[08]
※マフィア松出てきます
※見ようによっては腐ってます
「……しんかんかく…あくしょん、げーむ…?」
「だス!」
「だっよ〜ん!」
今俺の目の前にはデカパン博士とダヨーンが得意げな顔をしている。俺と彼らの間にある机には一つのゲームソフトがぽつんと置かれていた。
聞く話によれば、これは専用のハードにソフトであるディスクを入れ、そのハードから伸びている管と装置を寝ている人間につけて起動させれば、ゲームの世界に生身で入り込めるという新感覚アクションゲームらしい。
開発はもちろんデカパン博士だ。説明を聞いた俺は密かに瞳を輝かせた。二次元オタクとしてこれほど心躍ることはないだろう。 何と言っても、ゲームの中に入り込めるだなんて…!
普段はお医者さんのようなことや怪しい薬しか作っていないのに一体どうしたのだろうか。
「…ってか、何で俺が呼ばれたんですか?」
「名松くんは確かゲーム好きで上手いと十四松くんから聞いてるだス」
「十四松兄さんェ…」
「そこで、名松くんに試験プレイを頼みたいんだスよ」
やはりか。俺は心が高鳴ると同時にん?とも感じる。
「…あの、因みに安全性は…」
「ああ、その辺は問題ないだス。ちゃんと実験に実験を重ねて、意識だけを繋いで本体には影響がいかないようにしているだス!」
「へぇ…よく分からんけどすごいんスね」
なら安全に遊べるということか。説明だけでもう面白そうな雰囲気がダダ漏れしているそのソフトを俺は手に取る。
ビジュアルは本当にどこにでもあるソフトと言った感じで、重さも見た目もなんら変わった部分はない。唯一上げるならばパッケージがまだ完成していなくてちゃっちいものであることだろうか。真っ黒のそれは一見禍々しいものに見えるが、ぶっちゃけた話今家にいるであろう六つ子の兄たち以上の禍々しさを持った生き物などこの世に存在しないと俺は信じているので特に気に留めることもなかった。
俺は促されるままに寝台に横になり、ダヨーンが持ってきた装置を頭と手首に装着する。なんだかマッドサイエンティストの餌にされている気分だ。モルモットのような感覚にむずむずしていると、ブゥンと機械の起動音が聞こえた。
「段々眠くなるはずだスから、そのまま身を任せて眠ってみてほしいだス。
今回名松くんは初だスからわスが天の声を担ってクリアまで導くだスから、安心してくれていいだス」
「お、製作者自らがついててくれるんなら大丈夫ッスね」
これはありがたい措置だ。デカパン博士がついててくれるんなら大丈夫だろう。何だかんだでチートアイテムをリアルに所持している人なのだから。
彼の言った通り、段々と眠気が襲ってきて俺はうとうとと船を漕ぎ始める。デカパン博士とダヨーンは大型スクリーンの前で機械を操作していた。
眠気が限界まで達した俺はふっと意識をなくす。さて、どんなゲームなのだろうか。
***
「………んんん〜〜〜ッ!!!!!」
声にならない声を頭を抱えながら上げた。
アクションゲームと銘打っていたのでてっきりストリートファイター的なアレか?と思っていたのにまさかのバイオ展開には草しか生えない。
目の前のどんよりとした空と恐ろしい雰囲気を放っている割と小奇麗な屋敷を見て、俺は後ずさりをした。
『あーあー、名松くん、聞こえるだスか?』
「帰りたいッス」
『ちゃんと聞こえてるだスね。さて、このゲームはとあるマフィアの屋敷に潜入して機密事項が書かれた書類を持って帰るのが目的だス』
「これ俺死ぬでしょ絶対。開始早々嫌な予感しかしねえ」
脳内、というか頭上から聞こえる天の声に俺は頭を抱えた。しかも俺今丸腰…というか、武器を持っていたとしても普段特に運動なんて体育くらいしかしていない俺にとって危ないものでしかないのだが。これが十四松兄さんならバットを持って無双なんてしていたんだろうな。
『その辺もちゃんと考慮してるだス! ちょっと走り回ったり飛んだりしてみるだス。最初の操作確認は重要だスよ』
「んなこと言われても…」
自分の身体の操作確認なんて…と思いながら足を踏み出すとぎゅん、と景色が後ろに行った。正しく言うならば、一歩踏み込んだだけで俺の身体は数メートルも先へと移動していた。何を言っているか分からないがというのは割愛する。
