[IF.よゐこわるいこおびえるこ(そのいち)]

※拍手コメントで頂いたネタリクエストです。
※もしよゐこ主が本当に誘拐された後に入れ替わっていて、成長後にその犯人と遭遇したら?

















 どうやら今日は全国的に雨だったらしい。起きた時にはまだ太陽も上っておらずおまけに外は土砂降り、部屋の中は逢魔時のように薄暗かった。これは今日はもう外には出られないな、と思い隣の十四松に布団を掛け直してから二度寝をした。雨の日の二度寝ってなんでこんなに気持ちいいのだろうか。


 …ただ、こんな土砂降りの日は昔のことが思い出される。もうすっかり綺麗に消えているはずの足の傷がずきりと痛んだ気がした。
 あれは数年前、俺が、"俺の身体"がまだ学生だった時のことだ。







 …――あ、シリアスげに言ってるけど実際俺はひーひー無様に這いずり回ってただけだから。何かを期待してた人はごめんご。





***







 ばち、と目が覚めた俺はまず辺りが真っ暗なことに疑問を抱いた。俺は大学の講義中に転寝をしていたはずで、講義室はちゃんと明かりは灯っていたからだ。こんな薄暗くなかったし、まるで屋根の上を誰かが走り回っているかのような雨音も聞こえていなかった。今日は一日中ずっと晴れだったはずなのだから。それに周りの風景がなんだかぼろい。埃臭いし息苦しいし、なにより薄暗い中でもわかる不潔さだ。蜘蛛の巣とか土埃積もりすぎだろなんなんだ本当に。
 上体を起こそうと力を入れると両足に激痛が走った。変な悲鳴あげちゃったよ。これはあれだ、寝起き一発目の意味不明に身体に一瞬だけ激痛が走るあの現象と似ている。しかしこれは一瞬ではなくその後継続してズキズキと遠慮なく痛みが襲ってくる。むちゃくちゃ痛い。
 謎の空間に入れられた挙句この激痛のコンボ。何なんだ本当に。足の激痛に気をつられていたが普通に身体中が痛い。骨がきしむ音も聞こえるし、何より外気に晒されている肌のあらゆる場所がひりひりとしている。苦手な部類の痛みだ。一度ゆっくり息を吸い、ゆっくり息を吐く。はあぁ―――。 次いでもう一度ぐっと力を入れるとやはり痛みは走った。しかし今度は身構えていたので先ほどのようなダメージは食らわずに起き上がることができた。


「いつつ……」



 周りを見回すがやはり見覚えのない場所だ。大学内でこんな場所なかったし、今俺の満身創痍具合が非常事態だとしっかり告げている。自分の意志に反して面白い具合にがくがく震える膝を叱咤して俺は立ち上がり、とにかく出口を探そうと歩き回った。
 時折カクン、と膝から落ちるがそれでも何回も立ち上がる。七転八倒とはまさにこれのことか。やがて手探りで壁を伝っていると手にこつん、と金属質なものが当たった。ひどく冷たかったが、それは大きくも小さくもない突起物。


「…ドアノブか?」



 背後でUCのあのBGMが流れた。勝った。第三部完。完全勝利。俺はそのドアノブを嬉々として回し、鍵がかかっているのを確認してからまた膝から崩れ落ちた。
 まあ、そううまく行かないのが人生ってもんです。


「ちくしょうめ…!」



 不安や絶望よりもイライラが上回る。そもそも何で俺が大けが負ってこんなところに閉じ込められてるんだよ。新手のフリーホラーゲームか?いや新手ではないか。いろんなところ物色して最終的に鍵見つけて、幽霊から逃げ回りながら脱出しなきゃなんないの?勘弁してくれよ、俺ああいうのって絶対五回くらいは死ぬ前提でプレイしてるのに。
 ため息を吐きながらふと顔を上げると、少しだけ離れたところに窓があるのに気が付いた。俺は這いながらその窓に近づきひょっこりと顔だけを覗かせる。……うん、土砂降りだわ…でも。

