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「ここどこおー!!?」

ハウレスに跨り、走れど走れど出口は見当たらない。所々に扉はあるものの、怖くて入れないし。
私は、ただいま絶賛迷子中のようだ。

『どっかの部屋に入ればええんちゃうか』
「ばか!敵がいたらどうするの!」
『…戦おうとは思わへんのかい』

そんなことを言ったって。極力戦闘は避けたいのだ。だって私、ハウレスはをこうやって召喚して維持しているだけでかなり体力を消耗しているのだから。
きっとこいつはそれを分かっているのに、嫌な使い魔だ。意地悪い。

『しゃあないのお。じゃ、ワイは勝手に行かへてもらうで』
「へっ!?い、いやあああ!!」

ぐいっと体が後ろに引っ張られる。いや違う。私を背中に乗せているハウレスがものすごいスピードで動いたんだ。
目も開けられないほどの凄まじいスピード。私は手錠のかけられた手で毛に必死にかきつく。結構毛を引っ張っているのだが、痛くはないんだろうか。て、そんなことを考えている余裕は微塵もない。

『はい!と、う、ちゃ、くうう!!』
「ぎゃあああ!!」
「うわっ!!なっ、、っえ!?小川さん!?」

突然急停止をしたハウレスから投げ出され(なんかさっきも同じことされた気がする)その勢いのまま何かにぶつかった。いや、誰かにぶつかった。

「し、志摩くん!?どうしてここに…」
「いや、それはこっちのセリフーー…」
「なぁぁんだそいつは!!侵入者の一味か!?」

まるで軍服のような、見たことも無い服を来た志摩くんと、めちゃくちゃ気持ち悪い白衣を着たおっさんがその部屋にはいた。
とてつもなく大きな窓に、無数のコンピューター。呆然のその光景を眺めていると、制服の襟元を掴まれ、背後から志摩くんにホールドされた。

「え」
「そういや、小川さんあの場におらんかったもんなあ。隊長が先に連れていったーんは聞いてたんやけど」

どうやって逃げはったん?
いつものようににっこりと志摩くんは笑う。なんだ、これ、なにかおかしくないか?

「志摩くん…、もしかして…」
「…そ!僕、イルミナティの一員やねん」

大したことない。そんな言い方をして、志摩くんはいつものニコニコ笑顔で私のことをしっかり捕まえている。どうして気がついたのか、スカートの折り目から隠していた魔法円を抜き取り、それを破った。
ハウレスは消える。彼のことなら阻止することは造作もないことだと思うのだが、きっと私の心が混乱していて、動くことをしなかったのだろう。

「そいつかあ!ゴキブリの分際でルシフェル様に呼ばれたという小娘は!!!」
「おっと、博士。奥村くんまで殺して、この子まで殺してもうたらもうなんも言い逃れできまへんで?」

カツカツと、私を抑えたまま志摩くんは部屋の奥へと進む。手錠をかけられているとはいえ、全然振り払えない。
志摩くんが、イルミナティ。なんで、ついこないだまで、一緒に祓魔塾で学んでいた仲間だと言うのに。

「え、志摩くん、敵なの?」
「……うーん。そういうことになりますわ。でも僕、小川さんに危害を加えるつもりは、全くないで〜」

だから嫌わんといてなあ。そう言いながら窓際へつくと、その先の光景が明らかになった。

「えっ!?三輪くん!?」

太く大きなパイプが何本もあり、たくさんの部屋のような箱へと続いている。まるで見たこともないような場所に、三輪くんが一人、佇んでいた。

「あーあーもうさっそく一人脱出してますやん。ほんまに大丈夫ですかあ?こんままでぇ」
「ぐ…ヌ。ギギギ…」

きっと、この窓の向こう側に、みんながいる。そしてきっと、戦っているのだ。ゴクリと唾をのみ、グッと体を捻ると「お、あんまり暴れんといてなあ」と、志摩くんは私を掴む腕をさらに強めた。

「ねえ、これ、なにしてるの?」
「博士が作った屍人と戦わせとるんよ」
「ゾンビ…?」
「どんなに傷つけても、再生する不死の屍人」
「な、なにそれ…」

屍人は通常脳幹を破壊すると死ぬ。なのに、不死。博士が作った屍人。博士って、そこにいる気味の悪いおじさんのことか。

「イルミナティって、一体何をしてるの…?」

志摩くんはニンマリ笑った。いつもの志摩くんの顔なのに、まるで、別人みたいに見えた。
突如、酷く大きい爆発音が聞こえ、視線を志摩くんから窓の向こう側へ移す。大きな炎に黒い煙をあげ、小さい箱のようなところから見知った人たちが出てきていた。
奥村くんに、奥村先生、勝呂くんに、しえみ。

「みんな…!」
「キシシシッ!どいつもこいつも邪魔をしやがって!!」

ドタドタと走りマイクのある場所まで走っていくのは、博士と呼ばれる男。そしてどうやらマイクのスイッチをいれると、また不気味に笑い始めた。

「静粛に!」

その声はきっと窓の向こうにいるみんなにむけている言葉。みんなの視線が、こちらの部屋に向いた。

「ぼくはこのイルミナティ極東研究所所長、外道院ミハエルだ!!」