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「えっと、今学期からお世話になります、小川ちとこです。よろしくお願いします」

それからほどなくして、2学期が始まると言われ早速わたしは正十字学園へ編入した。
また嫌がらせのように特進クラス。絶対メフィストさんがしこんだのだ。
特進クラスって、奥村先生とか勝呂くんがいるクラスでしょ。あの編入テストも自信なかったんですけど。


「小川さん!?」


私の名前を呼んだのは勝呂くんだった。それはもう面白い顔をしていた。
なんでここにおるんや!とでも言いたそうな顔だ。
しかし勝呂くんのおかげですごく目立っている。あの勝呂くんの知り合いか!?と大注目である。


「勝呂くんと奥村くんとは塾が一緒なんです」


一応、変に目立ちたくないので少し嘘をついた。けど結局、『勝呂と奥村並に頭がいいやつ』をいう印象を植え付けてしまい、あまり効果はないどころかむしろ逆効果だったかもしれない。
女の子たちから、きつい視線が向けられていた。


「びっくりしたわ。中途入学してきたんか」
「なんかメフィストさんが入れって」


休み時間、私の周りはなんともいえない空気に包まれていた。
話しかけるか、かけないか。
品定めするように、周りは私を見てくる。
嫌な気持ちになってたら、勝呂くんが話しかけてきてくれて、少しほっとした。


「にしても、奥村“くん”ってすっごくモテるんだね!」


こそこそっと小声でいうと勝呂くんは日常茶飯事だと苦笑いをうかべた。
可愛くておしゃれな女の子たちに囲まれている。勉強もできるわ強いわモテるは、果たしてあの人に欠点があるのだろうか。


「にしても、さすがやな。しばらく高校には通ってへんかったのに、特進科って」


厳密には、通っていたんだけど、それは言う必要はないだろう。
テストはよくなかったはずだから、メフィストさんの陰謀でしょ。と頭が言い訳じゃないアピールをしておいた。

それにしても、たしかに。
心の中で頷く。
こんなに人がいれば、仲間がいれば昼間だって寂しくない。寮にいればそれこそ誰かがいるから一人じゃない。

ネイガウスさんが家に戻ってこない。

もうすでに1週間が経とうとしていた。
メフィストさんは何も答えてはくれないが、ネイガウスさんが帰ってこない理由を知っているんじゃないだろうか。
寂しくないようにと、学校へ通わせ、寮にいれ、夜になれば祓魔塾がある。
確かに一人でいる時間はめっきり減る。
仲間といる時間がすごく増える。
寂しくないのかもしれない。
寂しくないのかもしれないが、


「小川さん、気分でも悪いんか?」
「え?」
「顔色悪いで」
「あ、いや、平気だよ」


無理やり笑顔を作る。勝呂くんは訝しげに私を見ていた。そんなに変な笑顔だっただろうか。
ぽっかりと生活に穴が空いたのだ。
電話にも出ないし、何も音沙汰がない。
せっかくまた、ネイガウスさんとのんびり休日を過ごそうと思っていたのに。

私はまた、捨てられてしまったのだろうか。