71

しえみが今日、ようやく学園に入学してきた。
私はメフィストさんから聞いていたから知っていたけど、お昼休み、朴ちゃんが連れてきたしえみを見た時の出雲ちゃんの顔ときたら

「ぷくく」
「あんたいつまで笑ってんのよ!」

こてんとあざとく首を傾げるしえみ。にやにやが止まらない。あの出雲ちゃんの顔ときたら、なんと表現したらいいものか。なんとなく間抜けで、あんな顔初めて見たから面白くてしょうがない。

「そういえばしえみちゃん、いい時期に入学したね」

髪の毛の話とか、出雲ちゃんの呼び方とか和気あいあいとおしゃべりしていると、朴ちゃんが学園祭の話題をだしてきた。
しえみも詳しくわかっていないようだったけれど、ダンスパーティーのことを話すと意外にも食いついてきた。

「男女ペアって、それって恋人ってこと?」

顔を赤らめながら言うしえみはなんとも愛らしい。目に入れても痛くないとはこういうことなのだろうかと、私はちぎりパンをちぎらず貪りながら一人考えていた。

「わ、私、誘ってみようかな」
「えええ!!」
「だれだれ!?誰を誘うの!?」

しえみの軽い爆弾発言に、私と朴ちゃんもまんまと起爆した。まさかしえみから誘うなんて言葉、出てくると思わないでしょ。
わくわくしながらしえみに問い詰めようとすると、なんちゅータイミングだろうか。奥村くんがどたばたと慌ただしく走ってきた。

「えーーっとぉ、ちょっと顔かせ」
「うん、私もちょうど話したかったの」

こ、これは告白イベントなのだろうか。
なんとなくドキドキして奥村くんとしえみの後ろ姿を眺めながら、「どうなるのかな!?」と分かるはずもないのに二人に問いかけてしまった。

「ちとこちゃんは?誰かと行くの?」
「へ?」

しかし、まさかの私に飛び火。ちらりと出雲ちゃんの方を見るけれど、興味無さそうな顔で私を見ており、助け舟を求められそうにはない。

「好きな人とかいないの?」
「すっ!好きな人!?」

朴ちゃんてば、出雲ちゃんといつも一緒だからこういう話はあまりしないのかと思っていたけれど、大きな勘違いのようだ。
私もこういう話は大好きだけど、聞くのと喋るのは全然違う。思わず大きな声を出してしまい、一瞬まわりの視線が私に集まる。なんだこれ、恥ずかしすぎる。

「好きな人、とか、は、い、いない、よ」

とっても大切で大好きな人はいるけれど、朴ちゃんの言う“好きな人”ではないだろう。ああでも、ネイガウスさんとダンスパーティ行けたら楽しいだろうなあ。いや、楽しいかな。ダンスパーティなんて似合わないにも程がある。

「でも色んなやつから誘われてるわよね」
「えっ」
「えー!そうなの?!」

なんで知ってるんだ出雲ちゃん。おかげで朴ちゃんのテンションがヒートしたじゃないか!
そんな、人に堂々と言うことでもないのに、同じクラスの〇〇くんだとか、隣のクラスだとか、はたまた全く知らない人だとか、いちいち言うハメになってしまった。
でも付け足しておこう。彼らも何も本気じゃない。クリスマス前に彼女作っとこ、的な感覚なのだ。つまり手頃な女の子なら誰でもいいんだ!

「……、みんな、愛に飢えているのよ」
「そんな達観したみたいに言わなくても」

なかなかちとこちゃんを暴露させるのは手ごわいね。と楽しげな朴ちゃん。顔には出さないけどもしかして、出雲ちゃんもノリノリなのかもしれない。
なんとか色恋沙汰のなんやかんやは私にはないことを説明し、お昼休みを終えることが出来た。

放課後、たまたま廊下でゾンビみたいになってる奥村くんを見かけた。
何かあったのか、と、声をかける勇気はなかった。