「やべぇな。就職か、結婚か」
忍術学園に入学して、早くも5年。
くのたま6年生となっていた私は頭を悩ませていた。
土井先生と山田先生の部屋で。
「なんできみはここで悩んどるんだ」
「土井先生ったら、あなた先生じゃないですか。生徒が困っていますよ。助けろ相談に乗れ」
「なんで命令!?」
土井先生の顔がひくりと痙攣しているのが分かった。
私はそんなのお構いなしに先生の部屋でゴロゴロと寝転がっていた。
それでも私は、いたって真剣に悩んでいたりする。
「成績も良かったし、雇ってくれる城もあるだろうけど、嫁ぐのもアリなんだよなあ。女の幸せってやつ」
「嫁ぐ先があるのか」
「野暮なこと聞かないで山田先生。ないに決まってるじゃん」
「じゃあダメじゃないか」
そんなこと言わないでよ山田先生ぇ〜と泣き付いてみるけど適当にあしらわれた。
さらに抱き着こうとしてみたけど避けられてしまい、ベチンと床に体を打ちつけてしまった。
ヒリヒリして痛い。
「結婚するなら、利吉さんみたいな人がいいなあ」
「お、佐倉。利吉に興味があるのか」
「確かに。利吉くんは実力もありますしね」
「ちょーかっこいいよねー」
「利吉はやらんぞ!」
「はあ!?」
興味津々そうに話に乗ってきたくせになんて奴だ山田伝蔵。
もー!!と足をばたつかせるもその山田先生に一喝されてしまった。
もうやだ。この人。
「就職は乗り気じゃないのか?」
「プロのくノ一になったらもう年齢的にね、結婚は無理なんだよ。ていうかくノ一だと貰い手が、ね」
「乱太郎の両親なんて二人とも忍者だぞ?」
「うーん。やっぱ就職かなあ」
「そうだなあ。佐倉の実力なら、スカウトもいっぱいくるだろうからな。教師としては、勿体ない気はするよ」
そっか。なんて適当に返事を返した。
プロになるのが嫌ってわけじゃないけど、正直、どっちかと言うと結婚がしたい。
でもこの五年間、みっちり死ぬ気で忍術勉強して、同期が次々と辞めていく中、私は残った数少ない中の一人になったし、しかもくのたまでは結構成績も良くて、それが誇りだったりする。
だからきっと、結婚してもまた忍として忍務がしたくなるだろうから、こんなに悩んでいるんだ。
今の生活が大好きすぎる。
だからこんなにも迷ってる。
「卒業、したくないな」
顔を床に伏せて、独り言のように言うと、土井先生に馬鹿言うんじゃないって言われた。
私はすごく真剣なんだけど、ね。
(あと一年、自分と追いかけっこ)