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学園祭準備に、塾に、勉強に。目の回るような忙しさであっという間に学園祭当日になってしまった。
浮かれた顔。浮かれた声。浮かれた校舎。
日に日にげっそりなっていく私とは真逆に、さんさんとてる太陽。ド派手なメフィストさん、もとい、理事長の学園祭開幕宣言とともに、学園祭は幕を開けた。

ちらほら騎士団の祓魔師も見かける。どうやら警備をしてくれているようである。
観光客もめちゃくちゃ来てるし、たかだか学園祭がなぜこんなビッグイベントになっているのか。
今更ながらの疑問を胸に抱きながら私は模擬店の受付を淡々とこなしてゆく。
いちゃつくカップルが来たり、ほのぼの親子が来たりと客層も様々で面白いけれど、認定試験のこともありなんとなく心からこの空気を楽しめないでいる。
しえみは奥村先生をダンスパーティーに誘って断られたと言ってたり、奥村くんもダンスパーティーの未練を断ち切るとかなんとか言ってたり、なんか傍から見てると「青春してんなー!!」て感じだ。

「交代でーす」
「はーい」

シフトを終え、一人ふらふらと校舎を歩く。1このまま帰ってしまおうかと、わりかし静かな廊下を歩いていると出雲ちゃんと鉢合わせた。

「い、ず、も、ちゃーん」
「げ」
「げ、て」

あからさまに嫌そうな顔をされたが隣についても怒られなかったので、一緒に寮まで戻ることにする。塾だったのだろうか。
出雲ちゃんも認定試験前でぴりぴりしているようだ。気持ちは物凄くわかる。こんなことをしている場合なのかと、そんな気分になってくるのだ。
でも、周りはお祭りどんちゃん騒ぎ。
外では奥村くんのクラスの出店が長蛇の列を作っていて、私は思わずゴクリを唾を飲んだ。

「ね、ねえ出雲ちゃん」
「嫌よ」
「なんも言ってないよ」
「部屋に戻って勉強しなきゃ」
「……だよねえ」

思わず深い深いため息をついた。私たちには余裕などどこにもない。

「あ!出雲!ちとこ!!」

そのまま話すこともなく二人で歩いていると、バタバタと大きな足音とともに後ろから呼び止められる。
声で奥村くんだとわかり、すぐに振り返り返事をすると「よかった!やっと見つけた」とニコニコと笑う。
出雲ちゃんは相変わらずムスッとしている。

「頼む!」

何だろうと用件を待っていたら、突然奥村くんは膝をついて何かを差し出してきた。
それは、なにかの衣装のように見える。

「これ着てレジ手伝ってくれ!!」

あまりにも突然で、なんのこっちゃ!と声が漏れそうになったのをぐっと堪える。
話を聞くと奥村くんのクラスの模擬店がメフィストさんに気に入られ、ダンスパーティーへの出店が決まったらしい。けれどクラスの半数以上がダンスパーティーに参加するため、女の子の売り子不足でお困りのようなのだ。

「嫌よ!!」
「頼む!!ゴリゴリくん奢るから!」

容赦なく言い切る出雲ちゃん。私だってなんとも安い給料だなと心の中で思ったが、断るのも忍びない。
しえみに頼めだのあいつとは気まずいだのワアワア言い合う2人を少し離れて眺めていると出雲ちゃんから「あんたもなんとか言いなさい!」と怒られてしまう。なぜ私が。

「一応仕事なんだから、信用してる女じゃないとダメだろ!誰でもいいってわけじゃねえんだ!」

だから頼む!と手を合わせる奥村くんに、なんだか申し訳なくなってきて、せめて私だけでも手伝うかと手を伸ばそうとしたら、先に衣装の袋をぶんどったのは出雲ちゃんだった。

「わかったわよ!やればいいんでしょ!」

その言葉に奥村くんは涙を滲ませながら喜んでいる。私もそれを見て、「私も手伝うよ」と一言いうと、とてもオーバーにお礼を返された。

「いやあ、お前らには助けてもらってばっかだな。この借りはいつかちゃんと返すから!」

奥村くんは嬉しそうに、頭をポリポリとかきながら言った。
私は出雲ちゃんの顔が曇るのを見逃さない。

「あんたたちも、杜山しえみも、少しは人の裏側を見るってこと覚えたら?」
「え?」
「……私は誰も信用してない」

どことなく、悲しそうな顔をした出雲ちゃんは、私のことも置いていきスタスタと寮に帰ってしまった。

「俺、なんかカンに障ること言った?」
「……わかんない」

おとぼけ顔の奥村くん。なんて脳天気なんだろうと、私は少し、心の中で奥村くんをバカにした。