めをぱちぱちさせながらもう一度今度はちゃんと走る態勢をとって踏み込むと、地面がボコォとへこみ俺は風を切っていた。そのままぴょんとジャンプをすると十数メートルは飛び、周りの木々よりも上に来てこの地形のある程度全貌を見ることができた。樹海みたいだ気味が悪い。
「な、なんスかこれ…!?」
『最初はやはりハンデでもないと勝手が分からずすぐゲームオーバーになるだスからね、身体能力が限界まで引き上げてるだス! でも代わりに武器は現地調達になるだスからかんばってほしいだス』
『だっよ〜ん』
「ひえええ…」
初めての完全な健康体に俺のテンションはかなり上がる。これは楽しい…! なんというチートだろうか。これゲームバランス大丈夫か? しかし俺はつい先ほどまで一般市民をしていたので正当な特典と言えば特典なのだろうか。
とにかく、と俺は目の前の屋敷を見据えてザ、と地面を踏んだ。
「えーっと、書類?が必要なんですよね?」
『そうだス。相手はマフィアで重火器を使ってくるだスから気を付けるだス!』
「…因みに、痛覚は…」
『一応五分の一に設定してるだスが、まあ痛いもんは痛いだスから』
「そこは無しにしといてくれよ…」
変なところでリアル感を出してしまっているな…しかしちゃんと痛みがないと色々とヤバいんだろうな。現実に戻ったときの弊害が酷そうだ。
一先ず俺は屋敷の中に入るために敷地内へと入っていく。途中で博士が俺の視界の右上辺りに地図を配置してくれた。半透明なそれはある程度の全体図と敵が赤アイコン、自分が緑アイコンで表示されている。
安全なルートを博士が示してくれているのでそれに従ってそろそろと徘徊していく。なんだ、結構簡単じゃないか。
なんて思っていた時期が俺にもありました。マフィアめっちゃ怖い。
屋敷に入って一発で警報が鳴り響き、『侵入者を発見しました』と機械音が止まらなかった。マフィアの屋敷なのに無駄にハイテクでムカつく。すぐに黒スーツと銃を持ったお兄さんやおじ様方がやってきて俺相手に発砲してきたのだ。しかもその時の会話が
―「HAHAHA! まだ子供なのにここへ入ってくるなんてどうした? 度胸試しか?」
―「若さゆえの無謀ならさっさと帰っておねんねしてな」
―「ひゅう! 可愛い顔してるじゃないか! ボスたちが好みそうなリトルボーイだな」
―「ここにお前のmommyはいないぜ? 大人しく帰んな」
とか言いながらの発砲だった。完全に舐められてる。そして完璧に最高にクールでクレイジーだ。多分俺が普通に高校生だし服装もいつものパーカーだから子供だと言われたんだろうが、あと数年で成人の男に向かってそれはないんじゃないだろうか。
因みに俺は今現在の持前の身体能力を生かして何とか逃げ切った。すごいよこれ、洞察力とかも上がってるみたいで銃弾の軌道が見えるんだ。リアルでこの能力欲しいと思ったけど、使うところなかったからやっぱいいや。
階段の影に隠れながら俺は必死に気配を消す。
「博士、博士、相話通じないんだけどどうすればいいのコレ」
『まあマフィアだスから、侵入者は取り敢えず殺さなきゃだス』
『だよ〜ん』
「なんちゅー物騒なんだ…当然だけど…」
重い溜息を吐いて俺はマップを確認する。目的地は当然ながら最奥の小部屋。ここからどれくらいの時間短縮ができるだろうか。
取り敢えず最短ルートの確認と敵の配置を見ていくと、ふと赤いアイコンに混ざってひと際大きなアイコンがあるのに気が付いた。
「…? 博士、これなんです?」
『ああ、それは所謂中ボスってヤツだス』
「おお…! ゲームっぽい…!」
『他の雑魚キャラとは似ても似つかないステータスを持ってるだスから気を付けるだス』
「…うっす……―――!!」
またため息を吐きそうになったとき、ゾクリと悪寒が走り俺はとっさにその場から飛びのいた。床がへこんだがこの際気にしていられない。
俺が消えたそのすぐ後に少しへこんだ床に銃弾の雨が降り注ぎ、そこら一帯は穴あきになってしまった。 俺はさぁ、と血の気をなくしながら視線を恐る恐る大きい赤アイコンの位置に移す。
「侵入者一人に何手古摺ってるのかと思えば…何? まだ子供じゃん」
「あ゛はっ、君結構かわいーね!!」
「………」
俺はその姿を視界にいれて額に手を当てて上を向いた。
「博士、これなに(小声)」
『中ボスだス』
「知ってる。このグラフィックはなに(小声)」
