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「竹谷、天女様については今どうなってるんだ?」
「え?」


どうせならば、忍たまに色々聞いてしまおうと思った。くのたまの子から聞いても問題ないんだろうけど、またこっちの話とは観点が違うだろうから。
でも竹谷は困った顔をした。な、なんだ言いたくないのか。ちゃんとした理由があったらいいけどさ。


「あの…あんまり忍たまを責めないでやってください」
「…それは無理」
「…、そう、ですよね」
「言われて良い気はしないだろうけど今の上級生はカスだね」
「返す言葉もありません」
「で、どうなってるんだ」


言いたくなさげにしていたけど、竹谷はちゃんと話してくれた。
天女、木佐木綴は三年ろ組に編入。見目麗しく菩薩のような心の持ち主。くのたまにはいないような女性の存在に忍たまは次々と惹かれていく。しかし、それだけではない。


「すっげー強いんです」


まるで忍びとして生まれてきたかのような身のこなし。無駄ひとつない動きに男をも上回る力量。三年生はそれが悔しくてたまらないらしく、故に木佐木綴は三年生に嫌われている(多分それだけではないと思うけど竹谷が言うには、だ)。でも上級生はそれを見てさらに木佐木綴に目を奪われる(思考も奪われとる気はするけど)。もっと彼女のことが知りたい。なんとか自分のものにしたい。そうして今の状況が出来上がっている。なんとか木佐木綴に自分のことを見てもらうために。


「…ちょっと待て」


話を聞き終え、なんていうか自分で聞いておいてなんだけど、腹が立ってきた。なんだそれ。おいおい、これ惚れるとかいう前に明らかにおかしい点があるだろ。


「木佐木綴にそれほどの力量があるなら、間者の疑いはどうしたってんだ!私は普通の人間だって聞いたんだけど!?」
「…あ!た、確かに…っ」
「気が付かなかったのか!?学園長は何を考えているんだ…!」
「それについてだけどいいかしら」


さっきからずっと外野を貫いていたツユコが意外にもここにきて口を開いた。私は思わず息をのんで続きの言葉を待つ。竹谷の表情も幾分かしまったように見える。


「間者でない、と偽った者がそうやって自分の強さを露見するなんてあまりにも浅はかだから」
「…な、るほど」
「一部は疑いすらしなかったみたいだけど」
「…すんません」
「あら、誰も竹谷のことだなんて言ってないわ」


ツユコ、それは言ったようなもんだ。でもなるほど、一理ある。そんな軽率な奴は間者として送り込まない。いや、待てよ、その裏をかいたという恐れはないだろうか。いやいや、そう考え出したらキリがない。でもこれは分かる。怪しすぎる。怪しすぎるぞ木佐木綴。ちょっと戦ってみたいとも思うけど、空から落ちてきて私は天女だ未来人だと言って、挙げ句の果てにはむちゃくちゃ強いだと?天女というのはみんな強いのか?なんにしても怪しすぎる。


「私が思うに、天女だというのもあながち嘘じゃないわ」
「なんで?」
「有り得ないからよ。空から落ちてきたのも、あの変な服だって、あの布、この世のものじゃあないわ。それに加えて女でその強さ。有り得ないから、木佐木綴が"有り得ない存在"だと認めてしまった方がわけの分からないことも合点がいくでしょ」


多少無理矢理だけれど一番自然な考え方じゃないかしら。
そう落ち着いて話すツユコに、私は拍手を送りたくなった。なんて冷静。なんで行儀見習いなんだ絶対くノ一としてでもやっていけるよ。いや、実技があんまり得意じゃなかったなこいつは。
それは置いといて、だから学園長は木佐木綴を追い出すことはせずにずっとここに置いている?授業料とかはどうなってんだろう。いやそれも置いといて。本当に学園長は何を考えているんだ。いくら間者ではないからと言って、これでは学園が危険だ。先日の私と竹谷の忍務失敗がいい例だ。このままの状態が続いてそれが外部に漏れて一番危ないのは学園長先生だ。…これは一度お話した方が良さそうだな。よっぽどの理由がない限り私は帰らないぞ。


「とりあえず委員会が心配だな」
「くのたまも一応、手を貸すことになったわ」
「え!?本当ですか…!」
「喜ぶところじゃないわ竹谷。恥を知りなさい」


すんません…、まさにしゅんって感じで俯いた竹谷が少し可哀想に見えた。そ、そんなに怒んなくても、竹谷はちゃんと委員会出てるんだから。とフォローはさせていただいたんですけど、「馬鹿に救いの余地はないわ」なんて言って、竹谷は余計に落ち込んでしまった。ごめん竹谷。私にお前は救えない。


「でも問題は用具委員よ。いくらなんでも壁とか屋根とか床とかの修理なんて女じゃ無理があるわ。当面は富松、吉野先生で頑張らせるつもりだけど」
「私が用具を持つよ!」
「バカ言わないで傷えぐるわよ。食満がどうにもならないなら竹谷、あんたがやるの」
「え!?お、俺!?」
「3日で怪我を治せ。気合いで治せ」
「う、うっす…」


それはさすがに無理があるだろとは思ったけどなんかツユコ様怖いです。しばらくは逆らわずに言うこと聞こうと思います。…私も気合いで治そう。



(問題、考察、措置)
ツユコ様最強説浮上