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「あらま。本当に上級生がいないこと」
「…初子先輩、」


手始めに来たのが用具委員。ちょうど富松が倉庫へ入っているのを見たからだ。おじゃましてみると用具委員がせっせと用具の修理や手入れをしていた。でも肝心な委員長が見当たらない。ここの委員会の上級生は委員長だけだけど、あいつに限って委員会をサボったり放棄したりはしないだろう。風邪とかひいてなかったらな。


「食満先輩ならいませんよ」
「うん、予想はしていたけど少し驚いたよ」


富松がやたらとしらけた視線を送ってくる。その周りで「初子先輩だ!」と目を輝かせた一年生諸君は一気に私に飛び付いてきた。きり丸のときもそうだが、君たちはお姉さんに飢えてるのか。こんなに可愛いのは計算なのかと疑わしくなってくる。でも可愛いので一人一人の頭をこれでもかというほど撫でた。禿げちゃいますと怒られた。


「委員会は捗ってる?」
「そう見えますか?まあ今誰かさんが来たとしてもくその役にも立たないでしょうけど」
「…富松、誰かさんは私じゃないでしょ?」
「恐らく」


恐らくって!なんでこんな冷たいやつになっちまってんだこいつ。そんな私たちを、というか富松を見ていたしんべえと喜三太がいつものような陽気な声もなく困ったように笑っていて、少しびっくりした。こんな表情もできたのかお前たち。


「木佐木綴は何組だったか」
「…先輩までそいつの名前を呼ぶんですか」
「え?」
「ろ組っすよ。俺と一緒」
「あらまあ、ねえ、そいつ強いの?」
「わかりません」
「わかんないっておい――…」
「知らねぇよそんなの本人に直接聞けばいいだろ!!」


ガシャンッ!!
富松が持っていた忍具が、激しい音をたてて床に落ちた。しん、と静まりかえった倉庫。「あ…」と、富松は少し気まずそうな顔をして、走ってどこかに行ってしまった。喜三太が慌てて追いかける。しんべえも心配そうに入り口へ向かい、富松の名前を小さく呼んだ。笑って済ませるつもりだったのだけど。走り去った富松から床へと視線をずらし、床に散らばった忍具をぼうっと見つめているとその視界に入った水色の井竹模様の制服。小さな手が、私の手を握った。


「……初子先輩、」
「…ごめんなあ、平太。委員会中に。富松が戻るまで私が手伝うよ」


へらりと笑って忍具を拾い上げる。その苦無や手裏剣は手入れ不届きで錆びがきていたり欠けたりしていて、なんとなく寂しい気持ちになった。うーん、嫌われちゃった、かな。そのあとも富松は戻ってきたけれど、私は一言も話しかけることができなくて、尻尾を巻いて逃げてしまった。ああ、なんだろうこの感覚。前にも感じたことがあったような気がするけど、うん、忘れてしまった。


「くるしいわあ」


こんなときは土井先生と山田先生に会うべきかな。そう考えて、やめた。そもそもここには委員会を見て回ると言う名目で、来ているのだから。



(予想図の裏側)
期待と現実と淡い願望