『あー…多分、プレイヤーの頭の中に思い描いた対象がキャラクターに当て嵌められるみたいだスね』
「無駄にスーツ改造して自分色にしてんの腹立つ…しかも結構似合ってんのも余計に腹立つ…」
目の前に居たのはそれぞれのシンボルカラーと黒を基調にしたスーツに身を包んでいる俺の兄だった。トド松兄さんと十四松兄さん。二人とも銃を持っていて、いつもとは違うゲスの時にする笑みを浮かべている。最高にクレイジーだわ本当。
死んだ目を向けながら二人を見ると本当にやる気がガリガリ削がれて殺る気だけがむくむくと湧いてくる。普段の行いのせいだろうか。それでいいんだろうが、俺の心情は穏やかではない。
「…えっと、こんにちは…?」
「はいこんにちは。取り敢えず、何でここに来たのか理由だけでも聞いとこうか」
「まあどうせ君死んじゃうだろうけど、一応兄さんから言われてるんだよねー!」
「はあ…そッスか…」
うわあ…マジで割といつもの兄さんたちだ…なんか本当にボコボコにしたくなってきた…。
大凡この場に似つかわしくない雰囲気を醸し出している俺に苛立ったのか、トド松兄さんが俺の足に向けて発砲した。軌道が何とか見えている俺はそれをバッと足を上げて回避する。何するんだよこの人。
「ちょ…急に発砲はちょっとやめてくれません?」
「……お前、なに?」
「は?」
「銃弾避けるヤツ十四松兄さんとカラ松兄さん以外にもいるんだね。ホントびっくり」
「避けるヤツいんのかよ」
「まぁじで!? ヤッター!!ひっさびさに楽しめそう!!」
十四松兄さんがそう言った途端、ぎゅん、と一瞬のうちに間合いを詰められ慌ててその場でジャンプをしてその辺にあった銅像へと飛び乗る。先ほどまで俺が居た場所は十四松兄さんの渾身の一撃により完全に没していた。リアルでもゴリラだからなあの人。
奇跡のバランスで銅像の上に移ったは良いが、この一連の動作により彼ら二人は完全に俺へと視線が固定されたようだった。そこはかとなく面倒くさい香しかしない。帰りたい。
「…博士、これ俺大丈夫かな…」
『まあ心臓に銃弾当たっても一回じゃ死なない仕様だから大丈夫だスよ』
「ゆとり仕様だ…」
『今時一発の銃弾で死んでちゃ苦情きちゃうだス』
「ゲーム市場って大変なんスね」
「何ぶつぶつ言ってんのか知らないけど、来ないならこっちから行くよ?」
「うっは! マジで強いんだね君! 顔も俺好みだし!」
「ホント無理…なんなんこの人ら…」
パーカーのフードを被ってぎゅっと裾を握る。この二人組とはまともに渡り合いたくない。……他の兄弟とも渡り合いたくないのだが。
トド松兄さんがちゃき、と銃を俺に向け十四松兄さんがゆらりと態勢を整えたところで俺も銅像から飛び降りる。あ…今ならバク転できる気がする…。
「今ここで僕らに一瞬で殺された方が楽だと思うんだけどな〜」
「そーそー! 奥には俺たちのにーさんがいるんだけど、なんか今めっちゃ機嫌悪いんだよね!」
「だから苦しみたくないなら大人しく死んでくれない?」
「あー…展開的にそれはできなさそうですごめんなさい…」
何より俺のゲーマー魂が物申してしまう。途中放棄は絶対に許されない。
「ざーんねん。それじゃあ生きたまま捕まえたげるから僕らのお人形さんになってよ」
「それいい考えー! 流石トッティ!」
「…博士、こいつらって殺せますか殺せますよね」
『いや…HPゲージがゼロになれば一応倒したことにはなるだスが…』
「よし殺す」
二対一で対峙する。ギッと自分なりに鋭い視線をぶつけるも、相手はどこ吹く風でにやにやとしていた。より一層俺のぶっ殺スイッチが加速する。
…晩御飯までにこれ終わるのかなぁ…。
※見ようによっては腐ってます
「……しんかんかく…あくしょん、げーむ…?」
「だス!」
「だっよ〜ん!」
今俺の目の前にはデカパン博士とダヨーンが得意げな顔をしている。俺と彼らの間にある机には一つのゲームソフトがぽつんと置かれていた。
聞く話によれば、これは専用のハードにソフトであるディスクを入れ、そのハードから伸びている管と装置を寝ている人間につけて起動させれば、ゲームの世界に生身で入り込めるという新感覚アクションゲームらしい。
開発はもちろんデカパン博士だ。説明を聞いた俺は密かに瞳を輝かせた。二次元オタクとしてこれほど心躍ることはないだろう。 何と言っても、ゲームの中に入り込めるだなんて…!
