26

まあ大きな傷というものはそこからバイ菌が入ってきて高熱とか出がちなわけだけど、それはさすがの私というか、眠っている間に熱は下がったらしい。新野先生のおかげもあると思う。
まあ食欲も旺盛だし回復も順調。私自身は元気で健康なんだけどまだまだ動き回るわけにはいかないらしく、一人部屋で暇して暇して暇して暇している。竹谷にも土井先生にも会いたいんだけどなあ。ツユコは見舞いに来てくれたけど腹見て大笑いされたよ酷すぎ。でもそのくらいの反応の方が楽は楽。


「外…出てみようかな」


ちょうど今は新野先生は出張中だ。包帯は三反田に変えてもらってる。善法寺は私が怪我をしたのを知らないらしい、というか、学園側のえげつない配慮のおかげで今のところ保健委員の委員長は代理で三反田らしいぞ。もちろん善法寺はそのことを知らない。つまりいつまでも女のケツ追っかけて仕事サボってんじゃねぇぞってことなんだろうな。もっと言えば諦められてるんじゃないかな。
ツユコの情報によれば生物委員は正常に運営ができていて、会計委員もそれなりにまとも…と言っても田村のおかげでギリギリ活動できている状態みたい。田村はすごくお疲れらしいけど。火薬は特に大がかりな仕事もないおかげか問題という問題もないけど土井先生の胃が堪えれるかなって感じ。体育委員に関しては活動停止中。七松のことだから闇雲にただマラソンしてただけではないと信じたいけれど、活動停止となれば委員の体の鈍りが心配だな。用具委員と図書委員は今やもうくのたまが助けてやるしかないんじゃないかって話になっている。作法も斜堂先生のおかげでなんとか活動はできてるみたい。学級委員長委員会は助っ人として様々な委員会で活躍中とのことだ。と言っても一年生なんだけど。
以上を聞いてから妙に落ち着きを失ってしまった。ちょっとちょっとやばいんじゃないですかねえこれ。特に用具と図書どんだけやばいんだろう。これは寝てる場合じゃねーだろ。勢いよく布団から出たらやっぱり腹に激痛が走ってしばらく動くことができなかった。ガッテム。


「あら。芋虫遊び?くそつまんなさそうね」


そんなとき本日二回目のツユコ。彼女はよく見舞いに来やがる。まあ行儀見習いの子なんて鍛練とかそんなにしないしね。筋肉ついても困るし。多分暇なんだと思う。ていうか芋虫遊びってなんだ。腹押さえながら畳に倒れて悶絶してる状態のことを言っているのか。ふっざけんなまじふっざけんなよ。


「あのさあ、この部屋って保健委員以外は男子禁止だったわよね」
「うん基本は。誰かいるの」
「竹谷がそこでうろうろしてんの。キモいんだけど」
「え。なに、なになに竹谷いんの。いいよ入れてあげて」


面倒くさ…なんてぼやきながらツユコが竹谷を呼びに障子を開く。あ、本当だ竹谷がいる。隙間からきちんと竹谷は見えて、なんか目があったような気がしたから手招きしてみた。
ちなみにまだ芋虫遊び中だ。傷口がドックドクいってる。こんな状態で竹谷には悪いけど。ツユコ布団に戻しておくれよ。冗談半分で言ったら仕方ないなあなんて言いながらちゃんと布団に戻るの手伝ってくれた。なんだかんだ優しいあなたが私は好きよツユコ。


「お、俺入ってもいいんですか?」
「いーよー。おいでおいで」


遠慮がちに部屋に入ってきた竹谷の左足は固定されてた。私が言うのも何だけど痛々しい。思わず顔をしかめてしまった。竹谷も同様、私のこの情けない状態を見て悲しそうな顔をした。そんな私たちを見てツユコはため息。席を外しましょうか?その言葉を大きく拒否したのは竹谷だった。


「ふはっそんなに二人きりは嫌か」
「い、いや!そういうわけじゃ…!」
「まあいいよ。調子はどう?その足じゃいろいろと大変でしょ」
「俺のことよりも初子先輩は…」
「私は布団に入ってるだけだから心配することないの」
「…あの、俺……すみませんでした、」


本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げた竹谷を見て、私はさて、どうしたもんかと笑った。うまくは笑えていないだろうけど。
そこはせめてお礼が聞きたかったぜ竹谷少年。いや、お礼もいらないけどさ。なんのために私が必死こいて助けたのか。まあ最終的には土井先生のおかげだけど。


「俺が鍛練を怠っていたからこんなことに…っ」
「そんなこと知らないよ」
「…、はい」
「お前の怪我はお前のミス。でも私の怪我は私のミスだよ。私だって同じように鍛練不足なんだよ。自己管理もちゃんとしてなかった。お前が謝ることじゃない」
「でも俺…っ」
「私はお前が生きているだけで、とても嬉しいよ」
「…っ!初子せんぱぁい」
「情けない声を出さないでよ」


それに情けない顔だ。後輩に無駄な気苦労はかけたくないからなあ。竹谷は自分の心配だけしていればいいと思う。まったく、可愛い後輩だこと。


(無効な謝罪)
心配するのは先輩の役目だ