06

私はすっかり失念していた。
厄介な人物が、もう一人いるということに。


「先生。なぜ六年い組がここに?」
「言ってなかったかしら」


言ってません。けど山本シナ先生に私ごときが言い返す勇気もなく、心の中でため息をつけば、その、できれば見たくはない人物と一瞥した。
どうやら今日は六いも交えての授業らしい。


「、初子…」


おいおいなんだその顔は。なんであいつは泣きそうな顔をしてるんだ。ギラッと睨むようにしてそいつの隣にいる立花に矢羽音を送る。私を睨まれても困る。という返事が返ってくるのに時間はかからなかった。


「では今から裏裏裏山までマラソンをします。いきますよ」


ピッとシナ先生の笛が鳴って生徒はどんどん出発する。私は最後尾をゆっくりだらだら走ることにした。多分、あいつらは精力出して先陣きってるに違いない。
己の身を案ずることもまた、忍の仕事であるんだと尤もらしい理由をつけておく。


「だったはずなんだけどな」
「仕方ないだろう。文次郎は酷く落ち込んでいる」
「見たら分かるわい」


いつの間にか最後尾がその厄介者、潮江文次郎になっていたのだ。私は今潮江の5メートルほど先を走っている。どよーんとした空気が鬱陶しい。中在家や斜堂先生は鬱陶しくないのにこいつはうざい。
ていうか普段が暑苦しいだけにうざさは最高潮だ。ギンギンはどうしたギンギンは。いやギンギンされてもうざいのには変わり無いんだけど。
何だかんだそんな潮江のペースに合わせてやっている立花は生粋のサドだが実はいい奴で、今は私の隣をゆっくりとしたスピードで走っている。
はあ。
立花とため息が重なった。


「どうにかなんないの」
「ならん。お前が土井先生にしたように接吻でもすれば元通りだろうな」
「…悪化するんじゃない?」
「確かに」


じゃあもう無理だな。
なんて立花は意地悪く笑う。
私はまた、ため息をついた。


「潮江」
「な、な、なななな」
「あーいい。もう何も喋らなくていいから、聞け」
「……。」


立ち止まって後ろを向く。
それに気が付いた潮江もまた立ち止まり、動揺したように目を泳がし、呼び掛ければ吃った。


「お前に元気がないといつもの倍はうざい」
「う…、」
「まあ、なんていうか、潮江は忍術学園一ギンギンに忍者してる姿が一番だと思う、よ」
「…っ、初子…」


潮江の頬が赤く染まった。うっわすっげえ面倒臭い。早々に踵を返し立花の後を追う。でもまあこれで少しはマシになったんじゃない。そう、思った。


「初子!!」
「ひぎゃああ!」


なにかとてつもない足音がすると思い恐る恐る振り返ってみればすぐ後ろに腕を大きく広げ私を捕らえようとする潮江の姿があった。
間一髪で避けたものの潮江の勢いは止まりそうにはない。くそ、慰め方を誤ったか…!


「初子!さすが俺の選んだ女だ!」
「キモい!死ね!」
「そ、そんなに照れなくてもいいんだぞ!」
「頬を染めるなきもんじ!」


結局潮江はどこまでも追いかけてきやがって、全速力で逃げ回ってたらマラソン一位になりました。



(潮江くんとマラソン)
そして仙蔵くん置いてけぼり