普段はお医者さんのようなことや怪しい薬しか作っていないのに一体どうしたのだろうか。
「…ってか、何で俺が呼ばれたんですか?」
「名松くんは確かゲーム好きで上手いと十四松くんから聞いてるだス」
「十四松兄さんェ…」
「そこで、名松くんに試験プレイを頼みたいんだスよ」
やはりか。俺は心が高鳴ると同時にん?とも感じる。
「…あの、因みに安全性は…」
「ああ、その辺は問題ないだス。ちゃんと実験に実験を重ねて、意識だけを繋いで本体には影響がいかないようにしているだス!」
「へぇ…よく分からんけどすごいんスね」
なら安全に遊べるということか。説明だけでもう面白そうな雰囲気がダダ漏れしているそのソフトを俺は手に取る。
ビジュアルは本当にどこにでもあるソフトと言った感じで、重さも見た目もなんら変わった部分はない。唯一上げるならばパッケージがまだ完成していなくてちゃっちいものであることだろうか。真っ黒のそれは一見禍々しいものに見えるが、ぶっちゃけた話今家にいるであろう六つ子の兄たち以上の禍々しさを持った生き物などこの世に存在しないと俺は信じているので特に気に留めることもなかった。
俺は促されるままに寝台に横になり、ダヨーンが持ってきた装置を頭と手首に装着する。なんだかマッドサイエンティストの餌にされている気分だ。モルモットのような感覚にむずむずしていると、ブゥンと機械の起動音が聞こえた。
「段々眠くなるはずだスから、そのまま身を任せて眠ってみてほしいだス。
今回名松くんは初だスからわスが天の声を担ってクリアまで導くだスから、安心してくれていいだス」
「お、製作者自らがついててくれるんなら大丈夫ッスね」
これはありがたい措置だ。デカパン博士がついててくれるんなら大丈夫だろう。何だかんだでチートアイテムをリアルに所持している人なのだから。
彼の言った通り、段々と眠気が襲ってきて俺はうとうとと船を漕ぎ始める。デカパン博士とダヨーンは大型スクリーンの前で機械を操作していた。
眠気が限界まで達した俺はふっと意識をなくす。さて、どんなゲームなのだろうか。
***
「………んんん〜〜〜ッ!!!!!」
声にならない声を頭を抱えながら上げた。
アクションゲームと銘打っていたのでてっきりストリートファイター的なアレか?と思っていたのにまさかのバイオ展開には草しか生えない。
目の前のどんよりとした空と恐ろしい雰囲気を放っている割と小奇麗な屋敷を見て、俺は後ずさりをした。
『あーあー、名松くん、聞こえるだスか?』
「帰りたいッス」
『ちゃんと聞こえてるだスね。さて、このゲームはとあるマフィアの屋敷に潜入して機密事項が書かれた書類を持って帰るのが目的だス』
「これ俺死ぬでしょ絶対。開始早々嫌な予感しかしねえ」
脳内、というか頭上から聞こえる天の声に俺は頭を抱えた。しかも俺今丸腰…というか、武器を持っていたとしても普段特に運動なんて体育くらいしかしていない俺にとって危ないものでしかないのだが。これが十四松兄さんならバットを持って無双なんてしていたんだろうな。
『その辺もちゃんと考慮してるだス! ちょっと走り回ったり飛んだりしてみるだス。最初の操作確認は重要だスよ』
「んなこと言われても…」
自分の身体の操作確認なんて…と思いながら足を踏み出すとぎゅん、と景色が後ろに行った。正しく言うならば、一歩踏み込んだだけで俺の身体は数メートルも先へと移動していた。何を言っているか分からないがというのは割愛する。
めをぱちぱちさせながらもう一度今度はちゃんと走る態勢をとって踏み込むと、地面がボコォとへこみ俺は風を切っていた。そのままぴょんとジャンプをすると十数メートルは飛び、周りの木々よりも上に来てこの地形のある程度全貌を見ることができた。樹海みたいだ気味が悪い。
「な、なんスかこれ…!?」
