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もしかして私は失敗したのだろうか。
目の前にいるのは私の想像した悪魔の姿とはかけ離れた、にんまり笑顔の悪魔の姿。しかも関西弁。


「え…ハウレスさん、ですか?」
『なんや、お嬢ちゃんが喚んだんやろ』


不服そうにむ、と顔をしかめたそいつは間違いなくハウレス、らしいが。


「ちがう!私が想像してたのは豹の姿であってもそんな平和ボケしてそうな笑顔は決してしないし関西弁でもないし、もっと、なんかもっとこう恐ろしい表情をしたハウレスだったのに!!」
『失礼やなお前!どついたろか、あ!?いつのハウレスの話しとんのやそれはオトンの話やろ。ひゃーもうこれやから若いもんわ…帰る』
「いやいやいやすみませんごめんなさい許してください帰らないでくださいいい」


しかもこいつすげえめんどくさい!ふてくされやがった。魔法円に間違いはなさそうだし、やっぱり間違いなくハウレスだろう。上級クラスとは思えないオーラを醸し出している。失敗ではないみたいだしイマイチ使えるのかどうかわからなくなってきたけれどここで帰られては元も子もない!
必死でそのごつい体にしがみついていると帰ろうとする動きが止まる。お、思いとどまってくれたか。


『…そうか、そんなにわしが必要か』
「必要!ちょー必要!!」
『ほんまかいな』
「この目と口は一切の嘘をつきません!!」
『…。』
「…。」
『ハウレスさんちょーかっこいい痺れるぅ、て、言うてみい?』
「…ハウレスさんちょーかっこいい!痺れる!憧れる!!」


やばい、私はとんでもない悪魔を召喚してしまったのかもしれない。なんせめんどくさすぎる。鬼級のめんどくささ。
私が憧れるまでつけたことに非常に満足したらしいハウレス(以下呼び捨て)は満足そうに私の頭をごつい前足でぼすぼすとなでてきた。毛もかたいし肉球もかたいのであまり心地よさは得られなかった。


『んでぇ、何の用かは知らんし、地面に魔法円描くのはええんやけどなあ、ごっつい胞子が寄って来よるやないか。ここままじゃ魔法円消えてまうで。一旦消してからその手にもっとる紙でええからもっかい喚んでくれ』
「えっ、あ!」


うっかりしていた。いやしかし、この関西弁本当にもう一度喚んでくるのか。疑いのまなざしで見ているとそれに気が付いたのか『信じぬ者に助けはない』とばっさり言われてしまい慌てて謝ると私は急いで魔法円を消した。
そしてメフィストさんにもらった紙を再び広げるとさきほど傷つけた腕から流れる血をなすりつける。…これは、呼びかけた方がいいのだろうか。


「えーっと」
『あーあー。ええ、ええよ。じゃじゃじゃじゃーん』
「わあああ!!」


さっきは登場をしぶっていたのか、今度はあっさりと姿を現した。もっと時間がかかると思っていたので心の準備ができていなかった。心臓が躍り跳ねている。
もう、なんなんだ。なんなんだそのじゃじゃじゃじゃーんは。馬鹿にしてるとしか思えない登場に悔しくも驚き声を上げてしまった私はゲラゲラとハウレスに笑われていた。


『はーっ笑った笑った!んで?わしに何の用や』
「…いえ、そのですね、あれ、見えますでしょう?」
『はー、不浄王か』
「知ってるの?」
『まあ。それなりに。ほーお、へー、あれを倒すんか?』
「できるの!?」
『無理無理!わしにできてもお嬢ちゃんの力量やったらあかんわー!』
「…。でも、周りの胞子を蹴散らすことくらいはできるでしょ?」
『…ま、お嬢ちゃん次第、ってとこやな』


なるほどね。まあ勝呂くんのお父さんの手紙にもそう書いてあったし、本体は奥村くんがやるとして、私はその援護くらいにはなれればいいか。ハウレスの言うことはきっと正しい。この悪魔は上級クラス。主によっては不浄王を倒すことだってできるだろう。でも私はその器にはまだ慣れていないのだ。自分が一番わかっている。
胞子を蹴散らすのも私次第、というのも嘘ではないだろう。自分の無力さが腹立たしいが、今はそれを嘆いている場合ではない。
先程からじくじく痛んでいた腕の傷を適当に止血、応急処置をしてからハウレスに向き直る。当の本人はポカンとまぬけな表情をしていた。

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ハウレスについて

召喚すると、最初は恐ろしく力強い豹の姿で現れるが人間の姿も取る。炎のような目を備えた恐ろしい表情をしているとされる。
過去、現在、未来全ての質問に対して正しく答える力を持つが、魔法陣の三角形の中にいないとフラウロスは必ず嘘をつく。魔法陣の中にいるときは、世界の創造や神聖な事柄、さらには、いかにして悪魔が堕天したのか喜んで語る。また、召喚者の敵を全て焼き尽くす力を持つ。命じれば他の悪魔たちによる誘惑から守ってもらうこともできる。
出典 ウィキペディア
ハウレスが話しているのは似非関西弁です。本人がかっこいいと思ってそれっぽくしゃべっているだけです。完全に某魔法少女漫画に出てくるケロベロスをリスペクトしてます。