18

「中在家、中在家いるー?」


私は今、前向きに未来を考えている。だからこうして、私は怪我を覚悟で忍たまの学舎まで来ているのだ。
別に忍たまの教室に行くのに怪我なんか覚悟する必要はないんだが。普通は。


「初子!なんだ、私に会いに来たのか!?」


怪我覚悟の原因の1つ。むしろこれ。中在家の教室には、当然、七松がいる。なんとなく予想はしていたのですごい勢いで私に突進してくる七松を私はひらりとかわすと七松は壁に追突した。そのまま七松はダウン。壁にはヒビが入っている。あれが私だと思ったら、まあ、なんと恐ろしいこったね。
取り敢えず、七松撃破。


「初子」
「あ、中在家。ごめんいきなり」
「いい。なんだ?」
「あのね、放課後空いてる?」
「…。」
「な、中在家?」
「…放課後」
「うん。放課後」
「あ――」
「ダメだあああああ!!」
「ぐぇっ!」


今度は後ろから手が伸びてきて、私の首に腕を回されそのまま後ろに引き寄せられる。突然のことで私としたことが回避ができなかった。
七松は撃破したはず。ならば、誰だ。と考えなくとも声で分かる。


「食満。放せ」
「断る!久々にお前がこっちに来たと思ったら、何故俺じゃなくて長次に会いに来てるんだ!?」
「なんでお前に会わにゃならん」
「俺が会いたいからだ!」
「はいさようなら」
「うぐ!」


肘で一発、鳩尾をこれでもかって力で突く。それでもよろけた程度だったけど、いい。お陰で食満は私から離れた。そのまま食満のソレを躊躇なく蹴りあげて、そいつは顔面蒼白。泡吹きそうな勢いで食満はその場でダウンした。食満撃破。


「はあ、ごめん中在家。話の続きだけど」
「ああ…気にするな。…放課後だったな?」
「うんうん」
「だ――」
「初子!来ていたのか!!」
「チッ」


遠慮することなく舌打ちをした。さっきからなんだ。中在家の言葉を遮りやがって。怒らせたいのかお前らは。この一見温厚そうで実は恐ろしいこの男のことを!
ギロリと新たな傭兵を睨み付けるとそいつはぶるりと身震いをした。しかし、顔はほんのり赤い。紅潮している。ほんとに、ほんとにこいつは、潮江は気持ちが悪い!


「その目、いいな!」
「くたばれ」


顔面パンチ炸裂。しかしそこはさすが、忍術学園一ギンギンに忍者しているだけある。大して怯んだ様子もなく、むしろ喜んでいた。まじでキモい。
さぶいぼが十分に出てきたところで、私は潮江の胸ぐらを掴んだ。うお!?とそいつは声をあげたが、顔は嬉しそうだ。死ねばいい。


「飛んでいけェエ!!」
「な!!」
「初子!来てたノワァァァア!!!」


グッバイ潮江
そのまま潮江を放り投げればその先にいたのは善法寺だった。ゴチンと嫌な音がなる。そのまま地面に倒れこんだ二人を眺めるように見て、私はまた中在家に向き直った。
ていうか、善法寺、どんまい(他人事)
そしてそのまま中在家との会話を再開させようとするも、待てよ。と私は一瞬、動作を止めた。一人忘れている気がする。バッと後ろを振り向けば案の定そこにいたのは、立花だった。もう勘弁してくれ。そう思ったが立花は入り口の戸に背を預けたまま、こちらへは来ない。あ、ああそうだ。立花は常識人だったよ。酒を飲んだとき以外は。あれが強烈すぎて、忘れていた。
どうやら立花は中在家との話を待ってくれているようだから、私はそのまま話を進めることにした。
ていうか、中在家怒らなくてよかったよ。


「で、どうだ?」
「…空いているが、一体どうした」
「団子!」
「…団子?」
「団子、一緒に作ろう!」


笑顔で言ってやると、何故か中在家はため息をついた。立花も笑っている。
いつの間に気がついたのか、七松や食満もなんだ、と息を吐いていた。
なんだってなんだよ。


「密会の誘いかと思った」
「は?七松なに言ってんの。こんな堂々と密会に誘うやつがあるか」
「ていうか初子、なぜ団子なんだ?」
「え?中在家の団子うまいから」


まあ、そうだけどさ。七松と食満はそうは言うがどこか不満そうだ。
別にいいじゃないか。私が団子を作るのがそんなに不思議なのか。今に見てろ。卒業したら私は忍術学園の先生か団子屋の超絶美人看板娘なんだからな。
ふん、と鼻をならせばひょっこりと視界に映った茶色の頭。額を真っ赤にして、だけどにっこりと笑った、死んだはずの…いや死んではないが、善法寺がそこにいた。


「僕、初子の作ったお団子食べたいな!」


そして何を言い出すかと思えば。
人の良さそうな、それでいて少年のような笑みを向けられて思わずため息がでた。


「別にいいよ皆にあげるから」
「うぉお!まじか!」
「まじだ。だから触んな」


べっとりと引っ付いてきた食満を引き剥がす。
七松は団子団子と急かすし潮江は「俺はたとえ毒を盛られようがお前の作った団子は完食する!」と失礼極まりない言葉を吐きやがったのでしばき倒しておいた。誰が毒を盛るか。


「じゃあ…また、放課後に……迎えにいく…」
「ん?いいよ私が行く。中在家は待ってて」


そう言うと中在家の顔が更に仏頂面になって、じっと私を見てきた。
な、なんかよく分からんが機嫌はすこぶるいいらしい。じゃあ待た!と手を振れば私は午後の授業のために忍たまの学舎を後にした。
教室を出た瞬間に、爆発的に教室が騒がしくなっていたのは、気のせい、気のせい。



(中在家くんと約束)