『最初はやはりハンデでもないと勝手が分からずすぐゲームオーバーになるだスからね、身体能力が限界まで引き上げてるだス! でも代わりに武器は現地調達になるだスからかんばってほしいだス』
『だっよ〜ん』
「ひえええ…」
初めての完全な健康体に俺のテンションはかなり上がる。これは楽しい…! なんというチートだろうか。これゲームバランス大丈夫か? しかし俺はつい先ほどまで一般市民をしていたので正当な特典と言えば特典なのだろうか。
とにかく、と俺は目の前の屋敷を見据えてザ、と地面を踏んだ。
「えーっと、書類?が必要なんですよね?」
『そうだス。相手はマフィアで重火器を使ってくるだスから気を付けるだス!』
「…因みに、痛覚は…」
『一応五分の一に設定してるだスが、まあ痛いもんは痛いだスから』
「そこは無しにしといてくれよ…」
変なところでリアル感を出してしまっているな…しかしちゃんと痛みがないと色々とヤバいんだろうな。現実に戻ったときの弊害が酷そうだ。
一先ず俺は屋敷の中に入るために敷地内へと入っていく。途中で博士が俺の視界の右上辺りに地図を配置してくれた。半透明なそれはある程度の全体図と敵が赤アイコン、自分が緑アイコンで表示されている。
安全なルートを博士が示してくれているのでそれに従ってそろそろと徘徊していく。なんだ、結構簡単じゃないか。
なんて思っていた時期が俺にもありました。マフィアめっちゃ怖い。
屋敷に入って一発で警報が鳴り響き、『侵入者を発見しました』と機械音が止まらなかった。マフィアの屋敷なのに無駄にハイテクでムカつく。すぐに黒スーツと銃を持ったお兄さんやおじ様方がやってきて俺相手に発砲してきたのだ。しかもその時の会話が
―「HAHAHA! まだ子供なのにここへ入ってくるなんてどうした? 度胸試しか?」
―「若さゆえの無謀ならさっさと帰っておねんねしてな」
―「ひゅう! 可愛い顔してるじゃないか! ボスたちが好みそうなリトルボーイだな」
―「ここにお前のmommyはいないぜ? 大人しく帰んな」
とか言いながらの発砲だった。完全に舐められてる。そして完璧に最高にクールでクレイジーだ。多分俺が普通に高校生だし服装もいつものパーカーだから子供だと言われたんだろうが、あと数年で成人の男に向かってそれはないんじゃないだろうか。
因みに俺は今現在の持前の身体能力を生かして何とか逃げ切った。すごいよこれ、洞察力とかも上がってるみたいで銃弾の軌道が見えるんだ。リアルでこの能力欲しいと思ったけど、使うところなかったからやっぱいいや。
階段の影に隠れながら俺は必死に気配を消す。
「博士、博士、相話通じないんだけどどうすればいいのコレ」
『まあマフィアだスから、侵入者は取り敢えず殺さなきゃだス』
『だよ〜ん』
「なんちゅー物騒なんだ…当然だけど…」
重い溜息を吐いて俺はマップを確認する。目的地は当然ながら最奥の小部屋。ここからどれくらいの時間短縮ができるだろうか。
取り敢えず最短ルートの確認と敵の配置を見ていくと、ふと赤いアイコンに混ざってひと際大きなアイコンがあるのに気が付いた。
「…? 博士、これなんです?」
『ああ、それは所謂中ボスってヤツだス』
「おお…! ゲームっぽい…!」
『他の雑魚キャラとは似ても似つかないステータスを持ってるだスから気を付けるだス』
「…うっす……―――!!」
またため息を吐きそうになったとき、ゾクリと悪寒が走り俺はとっさにその場から飛びのいた。床がへこんだがこの際気にしていられない。
俺が消えたそのすぐ後に少しへこんだ床に銃弾の雨が降り注ぎ、そこら一帯は穴あきになってしまった。 俺はさぁ、と血の気をなくしながら視線を恐る恐る大きい赤アイコンの位置に移す。
「侵入者一人に何手古摺ってるのかと思えば…何? まだ子供じゃん」
「あ゛はっ、君結構かわいーね!!」
