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いざ、決戦の時。


「え〜お弁当、お弁当いかがっすか〜」


きり丸の調子のいい声。なぜか特設ステージまで出来ていた。
用具委員が夜なべで作ってくれたらしい。みんなの目の下にはクマができていた。


「……勝負だなんて、野蛮な人だなあ」
「こんな大事になるなんて思わなかったからね」


木佐木はどこか余裕そうに見えた。
萌黄色の装束は、未だに真新しく目立った汚れは見えない。


「ルールは?」
「木佐木が決めていいよ。なんでもいい」
「……じゃあシンプルに、組手はいかがかしら」


私負けないから。と強気に笑う木佐木に、私はわざと頷いた。
私は直接木佐木の戦いを見たことは無い。
みんなが言うには強いのだろう。戦いなんて知らなさそうな体をしているのに、圧倒的な才能がある。
私は強いやつは好きだし、強いやつと戦うのは楽しい。
木佐木が厭らしい女だとしても私は別に気にはならないが、どうしても気に食わないところがあった。


「ぬるいだろ。武器はありだ。先に攻撃を入れられた方が勝ち」
「結局あなたが決めるの?」
「そうだな。……私は先輩だからな」


先輩に敬語くらい使えよ。
この世は縦社会。決して仲良しこよしでやっていけるような、世の中ではない。


「私は苦無を使う」
「……私に武器なんていらないわ。センパイなんか素手で十分でしょ」
「怖いのか?」
「……なにが?」


人を刺すのが怖いのか。
木佐木の顔が強ばった。
それがこの勝負の勝敗だろう。

しかし、天女の力というのは予想もできないものらしい。


「そっ、そうよ……人をけがさせるなんてっ、わ、わたしできないっ」


見た目の麗しさも相まって、一瞬、目を奪われてしまった。
木佐木は突如、泣き崩れた。


「いってええ!!!」


猛烈な腕の痛みに、私は我に返る。
あまりにも突然で理解が送れたが、私の腕に、手裏剣が刺さっていた。


「……立花、」


手裏剣の主は立花仙蔵。
仙蔵の美しい顔は、まるで閻魔大王のように、怒りで歪んでいた。