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「いやああああ!」

甲高い叫び声とともに、木佐木は私に殴りかかってきた。
表情は似つかわしくなく恐怖で歪んでおり、それでもどことなく彼女の器量の良さは残っている。
さて、お手並み拝見か、と思わずゴクリと喉をならす。しかし、どうにもおかしい。
振りかぶる腕の動きは鈍く、思わず手のひらで受け止めるが随分の軽い。
これが六年とも平等に戦える実力の持ち主なのだろうか。
どうにも、おかしい。

「きゃあ!」

足を軽くはらえば簡単に転び、膝を擦りむいただけで蹲る。
思わず、「はあ?」と、下品な声を出してしまった。

「ご、ごめんなさい……、戦えない、ごめんなさい」

ぼろぼろと涙を流す木佐木を見て、どうにも理解ができない。
こいつは本当に強くて、忍たま6年とは互角に戦うと聞いたが。

「だって、本物相手には力が効かないもの……」

これは、罠なのだろうか。どう反応していいかわからず、ぼそぼそと喋り始めた木佐木の話を、とりあえず、私は聞いてみることにした。

木佐木は遠い未来で生まれたごくごく普通の人間であり、武道の経験もない
15歳を迎えようとした矢先、その未来では事故に遭い死んでしまう
その時、死後の世界で神と名乗る人物に遭遇する
その神は
「願い事を3つ、叶えてやろう」
と木佐木に話を持ちかけた
怪しいと思いながらも、死んでいるのにそれ以上の絶望もないと、木佐木は話にのった。その時の願いが、
私たちの住む世界に行きたいということ
その世界の男性を虜にしたいということ
攻撃対象にならないために、戦いには達者であるようにしてほしいということ
その願いを聞いた時、その世界には対象外の人物がいると神に言われる

「その世界には既に、本物がいると」

早い者勝ちでその本物には力は効かないと、それでもいいならという条件で、木佐木はここにきた。
どうにもこうにも、
その話をきいて私は返事もできなかった。
どういうことか。理解ができず。それは周りも同じのようで、ギャラリーもぽかんと口をあけていた。
つまりそれは、どういうことなのか。

「考えるだけ無駄よ。分かるわけないから」
「ツユコ!」
「でも彼女の言っていることは真実」

その観客の中にいたツユコが、少しずつ前へ出てくる。既に混乱している私には、言い方は悪いが迷惑な情報だ。あまり目立つようなことするタイプではないのだけれど。

「木佐木綴の世界には、遠くにいる人と連絡が取れる道具があったり、自動で動く車があったりしてね」
「ツユコ……?」
「空を飛ぶ乗り物もある」
「あなた、もしかシッ、ーーアッ」

ドサリと、重たい音とともに、木佐木が倒れた。
喉元には苦無が突き立てられ、木佐木は音もなく口をパクパクと動かしている。

「ツユコ…なんで……?」

ツユコはその苦無を抜くと、木佐木の喉からは大量の血が吹き出した。
その血はツユコを濡らし、それでもツユコはお構い無しに私を見て、笑った。

「あなたが好きよ、初子」

その姿はどこか艶めかしく、耽美で、私の時間は、一瞬止まる。