埋まらない

「実はな、七松先輩とお付き合いをさせて頂くことになったんだ」

その瞬間、鋭い何かが胸を貫いた。ああ、聞かなきゃ良かった。いつもは滝夜叉丸がどんな様子でいたって「どうしたの」なんてこちらから尋ねることなんてないのに。今日に限って何故そんな嬉しそうな顔をしているのか気になってしまったんだろう。僕は目の前で少し照れくさそうに笑う滝夜叉丸をていられなくて、目線を下に下げた。

気付いていた。僕だけじゃなくて、みんな。滝夜叉丸が七松小平太先輩に向ける視線が普通のものではなく、特別な感情が含まれていたこと。そして、それだけなら良かったものの七松先輩もまた同じ視線を滝夜叉丸に送っていたこと。だけど僕は、僕だけはそれを認めたくは無かった。勘違いだと思っていたかった。胸にじんわりと痛みが広がる。

「ふーん、良かったね」

何も言う気が起きなかった僕は味気の無い返事をした。良かったね、なんてちっとも思ってはいないけど。僕はとにかくもうこの話を続けたくは無かった。
二人のやりとりを目にすると僕の心には黒い何かが蓄積された。僕はそれが嫌で、吐き出すために穴を掘って、そして、二度と出てこないように土で埋めた。一回だけじゃない。何度も何度も掘って、埋めた。滝夜叉丸への恋心も一緒に埋めてしまおうと思ったけれど、それだけは出来なかった。それどころか、どんどん膨らんでいってもうどうしようもないところまで来てしまっていた。そんなときに二人の関係がただの先輩後輩から恋人へと変化してしまったのだ。

「僕、穴掘ってくるね」

僕は何回穴を掘ればこの気持ちを整理することが出来るのだろうか。