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「おめでとうございまーす!」

結果は試験が終わり3秒で出た。
せっかく解いた答案用紙も一瞥もせずに破かれた。
初めから編入させようとするなら、テストなんてさせるなよ!!怒鳴りたい気持ちも山々だが、私にはわかる。それはメフィストさんを喜ばせるだけなのだ。

「安心なさい。杜山さんも編入試験を受けるそうですよ」
「そ、そうなんですか?」

なんだ、全然知らなかった。昼間ネイガウスさんに会えないのは残念だけど、昼間のみんなに会えるのが楽しみなのも事実だ。
けど、

「正十字学園て進学校なんですよね。私頭そんなによくないんですけど」
「心配ありません!なんていったってあの奥村燐も通っているのですから!」
「ああ、それは大丈夫か」

失礼なことを言ってしまった。申し訳ない奥村くん。
このピンクなピエロのことだから些か不安ではあるけど、久々の学校か。

「嬉しそうではありませんか」
「……うるさいです」

テストをやった意味はあったのか不明ではあったけれど、たまにグッジョブだよメフィストさん。
こちらに来てずっと学校には通ってないし、これから始まるはずの学園青春ライフを想像して、口元がゆるんだ。
まあそんな期待は大体打ち砕かれるんだけど。

「さて、しばらくあなたには寮に住んでもらいます」
「え!お部屋は…」
「学園は全寮制なので」

規則には従ってもらわないと。そう言っていやな笑顔をむけ、私の肩を抱いてきた。

「なんか」
「はい?」
「怪しいです」
「と、いうと?」
「何か隠してません?」

私の肩に置かれた腕をほどき、私は精一杯の怖い顔を作りメフィストさんを睨みつけた。
なんか変なことを企んでいるのは一目瞭然だ。いつも変なことしか企んでないけど。
怖くないですよ、全然。と馬鹿にされてもやめない。
じっとメフィストさんの目を見る。
しかしピエロの表情は何一つ変わらない、人を馬鹿にしたような笑顔を見せるだけだった。

「あなたのためですよ」
「……。はぐらかして」
「事実です。じきに分かる」

そう言い、メフィストさんはマントを翻し、暗闇に溶け込んだ。
私のため。寂しくないように。
案外、その言葉の意味はすぐに理解することができた。


ネイガウスさんは、いつまで経っても帰ってこなかった。