[05.a]


※拍手コメントで頂いたリクエストです。ありがとうございました…!





「…名松」

「あ゛い…」

「気持ちはまあ分からないでもないわ。あんた病院嫌いだし、注射も未だに涙目になるもの。でもね、それでもやっていいことと悪いことの区別はつけなさい」

「うぃ…」

「一歩間違えれば大変なことになるかもしれないって一番理解してるのは名松でしょ?」

「ん゛…」



 現在の俺は正座。そして目の前には俺に懇々と説教をする母さんとその後ろで吹雪を背負っているおそ松兄さんとチョロ松兄さん。ほかの兄弟は退散している。
 居間で死刑囚のような雰囲気を出しながら、帰ってきた一番最初のおそ松兄さんの「名松、ちょっとおいで」という声によって俺の涙腺は崩壊寸前だったが、次いですぐに居間に入ってきて「六つ子ルーム集合」と言ったチョロ松兄さんの顔と母さんのにっこりと浮かべた(魔王の)笑みに遂に涙目になってしまった。因みに今は普通に泣いてます。母は強し。



「それじゃ、明日おそ松と一緒に病院行くこと。いいわね?」

「んぅ゛」

「はい。ならもうおしまい。 ちゃっちゃとお風呂入っちゃいなさい」



 ぽんぽんと俺の頭を撫でて母さんは部屋から出ていく。部屋には俺の鼻をすする音だけが響く。

 しばらくして最初に動いたのはチョロ松兄さんだった。俺の目の前まできてむに、と俺の頬を引っ張る。



「…反省した?」

「…じだ」

「てか懲りねえなお前」

「…」



 ぼろぼろ零れる俺の涙をパーカーの袖で拭いながらおそ松兄さんが俺の頭を撫でる。先ほどまでの素晴らしいほどの魔王オーラは既に成りを潜めていた。
 拭っても拭っても出てくる涙。きっとそれは怒られたというだけではない。


「これ関連で怒られんの何回目よ。そろそろ学習しろよなー」

「毎回呼び出されるこっちの身にもなってよ」

「…だ、って」



 ぶっちゃけこれ、俺だけが悪いんじゃないと思う。いや俺も悪いんだけどさぁ、それとこれとはまた話が別っていうか。そもそも兄さんたちが自覚してないのが悪い。健康診断の結果が出るたびに自分たちがどういう顔をしているのか分かって言っているんだろうか。


「に゛、さん…」

「ん?」

「にいさん、な゛くじゃん…っ」



 その言葉に俺の頭を撫でていたおそ松兄さんの手がぴたりと止まる。俺を抱きしめているチョロ松兄さんも押し黙った。このまま上から言葉を被せられるわけにはいかないので、急いで次の言葉を放つ。



「兄さんの、…せいじゃ、ないっ、のに…っ」

「…」

「い゛っつも、いっづもさ、じぶんが、わる、わるいんだーって…!」

「名松」

「…っちがう」

「名松、もういいよ」

「ちがう!!!」



 いつもこの話の時は流されて、はいはいそうだねって、あやふやにされて終わっていた。でも、もう限界だ。兄さんたちが俺の病気で責任を背負うのも、自分を責めるのも、何もかも間違い。
 それが幼いころから嫌で嫌で仕方がない。絶対に違う。兄さんが悪いんじゃない。


「ちがうの゛にぃぃ゛…!にい゛ざんがわるいん゛じゃないのに゛ぃ…っ!!」

「分かってる。分かってるよ名松」

「わがってないぃ…!」

「分かってるって」

「わ゛かって、な゛いよぅ…っ」



 暫しの押し問答が続く。兄さんは何も分かってない。分かっているふりをしているだけ。俺の為に、ただその場は分かってるよって言っているだけ。
 根本的なことは全然分かってないんだ。俺の言いたいこと、本当に伝えたいことを理解してくれない。理解していても受け入れてくれない。

 自分を縛り付けるものなんて捨ててしまえばいいのに、兄さんたちはそれをしない。ただの馬鹿だ。大馬鹿共の集まりだ。どいつもこいつも。俺の病気で、俺の病気のせいで、 ――俺のせいで








「…ごめ゛んなさい゛ぃぃ…っ」

「名松、名松」



 チョロ松兄さんがぽんぽんと背中を叩いてくれる。一定のリズムで刻まれるそれに俺はわんわん泣きながら、しゃくりあげながらその揺れに身を任せていった。

 兄さんたちが分かってくれる日は来るのだろうか。来てもらわなくちゃ困るんだけれど。


 涙と鼻水で汚れるのも気にせずにチョロ松兄さんはゆらゆら揺れながら俺の背中をずっと叩く。おそ松兄さんは俺の頭を撫で続けた。

































(side_osomatsu)










「…寝た?」

「寝た」

「風呂どうしよっか」

「明日休みだし朝入らせればいいんじゃない」



 涙と鼻水でべしょべしょの名松の顔を袖で拭う。意外にも今日は寝つきが良かったのか嫌がるそぶりは見せなかった。


 先ほどまでずっと「分かってない」「兄さんのバカ」「ごめんなさい」と傍から聞けば支離滅裂なことを言っていた弟。寝顔は何年経っても変わらない。
 よいしょ、とチョロ松が名松を抱き上げる。


「お兄ちゃん変わろうか?」

「触んな」

「辛辣…!」



 腕を出せば足蹴にされた。自称常識人は昔の名残で偶にヤンキーが出る。

 すやすや眠っている名松はしっかりとチョロ松の服を握っており、ちょっとやそっとじゃ外すことは出来ないだろう。無理に外そうとすれば絶対に名松が無意識に嫌がるだろうし、何よりあの元ヤンに半殺しにされそうだ。大人しくチョロ松の後ろを歩く。

 名松の部屋まで来ればそこには残りの弟たちが円になってトランプをしていた。何楽しんでいるんだこいつらは。



「あ、名松寝てる?」

「泣きつかれたみたい」

「ありゃりゃ〜目腫れてる…」

「僕氷持ってくんね〜」



 名松を布団に置いたチョロ松は名松の離れない手を見て仕方ないな、と頬を緩めて自身も布団に入った。…お兄ちゃんも入りたい…。


「ちょっと何してんのシコ松兄さん」

「名松が離してくれないんだからしかたないだろ?シコ松言うな」

「フッ…ブラザー、そのポジションをチェンジしてやろう。疲れただろう?」

「うっせえよ黙れ」

「えっ」

「……となりいい?」

「狭いからダメ」

「ちっ」



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