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京都から帰宅後、ネイガウスさんにお土産話をたくさん話しているうちに、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
ネイガウスさんがベッドに移動させてくれたのだろう、カーテンから漏れる陽射しで私は目を覚ました。

「ん、」

鳥のさえずりがなんとも心地いい。だけどそれよりも、シャワーも浴びずに眠ってしまったつけで体が気持ち悪いのが気になる。
重たい体を起こし風呂場へ向かう。
いつもならネイガウスさんは起きている時間だけど、出かけているのかネイガウスさんの姿はリビングには見たあらなかった。

「仕事…ではないだろうし…」

おはようって言いたかったな。
残念だったけれどいないのなら仕方ない。むしろ一日家に置いてくれたんだから感謝しないと。

「今日はなにをしようか」

シャワーを浴び、用事もないし久々にショッピングでもしようかしら。なんて髪をとかしているとなんだか、気配を感じた。この感じは、

「何をしているんですか」
「あら?いやあー!見つかってしまいましたか!」

アハハハと陽気に笑う姿が腹立たしい。

「メフィストさん、不法侵入ですよ」
「細かいことはいいんですよ!」
「よかねーよ」

しかも風呂上がりの乙女が使っている脱衣所だぞ。服着ててよかった。いや、いつからいたかわからんけども。
しかしなんだかウキウキした様子。

「ちとこさん、高校、通いますか?」
「……え?」

目をまたたかせる。突拍子もないことを言われ、思わず声がでなかった。
この人いま何て言った?高校って言った?

「急に、どうしたんですか」
「今から編入試験を行います!」

すぱぱぱぽん!と陽気な音を立て、どこからともなく出てくる鳩。
どうせ暇でしょと下世話な笑顔を見せる悪魔を殴りたくなったのは一度や二度ではないが、あまりにも唐突すぎて意味がわからなかった。

「どうして今更」
「寂しくないようにですよ」

いやはや全く寂しくはないのだが本当にどういうつもりなのだろうか。
あれよあれよと魔法みたいに学校においてあるような机を出され、なぜか私はハチマキを巻かれた。『必勝』てやつ。
机の上にはご丁寧に筆記用具とマークシート。そして冊子になっている問題用紙が置かれていた。

「それでは、はじめ!」

ウインクとともにこれまたメフィストさんが出した大きなタイマーが動き始める。
なんの説明もなしに、一体どういうことだ!
大きな声で言ってやろうと思えば、口が動かない。やろう、なにか私の口にやりやがったな。

こうして強制的に、私は正十字学園の編入試験を行うこととなった。