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「次は私だ……」


ちり、と頬に痛みが走った。縄ひょうだ。次は中在家か。
油断して瑞々しいもちもちのほっぺたに傷をつけてしまったよ。あんなに優しかった中在家が嘘みたいだ。悪魔のように笑いながら、再び縄ひょうを飛ばしてきた。


「んー、中在家とはあんまり戦ったこと、なかったよねえ」
「悠長に喋ってる場合か…?」
「んー?悠長に喋らせてるのは中在家じゃあないか」
「…。」


おっと、次は手裏剣が飛んできた。当たったらひとたまりもないけれど、当たらなければいいじゃない。
軽々と避けてみせるがその瞬間には中在家は目の前。そのまま腹をガツンと殴られた。
やばい。


「っ!!」


強烈な痛みが脳みそを突き抜ける。腹の傷口を思い切り殴られてしまった。
思わず膝をつきそうになるがなんとか耐えることができた。そのまま中在家のスネを豪快に蹴りつけ、フラつかせたところ、頭にも思い切り回し蹴りをおみまいしてやった。
そのまま倒れた中在家は動かない。


「さあ、あと2人だ」


また、笑って見せたが、じんわりと腹から血が滲むのを感じた。


「私が行こう」


火薬の臭い。
気づいた頃には足元に焙烙火矢が転がっていた。このままでは中在家が巻き込まれる。
すぐにそれを手に取り空へ投げつける。その瞬間、花火のようにそれは爆発し、はらはらとその屑が落ちてきた。


「立花!中在家も怪我をするところだったぞ!!」
「お前が焙烙火矢を投げ飛ばすくらい分かっていたからな」


言ってくれるぜ。
正直六年の中で一番やりづらいのが立花だ。感情があんまり読めないし、常に冷静沈着。次の一手が読めない分、勝負をするといつも苦戦する。


「仙蔵、加勢するか?!」
「必要ない。貴様の出る幕はないわ」
「なんだと!?」
「うるさいよ潮江。黙って貧乏ゆすりでもしてろ」
「っ!」


懐かしいこの感じ。よく二人で潮江を馬鹿にしていたものだ。
怒りのせいか震えている潮江を横目に、私は気へ飛び移りその中に身を潜めた。
あいつはやっかいだ。頭がいいし、身軽だし。さて、どうしたものか。
カッコつけて武器使わないとか言っちゃったし。
ううむ。と悩んでいると突然背後から誰かに捕えられる。その拍子に立花がこちらに気づき手裏剣を投げてきた。


「ちっ」


私を取り押さえたそいつは舌打ちをし、私を抱えたまま走り出す。
私はすぐにそいつの正体に気づくことが出来た。


「食満…?」
「……。黙ってろ」


舌を噛むぞ。
私がそんなヘマをすると思うのだろうか。もしかして食満は私を殺しにきたのだろうか。
背後を取られた悔しさで考えたくもないことを考えてしまったが、どうやらそのつもりはないようだ。
食満が考えていることはわからないが、とりあえず私は食満に身を任せることにした。
何が起こるか、私にも分からない。