36

裏裏山まで来た頃、ようやく食満は私を解放してくれた。
丁寧に腰をかけれそうな岩へ私を降ろし、「突然すまない」と謝った。
何が何だかわからかい。どうしたのかと問えば、食満は私の肩をがしりを掴んだ。


「な、なんであんな危ねぇことしているんだ!?男四人相手に…さすがに初子でも勝てないぞ!」
「……えっと」
「あいつら今普通じゃない!初子を殺すつもりだ!」
「食満……?」
「俺だってやっと正気に戻った!とにかく綴と勝負なんてやめろ!お前が死ぬぞ!!」
「食満!!」


勢いよく何かを吐き出すようにしゃべり続ける食満にパチン!と軽く平手打ちをし、一旦黙らせる。ろくに息継ぎもせずに喋り続けていたためか、深く深く息を吸った。
理解がまだ追いついてないけれど、正気に戻った?
食満は、いつもの食満に戻ったのか。
あの、残酷な目で富松を見ていた食満ではないというのか。


「いつもの、食満?」
「ああ、初子のことをめちゃくちゃ愛している、食満だ!」
「うわっ!うざい!!」
「ああああ初子!ずっと会いたかった!」


突然抱きしめられ思わず脇腹をつねってしまった。地味な痛みに食満は怯むどころか「こういうのも久しぶりだ!!」と余計に強く抱きしめてくる。
まあ、確かにこういうの、久しぶりだ。


「食満は、富松に何したかわかってる?」
「わかってる。さっき、用具倉庫に行ったんだ」
「うっそ。みんないたでしょ」
「いた。みんないた。もう、俺…」
「殴ってあげようか?」
「もう殴られた」


富松に。と笑う。涙が出そうだ。
本当の本当に食満だ。正真正銘の食満だ。


「初子が元に戻してくれた」
「え?」
「あのあと、考えてたんだよ。なんか久々に初子に会った気がして、初子がすごく強くなったように見えて、俺今まで何やってたんだって、目が覚めた」


思わず、抱きしめ返す。心の底から喜びが溢れ出てくる。
自分で、一人でから回ってるようにも思えていた。でも動かずにはいられなかった。
あの生活が愛おしかった。
あの学園を取り戻したかった。
だから無茶もできた。


「嬉しいよ、食満」
「っ、初子……やっぱり俺にはお前だけだ…」
「それは知らんけども」


無駄ではなかったんだ。食満が戻ってきてくれた。
食満の肩をおし、私から引きはがす。名残惜しそうにするが別に私たちは愛を語らう仲ではない。
せっかく座らせてくれたが、私は腰をあげる。
ズキンと腹が痛んだ。


「さて、私は行かなきゃ」
「っだから、危ねぇって」


危ないくらいじゃあなきゃ、面白くないだろ。と笑ってやった。ちょっとやそっとの怪我、なんてことはない。