08

結婚。それは男女が夫婦になること。
就職。それは文字通り職に就くこと。
くのたまたちは大抵そのどっちかに将来が決まる。私はというと…


「伊作。お前が欲しい」
「…。初子?」


もう六年になるというのに、まだ決まってなかったりする。


「嫁に来い!」
「いやなんで私が嫁?普通は逆じゃないか!」
「逆だったらいいのか?」
「っ!そ、その…っ」


慌てふためいている善法寺を見て、ふむ、そろそろ許してやるかと善法寺の手をがっつり掴んでいた私の手を放してやり、近付けていた顔を離してやった。
どれもこれも、嫌がらせだ。というよりも、報復だ。だってこいつ、私に熱湯かけやがったんだぞ。
六年は組 善法寺伊作
こいつは不運委員と名高い保健委員会の親玉で、不運の塊だ。引っ切り無しに落とし穴に落ちたり、躓いてこけたりしてる。
そんな不運の餌食に、私はなった。

病人の看病か怪我人の手当てか薬品の調合かなんかは知らんがそいつは熱湯を持って走っていて、それで何故か転がっていたトイレットペーパーを踏んづけやがった。もちろん熱湯は手から放れ投げ出された。
その先にいたのが、私だ。
背中から突然、熱湯を浴びたんだ。


「ていうかなんで熱湯を持って走るわけ」
「…、その、ごめん」
「火傷しました。嫁入り前の体に」
「っ!初子、結婚するの!?」
「今のところ予定はない」
「…なんだ」
「なんだってなんだ」


腹立つな。私が結婚するのがそんなに意外か。立花にもさも当然かというように就職だろ?って言われたし。私は女らしくないってか。貰い手なんていないってか。


「その、私が初子を貰うよ!」


火傷の責任をとる!だったら問題ないだろう!?
突然そんなことを言い出した善法寺に思わずぶっと噴き出した。それから笑いが止まらなくなり、なんで笑うんだ!と善法寺は顔を真っ赤にして怒っている。
いや、でも、責任をとるって…


「ありえねー!ひはははっ!」


その後善法寺はやさぐれてしまった。



(善法寺くんと熱いお湯)

「おー伊作、どうした暗い顔して」
「ほっといてくれ!」