19

放課後、私は再び中在家のもとを訪れた。団子作りを教わるためだ。忍たま学舎につくと何故か食満と七松と潮江に出迎えられた。途中で善法寺も加わり中在家と二人きりなんて断固阻止!とよくわからんが私が怒られた。なんでやねん。
なんとかそいつらを振り払い中在家と食堂へ。おばちゃんにはもう使用許可をもらっている。そうして団子作りを開始したのだが、


「中在家は本当に器用だな」
「…そうでもない。その、なんていうかお前は…」
「皆まで言うな中在家」


中在家の目の前にはとても旨そうな団子がある。一方、私の目の前には…ヘドロ?かす?くず?アメーバ?よくわかない異臭を放った、変なものがある。我ながら芸術作品だと思う。これは一応団子だ。


「分量は合っていた……」
「作り方は?」
「見る限りは……問題なかった」
「ゆで加減は?」
「一緒にやっただろう」
「じゃあなんでだよ!!!」


中在家だってなぜこんな代物ができたか分からないらしい。恐るべし、恐るべし私!確かこの間の調理実習のときはこんなんじゃなかったはずだぞ短期間の間に一体なにがあったんだ!


「いい。もう一度だ中在家。この団子?は潮江にやろう」
「そ、そうか…」


そして今度は中在家に一々確認をしながら調理をしていく。団子を丸める前までは、問題点は全くないらしい。だから団子の生地を丸める作業に移る。それは中在家にも手伝ってもらった。


「…よし、いくぞ」
「今度は大丈夫だろう」


その生地をお湯に投入した。これで待つだけだ。ここまでの過程は完璧なはずだ。これならうまい団子ができるに違いない。しかし何やら不吉な音がしてきた。しゅくしゅくじゅぐじゅぐグォァアアってこれはやばいだろ!


「逃げろ!」


爆発音。例えるならドラの音。間一髪のところで食堂から出ることができた。なんてことだ。鍋が爆発したじゃないか。これは違うよね私のせいじゃないよね。中在家を見ると、わかってる。と首を縦に振った。いいやつ。


「誰かが鍋に細工をしたな」
「中在家と私は別々の鍋で団子を茹でたからな」
「一体誰が…」


は、と視界の端に桃色がちらついた。中在家は、気がついていない。ああ、そうか。そういうことか。あらかた理解した。うん、くのたまの仕業か。逃げたところを一瞬しか見てないけどあれは四年生だ。見たことある。ていうかよく見るよどっちかというと見られてる気がするけど。中在家を見ると幸い何も分かっていないようで、曲者がいるような気配はないと呟いた。ああそうだ。曲者ではない。恐らく嫉妬。大方中在家に好意を寄せているくのたまちゃんが中在家と仲がいい私にムカついちゃったのね。うん、中在家を選ぶのは正解だと思う。それは誉めてやりたいのだが。


「中在家、今日はお開きだ」
「初子…」
「団子はまた後日!」


急いでくのたまの学舎まで向かったので、中在家がこのあと一人で食堂の片付けをしていたとは、私が知るよしもない。


「逃げるな」
「…っ!」
「佐倉先輩……!」
「鍋に細工をしたのはお前たちだな?」


追いかければ、わりとすぐに追い付いた。さすが六年をなめてもらえば困るよ。私が問えば、私の目の前にいる二人のくのたまはくしゃりと顔を歪め、泣きそうな顔をした。良心が多少は痛むが、だめだ。私はちょっぴり怒っているから。


「ご、ごめ、んなっ、さいっ」
「わ、わたしたち…っ」
「謝るな。お前たちは良しとしてあれを実行したんでしょ?」
「でも、でも!」
「もう四年生だ。責任を持て。そんな甘ちゃんは戦じゃあ役に立たないんだから」


でもね、と私は続ける。ひんやりとした気配を纏っているからか女の子たちは震えていて、殺気こそ出していないもののやっぱり、怖いとは思う。でもそれも、覚悟済みでしょ。


「中在家を好きになるのは仕方のないことだ。だがその中在家が怪我をするところだったんだぞ」


忍としての誇りがあるのなら、確実に目標だけを狙える攻撃をするべきだ。私を攻撃するのはかまわない。受けるつもりなんてないけど。分かった?そう、いっちょまえに説教をした。あ、なんか私先生みたいだな、なんて。しかし我が後輩がいっこうに顔を縦に振ってくれない。違うんです違うんですと、ついには泣き出してしまった。


「中在家先輩が怪我をすればよかったんです!」
「…は?」
「ダメダメな中在家先輩を佐倉先輩に見せた挙げ句中在家先輩には火傷くらい負ってもらおうと思って…っ佐倉先輩があのお鍋を使うだなんて予想外だったんです…!!」


忍たまなんかが佐倉先輩を独占するからいけないんだぁ!と目の前の後輩ちゃんは号泣。あー、ええと、つまりだな。どういうことだ、誰か解説頼む。


「佐倉先輩が怪我をしなくてよかった……!」


どうやら中在家に対して罪悪感はないらしい。いや、可愛いぞこいつら。えんえんと泣いて私の名前を呼ぶ。予想外はこっちだよ。ふ、と息を吐いて、まだ幼さの残るその子達の頭にそっと手を置いてやった。


「私が怪我するわけないでしょ、ほら、無傷」
「うっうっ…でも…!」
「お前たちの細工は素晴らしかったよ。気づかなかったからね。いい忍になれる」
「佐倉先輩!」
「おーよしよし」


これからは照れ屋さんな後輩も沢山可愛がってやろうと思いました。中在家、なんかごめん。



(団子と桃色涙)

「団子はまだかー!て、あれ。長次だけか」
「………。」
「なんで一人で掃除してるんだ?わははは!」