「………」
俺はその姿を視界にいれて額に手を当てて上を向いた。
「博士、これなに(小声)」
『中ボスだス』
「知ってる。このグラフィックはなに(小声)」
『あー…多分、プレイヤーの頭の中に思い描いた対象がキャラクターに当て嵌められるみたいだスね』
「無駄にスーツ改造して自分色にしてんの腹立つ…しかも結構似合ってんのも余計に腹立つ…」
目の前に居たのはそれぞれのシンボルカラーと黒を基調にしたスーツに身を包んでいる俺の兄だった。トド松兄さんと十四松兄さん。二人とも銃を持っていて、いつもとは違うゲスの時にする笑みを浮かべている。最高にクレイジーだわ本当。
死んだ目を向けながら二人を見ると本当にやる気がガリガリ削がれて殺る気だけがむくむくと湧いてくる。普段の行いのせいだろうか。それでいいんだろうが、俺の心情は穏やかではない。
「…えっと、こんにちは…?」
「はいこんにちは。取り敢えず、何でここに来たのか理由だけでも聞いとこうか」
「まあどうせ君死んじゃうだろうけど、一応兄さんから言われてるんだよねー!」
「はあ…そッスか…」
うわあ…マジで割といつもの兄さんたちだ…なんか本当にボコボコにしたくなってきた…。
大凡この場に似つかわしくない雰囲気を醸し出している俺に苛立ったのか、トド松兄さんが俺の足に向けて発砲した。軌道が何とか見えている俺はそれをバッと足を上げて回避する。何するんだよこの人。
「ちょ…急に発砲はちょっとやめてくれません?」
「……お前、なに?」
「は?」
「銃弾避けるヤツ十四松兄さんとカラ松兄さん以外にもいるんだね。ホントびっくり」
「避けるヤツいんのかよ」
「まぁじで!? ヤッター!!ひっさびさに楽しめそう!!」
十四松兄さんがそう言った途端、ぎゅん、と一瞬のうちに間合いを詰められ慌ててその場でジャンプをしてその辺にあった銅像へと飛び乗る。先ほどまで俺が居た場所は十四松兄さんの渾身の一撃により完全に没していた。リアルでもゴリラだからなあの人。
奇跡のバランスで銅像の上に移ったは良いが、この一連の動作により彼ら二人は完全に俺へと視線が固定されたようだった。そこはかとなく面倒くさい香しかしない。帰りたい。
「…博士、これ俺大丈夫かな…」
『まあ心臓に銃弾当たっても一回じゃ死なない仕様だから大丈夫だスよ』
「ゆとり仕様だ…」
『今時一発の銃弾で死んでちゃ苦情きちゃうだス』
「ゲーム市場って大変なんスね」
「何ぶつぶつ言ってんのか知らないけど、来ないならこっちから行くよ?」
「うっは! マジで強いんだね君! 顔も俺好みだし!」
「ホント無理…なんなんこの人ら…」
パーカーのフードを被ってぎゅっと裾を握る。この二人組とはまともに渡り合いたくない。……他の兄弟とも渡り合いたくないのだが。
トド松兄さんがちゃき、と銃を俺に向け十四松兄さんがゆらりと態勢を整えたところで俺も銅像から飛び降りる。あ…今ならバク転できる気がする…。
「今ここで僕らに一瞬で殺された方が楽だと思うんだけどな〜」
「そーそー! 奥には俺たちのにーさんがいるんだけど、なんか今めっちゃ機嫌悪いんだよね!」
「だから苦しみたくないなら大人しく死んでくれない?」
「あー…展開的にそれはできなさそうですごめんなさい…」
何より俺のゲーマー魂が物申してしまう。途中放棄は絶対に許されない。
「ざーんねん。それじゃあ生きたまま捕まえたげるから僕らのお人形さんになってよ」
「それいい考えー! 流石トッティ!」
「…博士、こいつらって殺せますか殺せますよね」
『いや…HPゲージがゼロになれば一応倒したことにはなるだスが…』
「よし殺す」
二対一で対峙する。ギッと自分なりに鋭い視線をぶつけるも、相手はどこ吹く風でにやにやとしていた。より一層俺のぶっ殺スイッチが加速する。
…晩御飯までにこれ終わるのかなぁ…。