04

私でも苦手なものはある。
面倒なことにややこしいことに迷惑なこと、鬱陶しいことでしょ。
まあ好きな人はいないと思うけど、うるさい人とか暑苦しい人とか鬱陶しい人もそう。
とにかく、私でも苦手なものはある。しかもそれをギュッと詰め込んだような人が、ここ忍術学園にはいるから、たまったもんじゃない。


「食満くんって、かっこいいよね」
「げ」
「体育委員長は可愛いし」
「うげ」
「潮江くんだって威厳があるわ」
「………。」


もうガールズトークについていけない女子がここに一名。きゃいきゃいはしゃぐ友達の後ろでぽつんと取り残された私は疎外感からか少し涙が出そうでした。
私の苦手をかき集めたような人物が、さきほど全員名前があがった。

六年い組 潮江文次郎
六年ろ組 七松小平太
六年は組 食満留三郎

私はこの三人が、苦手だ。
熱血だし、うるさいし、鬱陶しいし、無駄に元気だし。いや、嫌いなわけではないのだが、苦手、というか、なんというかすごく面倒なのだ。そいつらの相手が、かなり面倒臭い。


「初子が羨ましいわ。あの3人に好かれていて」
「そんなことない」


そう。断じて、そんなことはない。羨ましいなどと、あの厄介さを客観的に見ているからこそ言えるもの。あれは、疲れる。本当に言葉通り、ただ疲れる。


「初子―――!!!」
「噂をすれば!」


ごめん先行ってる!そう言って私は友達を置いて走り出した。あの声は食満だ。
ああもう次は実技で裏裏裏山までマラソンした挙げ句、組み手とかいう鬼授業だから今から体力は使いたくないのに!
このまま逃げても仕方がない。なんせ相手は男。すぐに追いつかれてしまうだろう。現に声が段々近付いてきている。


「初子ー!なぜ逃げるんだ!!」
「ちっ」


どうしよう。このまま逃げれば体力が。しかし、掴まれば精神力が。しかも掴まった場合は体力までも削られるだろう。どっちも御免被る。


「初子―――!!」
「うるさいなあ…っ」


ならば。私は上を見上げる。あの木に身を潜めよう。大丈夫。私は気配を絶つことだけは、プロ並なのだから(立花公認)
すぐに木によじ登って気配を絶つ。下から様子を見ていると私の名前を叫びながら食満が走り去るのが見えた。ため息が出る。ていうか今までかつてないほど追い掛けられた気がするんだけど気のせいか?なんたって、食満ったら今日はこんなに元気なんだろうか。
いつもなら割とすぐに諦めてくれるんだけど。少し不思議に思いながら、食満の声が聞こえなくなったところで私は安堵から、深く息をつくと木から降りようと枝に手をついた。はずだったのに


「初子、つーかまーえたー!!」
「ぎゃあああ!!!」


後ろから、手。その手は私を抱え込み、ぐっと後ろに引き寄せられたお陰で私はその衝動で木から落ちていた。もちろん、私に抱き着いたその人を下敷きにして。


「っ!七松!!お前いきなり何してくれんの!!ていうか大丈夫!?」
「私は平気だ!初子は優しいな。柔らかくていい匂いがするし!」
「どこ触ってんだてめぇえ!!」
「初子!!やっと見つけ…うぉおおおあああ!!!!小平太!初子から離れろ!!」


ああ、叫んだからだ。食満に見付かってしまった。顔面蒼白で駆け寄ってきた食満が私を七松から解放してくれたのだが、今度は食満の腕にすっぽりと収まってしまう。ほらみろ。こんなだから体力も精神力も削られるんだ。
ああ、面倒なことになった。



(日常と面倒事)