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「紙粘土に、絵の具に、養生テープ……」

つい、メモを繰り返し読み上げ、暗記をしようとしてしまう。メモがあるからそんな必要はないのに。
学園祭の準備で買い出しを頼まれた私はやる気なくぼちぼちと一人廊下を歩いていた。
ほかの教室を見るとどのクラスも着々と準備が進んでいて、どのクラスも騒がしく、楽しそうだ。
学祭、いいねえ。

「小川さん」
「あれ、勝呂くん」

昇降口まで行くと勝呂くんがいた。どうやらダンスパーティのスタッフになったようで、打ち合わせがあったようなのだ。模擬店での勝呂くんの班は今日はもう仕事はないみたいで、私が買い出しを頼まれたことを告げるとなぜか「手伝う」と一緒に行くことになった。
強面だけど、こんな優しいところがあるのがモテる秘密なのだろう。

「勝呂くんはスタッフになったんだね」
「結局その間勉強できへんけどな」
「でもリフレッシュにはなるかもよ。勉強漬けで私もへろへろ〜…」

笑って言うけれど、正直うんざりするほど勉強はしている。肩なんて凄まじい凝り方をしている。
それはみんな同じだろう。
訓練して、勉強して、高校の勉強もして、学園祭の準備をして。
やることが多いんだよな。もうちょっと試験の日程を考えてくれてもよかったのにね。
薬の種類や調合、魔障の処置とか、覚えることがありすぎるし、
悪魔の召喚も私の実力が足りずにすぐバテてしまう。ハウレスにはバカにされる始末だ。

「……竜騎士の訓練ってどんな感じ?」
「え、…ああ。今は銃火器の取扱いに慣れるのに必死やな」
「なんの銃使うの?」
「……バズーカ」

バズーカ。あの大きくて、小型ロケット弾みたいな、あのバズーカのことだろうか。
任務で少人数だけれど持っている人を見た覚えがある。
それを勝呂くんが抱えて、撃つのか。

「か、かっこいいー!!」
「ぶっ」
「すっごく似合うと思う!素敵!」
「げほっ、…あ、ありがとう」

照れているのだろうか勝呂くんは何回か咳払いをした。
でも本当の本当に心の底からそう感じてしまったのだから仕方ない。
ぼりぼりと頬を掻きながら勝呂くんが私を見る。目が合うと私もどことなく照れくさくなって、にやりと恐らく気味悪く笑ってしまった。

「小川さんは誰かとダンパ行くことになったんか」
「え?いやあ、行く相手もいないからねえ」
「…ほーか」

奥村くんに付き合ってあげるべきかなあ?とか言ってみたら、「やめとけ」と即答されてしまった。私も半分冗談だけど。
昨日のウォーキングデッド化は8割方しえみにふられちゃったせいだろう。なんとなくしえみにも奥村くんにも聞けずじまいだったが、しえみは奥村くんの誘いをなぜ受けなかったんだろうか。もしかして先生を、誘うつもりだったのだろうか。

「恋愛って、難しいねえ」
「したことないからよお分からんけどな」
「え!そうなの!?」
「そうなのって、…そんな余裕ないしな」
「へえ」

勝呂くんぽいなあ。と冗談交じりに言うと少しムスッとされてしまった。
勝呂くんとの恋愛トークなんて、弾むとは到底思えなかったけれど。それでもなんだかんだ会話は途切れることなく、私たちは無事に買い出しを終える。勝呂くんと一緒に帰ってきたことに一部女子から怖い視線をいただいたが、少々慣れてしまってそこまで気にすることもなくなった。
うん、面倒臭い買い出しも、一緒に行く人によっては、悪くないな。