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「あー、実習してぇ」


突然だけど、今すごく実習がしたい。色でもなんでもいい。どうせなら戦の中を駆けてもいい。今私は物凄く、忍者したい。だけど今日は実習も任務もない平和な1日だ。


「こういうときは、忍術学園一ギンギンに忍者してるあいつのところへ行けばいいんだろうか。いやだめだ。あいつはただの馬鹿だ」


ふるふると首を振り、ボーッと空を眺める。だらけすぎて豆腐にでもなってしまいそうだ。あ、でもそれはだめだ。久々知に食われてしまう。ボケなのかマジなのか自分でもよく分からんがとにかく私はだらけきっていて、それでいてざわざわと忍の血が騒いでいた。
ううむ、こういう時は無限手裏剣投げでもするべきか。いやしかし、手応えというものが、欲しいもんだ。


「というわけで土井先生私と殺し合いしませんか」
「なんでそうなる」


結局、私の行き着くところは土井先生になってしまう。だってこの人なんだかんだで私に取り合ってくれるんだもんよ。
それにイケメンだし。面倒見いいし。イケメンだし。実は優しいし。イケメンだしね。


「私は今、忍者したいんです」
「珍しいな」
「じゃあいきますねー。いざ尋常に、始め!」


えええ!と慌てる土井先生を置いて私は高く跳び上がった。木の枝に登るとそこから手裏剣を無造作に投げる。でもそこは忍術学園の先生。全てを交わされてしまった。


「甘いな!」
「っ!」


私に向かって飛んできたのは、あの白いチョーク。しかもくちびった小さいものばかり。すんでのところで避けると今度は土井先生の姿が見えなくなっていた。
どこに行った?
視線だけを泳がすが、その瞬間にはもう「隙あり」と後ろから頭をトン、と叩かれていた。

「っあー!悔しい!!」
「私に勝とうなんてまだ早い」


カラカラと笑う土井先生にひたすらイライラする。
今すごい忍者したいだけに、今の負け方はすごく腹立たしい。


「不意打ちでいったのになあ」


下唇を突き出して拗ねてみると土井先生は苦笑まじりに私の頭を撫でる。
完全に自分とこの子供扱いだ。


「はあー…土井先生って、」
「ん?」
「…やっぱいいや」
「なんだ、気になるじゃないか」
「気にすればいいよ」


私は踵を返すとそのままくのたまの長屋へ向かう。
戦意が削がれた。ああもう、嫌だ。



(土井先生と忍者ごっこ)