「いつになったらその気味の悪い笑いをやめるんだい」

左手の薬指に輝く指輪を見つめて笑う、妻となった女を小突く。いつも笑っているが、今の顔は笑っているというよりにやけた顔をしている。そんな顔を一時間もしているものだから、だらしのない顔に拳の一発でもお見舞いしてやりたいくらいだった。
自分との繋がりを見てだらしない顔をしているのは嫌ではなかったけれど、指輪ばかり見て構ってくれないほうが悪いのだと正当化しながら。

「ふふ」

彼女は私が不機嫌な理由をわかっている。わかっていて、こうして笑い返してくるのだから意地が悪い。付き合い始めたころに、オーゼンがわかりやすいのよ、なんて言われたこともあったか。
私が無表情でいると、彼女は笑ったままで怒ってる、と聞いてきた。

「ああ。オリフェは指輪と結婚したようだからね。」
「……オーゼンは意地悪よ。」

どっちが意地悪なんだか。手招きすれば素直にこっちに向かってくる彼女を抱きしめると、今度は私へ向けて笑顔になる。頭をぐりぐりと私の腹に埋めてきたので、優しく頭を撫でてやると後ろに回った腕がさらに強まる。でも、私に比べたら弱い力だ。研究ばかりでろくに運動していないと解る細い身体は、簡単に折れてしまいそうだった。

「指輪に嫉妬するだなんて、可愛い人。」
「私の事を可愛いと言う奴はあんたぐらいだよ。」
「当たり前よ、わたしだけが知っていればいいもの。」

彼女の楽しそうな、でも少し低い声。こんなところ、お前以外の他に誰に見せるって言うんだい…と伝えようとしたところで、彼女が耳に髪をかけた。照れているときの癖だが、自分じゃ気付いていないのだろう。教えてやるつもりも無いけれど。

「フフ、照れるくらいなら言わなければいいものを」
「……言わなきゃ伝わらないでしょ?でもチープな言葉はダメよ。」

彼女の手が自分の頬をすべる。キスの合図だった。

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