久々に大金が手に入り、オリフェはカジノ艇ジュエルリゾートにて豪遊していた。
「今日はノッているね。」
「あら、クリスティーナ」
ピンクの髪を揺らし、オリフェの手元にあるカジノコインを見て、クリスティーナと呼ばれた女性は笑った。空のグラスを見て、何か飲むかい、とクリスが聞けば、適当にお願いしていい?とオリフェは返す。二人は友人関係にあった。ふと、きょろきょろとクリスはオリフェの周りを見る。
「幼馴染くんは来ていないんだね」
「え?あぁ…ええ。」
ジュエルリゾートに来る時は、大体オリフェの幼馴染…アルベールも一緒についてきている。アルベールは一人でカジノに行くなんて危ない、と思っているのもオリフェはつゆ知らず、今日は黙ってきたのだ。今日の依頼は難しいもので、戦闘も多かった。疲れているだろうと気を利かせたつもりだった。旅の途中に再会してから、彼は少し過保護になっていた。アルベールが心配で優しいのもわかっているが、度が過ぎた蜜は毒だ。正直、時たま疲れてしまう時がある。
そんなオリフェを見て、ジュエルリゾートの女帝などと呼ばれてはいるが、一人の友人としてクリスはついついお節介を焼きたくなる。
(あの幼馴染くんは恋をしていると思うけどな。馬には蹴られたくないから、黙っておくとして。)

一方その頃、グランサイファー。
「ん?あれ、アルベールじゃねえか?おーい!何してんだー?」
何かを探しているようにバタバタと動き回るアルベールを、ビィが呼び止める。
「ビィと団長か。オリフェを見なかったか?どこにも居ないんだが…。」
「オリフェさんなら、結構前にジュエルリゾートへ行ってくるって出ていったよ。」
グランがそう教えると、アルベールは大きく溜息をつく。全くあいつは、俺の気も知らないで。そりゃグランサイファー内を探し回っても見つからないわけだ。
オリフェの言った先がわかったのなら、あとは迎えに行くだけだと団長達にお礼を言い、アルベールはグランサイファーを出ていった。
「なあグラン、アルベールって、オリフェの恋人でもなんでも」
「ビィ…。それ以上は言わないでおいてあげよう。」

ジュエルリゾートでは、出来上がったオリフェが机に伏せて寝ていた。ポーカーで大勝ちして気を良くしたオリフェは、クリスがたまにはいいじゃないかと強いお酒をガンガン勧めてきたのだ。酒に弱いわけではないが、流石に飲みすぎたのか、疲れもあっただろうそのまま寝てしまう。
さて、幼馴染くんは迎えに来るだろうか。オリフェが眠る少し前、クリスは一つ賭けをした。

「オリフェ、賭けをしないか」
「んー、賭けー?」
「今日、幼馴染くんがお前を迎えに来るかどうか、だ。」
オリフェは、良いわねそれ、来ないに賭けるわと楽しそうに笑う。彼女はもうアルベールは疲れてグランサイファーで寝ている……と思っているが、この時点でアルベールはジュエルリゾートに向かっているので、オリフェの負けは確定している。
「決まりだね。負けたほうがオリフェが次来た時、酒を奢る、でどうだ?」
「オッケー、受けて立つわ」
勝ち誇ったような顔で言って、それからすぐにオリフェは寝てしまった。これは幼馴染くんも苦労するな、と他人事のように思うクリス。
「なあオリフェ。アタシは賭けに負けたことがないんだよ」

金髪の赤いマントを付けている、若いヒューマンの男が来たら知らせてくれ…と部下に言ってから、ものの十分で連絡が入ってきた。連れてくるように指示をすれば、いつも彼女を守るよう隣りにいる騎士が姫を迎えに来たようだ。寝ているオリフェを愛おしそうに一撫して、クリスに言った。
「お代はツケといてくれるか」
「ああ。……そうだ、オリフェが起きたら、賭けはアタシの勝ちだと伝えておいてくれ。」
「? …わかった。世話になったな。」
簡単にオリフェをおんぶして、ジュエルリゾートを後にするアルベール。きっとオリフェは賭けの内容を忘れているだろうが、次に会った時話してやればいい…と、クリスは二人を見送った。

アルベールがグランサイファーに帰ると、丁度オリフェは目を覚ました。身じろぎをして、小さく幼馴染の名前を呼べば、心地よい声が返ってくる。
「起きたのか?」
「んん…。」
「まだ眠いなら、寝てていいぞ。」
結局、可愛いので甘やかしてしまうアルベールと、今はただ大きい背中に寄りかかって寝ていたいオリフェ。
このまま時が止まってしまえばいいのに、と思ったのは、果たしてどちらだろうか。



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