「いや、志摩くんは面白くて優しい人ですよ!」

むしろ私がお世話になってるくらい。
そう付け足すと志摩くんのお兄さんたちはそんなわけないやん!みたいな感じで笑い飛ばした。
いや、志摩くん、結構しっかりしてると思うんだけどな。ちゃっかりもしてるけど。
布団を座布団代わりに座りながら、志摩くんのお兄さんたちと他愛ない会話をする。
蝮さんは姉妹さんたちとお話しているようで、こちらには目もくれなかった。
少し寂しい気はするけど、よかったような、何て言うか。
志摩くんのお兄さんとお話しをするのは別に嫌じゃないけど、この間にもみんなが働いてるんだって思うと、ちょっと、嫌かもしれない。
時計を一瞥すると、そろそろ夜と言ってもよさそうなくらいの時間になっていた。
ああもう。こんな忙しいのに、何やってんだろう。

「…やっぱり、私仕事戻りますね」
「え、いやいや、無理はあかん」
「いえ、大丈夫ですよ。私だけ休んでるのも、悪いですし」
「かーっ!ちとこちゃん偉いなあ!あのアホにも聞かせたりたいわ!」
「ほんま、ごめんなあ。なんかあったら、気軽に呼んでや」
「はい。ありがとうございました。…蝮さんも、蛇、可愛かったです」
「!あ、たりまえ、や」

可愛い!?あれが!?
金造さんが有り得ん!と叫んでいるけど嘘なわけじゃない。
確かに怖かったし、ビビったけど、キリクから逃げるために私に頼ってくれたって考えたら、少し可愛いじゃない。
こういうところは妙にポジティブなんだよなあ、何て考えながら、布団を畳み、一礼してから取り敢えず持ち場だったところに戻る。

「湯ノ川先生。何か仕事ありませんか?」
「あれ、もう大丈夫なの?」
「はい。大したキズじゃないですし」
「そっか。よかったね。じゃあこのタオルを持っていってくれる?」
「はい!」

1日の仕事が終わったのは、それから2時間後のことだった。
晩御飯にお弁当をもらい、夜風にでもあたろうと私は一人で廊下を歩いていた。
あれからの仕事はしえみとも出雲ちゃんとも全然違うもので、あれから会ってないし、あっちの仕事が終わったのかどうかすら分からない。
ちょっと、気持ち切り替えて話でもしようかと思ってたんだけど、

「うまく、いかないなあ…」

はあ、と大きなため息をつく。
それで落としていた視線をあげてみると、そこの縁側に、見慣れた姿が倒れているのが見えた。
ドキリとして、その人のところへ駆け寄る。
近づいてみたら、グオオとイビキみたいなのが…まあイビキなんだけど。それが聞こえてきて、私は胸を撫で下ろした。
なんだ、勝呂くん。ただ寝てるだけか。
倒れてるのかと思って、一瞬焦った。
よっぽど疲れてたんだろうな。
起こすのもなんか悪いから、毛布だと暑いだろうし、バスタオルを借りてきて勝呂くんにかけてやる。
それで、なんとなく私はその縁側に座って、夜空を見上げた。
目が見えてないだけなのか、星は確認できない。
真っ暗な空に悲しくなって、ポケットから携帯を取り出して電話帳を開いた。
あの人の名前を押して、受話器のマークを押してから、携帯を耳にあてる。

「……、でない、か」

呼び出し音しか聞こえなくて。そのまま電話を切るとパチン、と携帯を閉じて床に置く。
仕方ないよ。ネイガウスさんだって忙しいんだから。
そう思い込む。仕方ない。そう思うようにする。
でもなぜか、心の中は不安で支配されていた。


いい加減、ネイガウスさんも呆れて、
あんたのこと、捨てちゃうかもよ。

そんなこと、ないもんね。

真っ暗な空が、あなたみたいで
恋しくなる、黒