03

「せんせーおみやげー」


今日は実習だった。色の実習。
内容は男に小さなものでもいいから貢がせるというもの。
私は簪と着物と団子をいただいた。ので、土産として先生にあげることにした。シナ先生には実費であげているから問題ない。
それにしても、いやあ、着物は意外だった。おかげで今日の実習はトップだ。たまたま目をつけてもらったのが武家の偉い手さんで私は大層気に入られたらしい。おっと。勘違いしてくれるなよ。私は鉢屋ほどではないけど変装は得意分野なんだ。つまり実習は違う顔でしていたんだ。


「これ、城下街にある銘菓の高い団子じゃないか」
「いいもん貰ったな」
「一張羅の着物で出掛けたらどこかの金持ちと勘違いされた。変装しててよかったよね」
「その一張羅も貢ぎ物か」
「あたり!」


にかっと笑うとなんでかは知らないが山田先生に頭を撫でられた。
嬉しくてもっともっとと擦り寄るけど今度は土井先生に頭を叩かれてしまいあえなく失敗した。


「土井先生痛い!」
「そんなんじゃ貰い手もなくなるぞ」
「あー…」


確かに。と頷く。私には恥じらいもなければデリカシーもないし慎みっていうのが皆無だったりする。しかも小さな頃から忍術を習っていたためか、イマイチ自分が女なのかどうかも分からない時がある。だから色の授業は好きだ。その時、私は確実に女であるからだ。


「土井先生私を貰ってー」
「ば、馬鹿を言うんじゃない」
「あ、ちょっと待てよ。じゃあ私はきり丸の母ちゃん的ポジションになっちゃうのか?それはやだなあ。あいつは弟だもん」
「一人で話を進めるな」
「じゃあやっぱり利吉さんだー。山田先生、利吉さんを嫁にください」
「お前なんかに利吉はやらん」
「酷いケチ!」


利吉さんは山田先生の息子さんで今はフリーの忍者をやっている。
かっこいいし強いし売れっ子だし、くのたまにもファンがいて忍たまくのたまの憧れの的だったりする。
そんな人と夫婦になれたのなら、これ以上の幸せはないだろうな。
しかしその父君からお許しがいただけない。過保護だ過保護。目が本気だ。


「じゃあやっぱり土井せんせー私と結婚してー」
「やっぱりってなんだやっぱりって」
「接吻接吻」


ちう。と、呆れる土井先生の唇に軽く吸い付いた。カッサカサ、荒れているな、なんて感じながら土井先生から離れると、顔を真っ赤にして固まっているその人が見えた。


「あら、山田先生。土井先生って初なんですか?」
「あんまりからかってやるな佐倉」


もう私は知らんぞ。と顔を逸らした山田先生をボーッと眺めているとガシリと何かに頭を掴まれた。なんだなんだとそっちの方を向こうとするが、如何せん、力が強くて頭を動かすことができない。視線だけを動かすと、私の頭を掴んでいるのは土井先生の手だということが分かった。


「佐倉〜……あまり大人をからかうもんじゃあない!!」
「いやん土井先生。お顔が般若のようだわ」
「佐倉!」
「逃げろー」


私はなんとか土井先生の手から脱出すると、脱兎の如く逃げ出した。
そしたらなんか土井先生が鬼のような形相で追い掛けてくるものだから、死に物狂いで私は走った。



(土井先生と接吻)
捕まるまであと10秒