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気合いで、3日で外出できるくらいには回復いたしました。少しなら走ってもいいって言われたよ。出血もなくなったし傷はもう塞がりかけだし、やったね。教科や作法の授業ならもう出れるって。


「ひゃっほぉ!」
「ああっ先輩はしゃがないでください!」
「いやあ、嬉しくて、つい」
「ったく、もう」


医務室の前で大はしゃぎしたら三反田に怒られた。なんか逞しくなったわねあなた。上級生がいないと三年生てこんなもんかしら。
そういえば、著しい回復を見せた私は無事自分の部屋に戻ることができた。私がいない間にすっかり綺麗になってた。ツユコが片付けてくれたらしい。隠しておいた菓子はなくなってたけどありがとうツユコ。


「よおし三反田!鬼ごっこしよう鬼ごっこ!」
「僕の話聞いてました!?」
「そ、そんなに怒んないで…」


ふむ。冗談も通じない辺り結構切羽詰まってんな。そりゃそうか、善法寺がいないから薬の調合とか大変だろうな。薬草育てるのも採るのも楽じゃないしね。
腕を組みながらボーッと突っ立って中々忙しそうな三反田を眺めていると煩わしかったのか、ぎろりと睨むように見られ、まあ大して怖くはないのだがさすがに申し訳なくなってきたからそろそろお暇することにした。
しかしくるりと背を向ければ呼び止められる。どうした?再び三反田を見れば、そいつはこちらには目を向けることなく作業を続けながら、ぽつりと呟くように、だけどしっかりと「作兵衛に…会いに行ってやってください」と、そう言った。


「富松…?」
「八つ当たりしてしまった!どうしよう!嫌われたかな嫌われたよな!?って焦りながら落ち込んでましたよ」
「あら、ら…」


さらに聞けばそれも私が怪我する前の話だから今はもう屍のようになっていると言われた。富松まさかお前そんなことになってたのか。毎日大変らしいしな。そうか気にしてたのか。実は私も、なんて。ありがとう三反田とお礼を言えば別に…とこれまたあららな返事がきた。川西もそんな類だよな。なんて言うんだっけそういうの。ええと、つんつるてんみたいな感じ。そうそう、そんな感じ。違う気もするけど。
うん、なら、行こうかしら。なんだかちょっと緊張するけど。だって一番最後に会ったのすごく気まずいあれだったもんな。


「でもなあ、三反田。私どんな顔して会いに行けばいいか…」
「どんな顔でもいいですよ。…ああ、あと、多分いないと思うんですけど一応」
「ん?」
「ろ組なんで、あいつがいてもおかしくないからお気を付けて」
「あいつ。えーと、木佐木綴?」
「…名前も聞きたくないんですけどね」
「そ、そうなの。なんかごめん」


すごい嫌われようだ。どうしてそこまで嫌われてるんだって、やっぱな、大事な先輩とられてるし、そいつがいるから委員会も大変なことになってるんだろうからなあ。
話を聞く限りじゃ多分そんなに鍛練もしてないみたいだから、それですごい強いんじゃ嫉妬心もあるだろう。私なら確実に闘争心芽生えちゃう。
じゃあ、そうだな、と呟いて、顎に手を添えた。富松のところに行くか。
包帯を巻き直してくれた三反田と別れて、教室の方へ歩きだす。もちろん忍たまともすれ違うけど、わりと仲いいかなって感じの五年に「お久しぶりですね。長期任務にでも行ってたんで?」とか言われちゃって少し笑えた。違うよ。大怪我して外に出してもらえなかったんだよ。三反田に私の大怪我はもう知れ渡ってるとか言われてたんだけど、案外そうでもないようで。いやそれとも、やっぱり上級生は情報に鈍感になってると解釈するべきなのか。


「あー!初子先輩!」
「っな、なんだ!」


ビクンッて面白いくらい肩がはねあがった。いや、前から誰か来るとは思っていたんだけど、まさか大声で私の名前を呼ばれるとは思わなくて。
すごい勢いでこちらに走ってくるのはあれだ、決断力バカ、神崎左門。ちなみに富松と同じクラスのやつだ。
一体なんなんだよ。ドキドキしながら神崎がここに着くのを待っていたら、なぜかあいつはあらぬ方向にがくんと曲がってしまった。


「……。」


あのな、私はもうこれは方向音痴とかいうレベルではないと思うんだ。な、みんなもそう思うだろう。
はあ、とため息もそこそこに、屍みたいになってる富松に更なる仕事が増えてもいけないので私は急いで神崎を追いかけた。


「神崎!神崎待て!」
「あれ、初子先輩がなぜ背後に…!?」
「それはいい。私に何か用があったんじゃないの?」
「そうです!大変なんです!」
「大変?何かあったの」
「富松と天女が…、喧嘩を始めたんです!」
「ええ!?」


だから初子先輩、止めてください!
そう言われたら木佐木綴がいようとも行かないわけにもいかない。そもそも富松に会いに行く予定だったんだし。
神崎はあてにならないから場所を聞き神崎の腕をひっ掴んで走り出した。その途中で詳しいことを聞いた。
忙しさに身も心も疲れきっている富松に木佐木綴が労りの言葉をかけたらしい。でもそれは逆効果で、富松からしたら誰のせいだと思ってるんだって、だから冷たく当たったら木佐木綴はそれが気に食わなかったらしく、口論に発展。しまいには「私より弱いくせに!」なんて、そんなこと言われて富松もさすがに堪えられなかったらしい。


「富松、殴ったのか」
「はい!すっきりしました!」
「はああ、お前は素直で可愛いな」
「あ、先輩!教室はこっちです!」
「このお馬鹿ちゃんそっちは長屋だ!」


ああ、こんなに走って、また三反田に怒られちゃうかな。



(若気のいたり)
若さ故ってやつかしらね