[01]


「ただいま〜」


 住み慣れた愛しの我が家の玄関をガラガラと開ければ、珍しく賑やかな声は聞こえてこなかった。この時間帯だと無職である兄たちの喧騒が聞こえてくるはずなのだが、と首を傾げる。やっと就職活動に勤しみ始めたか、それともただ遊びに行っているだけか。恐らく後者だろう。
 溜息を吐きながら脱いだ靴を揃えて居間へ続く廊下を歩く。本当に静かだな。

 居間の障子を開けるといないと思っていた兄たちが全員集合していた。それも、全員が全員脱力しきった表情で何をするでもなくぼーっとしている。


「あ、名松お帰り〜」

「ただいまだけど…何してんの?」

「んー…休憩中…」

「は?」



 むしろ今人生が休憩中だろお前ら、との辛辣な言葉は何とか飲み込んだ。下手をすればチョロ松兄さんあたりが泣いてしまうからだ。あまりに辛辣な言葉を投げかければ、上の兄が泣きながら「そんな汚い言葉を使うんじゃありません!そんな子に育ては覚えはない!」と言ってくるのだ。確かに主に兄たちに面倒を見られて育ったが、ぶっちゃけ幼いころの思い出は碌なことがない。

 それよりも、いつもよりももっとやる気のない雰囲気に少々困惑した。あの十四松兄さんやトド松兄さんでさえだらんと全身の力を抜いているのだ。



「何?就活失敗?」

「急にぶち込んでくるねェ〜」

「いや…ちょっと色々あって…ね」



 話を聞けば、どうやら心機一転の為に自分たちの路線変更を行ったらしい。アイドルになって学園のプリンス的存在を務め、最期には巨人と戦ったんだとか。何それちょっと楽しそう。てか平日の昼間っから何をしていたんだこいつらは。

 で、結局の処収集がつかなくなりすべてをおじゃんにして今現在進行形で何を行動すべきか考えあぐねている、と。そういうことだそうだ。

 お前らは本当に何をしているんだ。俺が学校に行って全日本もう帰りたい協会の仕事をしている間に随分と楽しそうなことをしていたんだな。


「…まあ、楽しそうで何よりだわ」

「全然楽しくなかったよ!?皆最終的に好き勝手し出すし!」

「いやでも前半チョロ松もノリノリだったじゃん」

「前半はね!?後半がカオス過ぎたんだよ!」


 兄弟で集まればうちの家では比較的まともな方のチョロ松兄さんが絶叫に近い形で叫ぶ。どんだけ酷かったんだろう。

 一松兄さんや十四松兄さんは最早何か言葉を発するのも面倒なのか、先ほどからずっと心ここに非ずといった様子で虚空を見つめている。十四松兄さんに至っては目の焦点が合っていないのでちょっと怖い。せめて口を閉じよう兄さん。


 おそ松兄さんとチョロ松兄さんの言い合いが始まったからか、トド松兄さんが四つん這いで俺の隣に避難してきた。それに便乗してカラ松兄さんも言い合いをしている二人から距離をとる。
 大体こんな感じで我が家の喧騒はスタートする。主に誰かが誰かを怒らせて誰かがそれを煽るという、少なくとも成人男性のすることではないスタートダッシュである。頭が痛い。


 そんな兄弟たちを鎮めるのは他の兄弟の役目だ。


 俺はリュックのジッパーを開けて中を漁る。目当ての物を取り出しながら少しだけ声を張って自分の右手を上げた。



「はーい。肉まん食べる人〜」


 途端に静かになりスッと全員の手が上がる。こういう兄弟なのだうちは。俺はファミリーパックの八個入りの肉まんを温める為にキッチンへと持って行った。

 最期の一つを巡ってまた争いが勃発するのも予想通りだった。
 七個入りってなかなか売ってないんだよね。奇数だし。



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