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そいつはなんでも大層奇天烈な格好をしているらしい。見たこともない着物、見たこともない装飾品、見たこともない身だしなみ。
そいつはなんでも空から降ってきたらしい。甲高い叫び声を発しながら、空から落ちてきた。それを咄嗟に受け止めたのが、土井先生。
そいつはなんでも大層美しいらしい。一国の姫かと見惑うような容姿、綺麗な肌。傷ひとつない四肢。
そいつはなんでも大層おかしなことを言うらしい。何かと思って私が聞いてみたところ、なんだったと思う?

私は先の世から来た天女である。

思わず笑ってしまった。これは、どこかのとち狂った阿呆だと思った。間者という疑いがかけられるわけもなく、放っておくわけにもいかず、逆に危険物になる可能性があるかもしれないと学園に連れて帰ったらしいが、それを判断した土井先生、ちょっと優しすぎるんではないか。


「天女を見に行く人!」


はーい!と、主に下級生がピンッと手を挙げた。中には当然上級生、六年生だっている。よくやるよなあ、なんて私は友達からの誘いをやんわりと断り、面白そうに騒ぎながら教室を出ていくみんなを眺めていた。
忍術学園に、天女が降りた。
それはもう、学園中は大騒ぎだ。我がくのたま教室では今朝からその話が飛び交い、いい暇潰しだと言わんばかりに天女を視察しに行った。もし間者か曲者か、学園に災いをもたらすような人物だと判断した場合は、即刻処分を。そんな穏やかではない言葉を呟きながら。


「天女、ねえ」


天の住人。ウーン、信じられない。私は天とか、そういうものはあんまり信用ならんのだ。この目で見たものしか信じない。そんなかっけーことは言わないし思いもしないんだけど、なんか、嘘くさいですよね。


「処分ですって。初子、聞いた?」
「私は賛成」
「でしょうね」


ふう、と私の友達のツユコがため息をついた。私も賛成。なんておまけのように言葉を付け足して。大体おかしいと思う。いきなり空から降ってくる時点で。人間じゃない。なんて思ったら、さすがに失礼だろうか。そもそも天女は、人間にカウントするべきなのか?


「…できればこのまま、何事もなく卒業したかったわね」
「え?…あー、うん…」


まるで何かを悟ったようにツユコが言った。私にはよく分からなかったが、きっと天女が来たことを言っているのだろうと思った。なのにツユコは「分かってないわね」と私の頭を小突く。痛くはなかったけどツユコには到底隠し事なんて出来ないな。と私はへらりと笑った。

なんでもないこの一瞬は、気づくことができないほどに愛おしい。




(天女様の降臨)
破滅か逃亡かそれとも救済か