 こつこつと窓を叩けば対して厚くない、むしろボロ小屋特融の薄い安物っぽいガラスだ。少し叩けばすぐに割れてしまいそうな。
 これは、あれだ。"ダイナミックお邪魔しました"展開なのではないだろうか。確実に無傷では済まないだろうが、もう既に傷だらけなので今更切り傷が多少増えたところで構いやしない。そんなことよりも今はここから脱出する方が先決なのだ。

 俺は身体に鞭を打って少しだけ離れた場所へ移動する。一つ深呼吸してからタッと床を蹴って窓へと走り、顔の前で腕をクロスし大きく飛躍した。



「お邪魔しましたァァ―――!!!」



 ガッシャーンと派手な音を立てて窓は呆気なく壊れた。かなり大きな音だったんだろうが、何分雨の音の方がうるさくてあまり辺りに響かなかったのは幸いした。誰かにこの現場を発見されたら絶対にややこしいことになる。一刻も早くここから離れなければ。

 ズキズキと痛む足を引きずりながら俺は全身がずぶ濡れになるのも気にせずに、木々の合間を縫うようにしてゆっくりと確実に小屋から遠ざかっていった。
 今気づいたけど、服装が懐かしの学ランだ。小中校って全部学ランだったな懐かしい。









「……どこだよここ…」



 進んで進んでやっとコンクリートの場所まで来たが、全くもってみたことのない場所だ。というか、今まで暗くてよく分からなかったんだけど…なんか、変。二次元的と言うか平面的というか…なんかこう、言いようのない不具合みたいな……やばい頭使いすぎて気持ち悪い吐きそう。
 俺はその場で立ち止まった。ぶっちゃけ、もう、疲労限界。これ以上は動けない…。いったん寝たい…お布団…。
 色々なことがありすぎて頭が正常に動かずにぼーっとする。さっきからずっと雨曝しなのでもしかしたら風邪をひいたのかもしれない。さっさと家帰ってシャワー浴びて寝たい…。

 どこか横になれる場所を、とずるずる足を引きずっていると、ふと目の前にチカ、と明かりが揺れた。



「…ん?君、こんなところでなにしてるんだい?」

「…ぁ」



 あのシルエット…お巡りさんだ…!よかった、これで現在地とか色々聞けるかもしれない。お巡りさんは俺を懐中電灯で下から上まで照らしてぎょっとした後、慌ててこちらに近寄ってきた。あ、そうだ俺今大けがしてたんだ、そりゃビビるわな…―――あ?え?


「き、君!どうしたんだそのケガ!!」

「っ!」



 お巡りさんが近づいてくるとその姿がはっきりくっきり判別できた。あら結構イケメン…じゃなくてだな、その、えっと…に、二次元過ぎない…?
 彼は紙の上に描いた人のように髪や服の皺などが簡略化されていて、影やハイライトも全くリアルじゃなかった。のに、ペーパークラフト感は全く感じない。でも三次元で生きてきた俺は違和感だけを覚えてしまう。



「血まみれじゃないか…!待って、今すぐ救急車を呼ぶから!」



 俺に傘を差しだして彼は慌てて無線のようなものを取り出した。その無線の相手に何かを言っているが…あの、悪いんスけど…すみません、体力の限界が来ました。

 ズシャァと俺は地面に崩れ落ちる。体温はめっちゃ低いのに流れてくる血は温かいってなんか微妙…ぶっちゃけ気持ち悪い…。



「!? おい、君!しっかりして、ちゃんと意識を保つんだ!」



 無理ですぅ…勘弁してくださいぃ…。
 めちゃくちゃ肩を揺す振られるがもう目を開けていられない。俺はゆっくりと襲ってくる睡魔に身を任せ瞼を閉じた。

 来世は痛みなく死ねる生き物がいいなァ…。




















______________
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「(…いきてる…)」



 目が覚めたら土砂降り雨曝しではなく、ちゃんとした室内だった。しかも真っ白で清潔感漂う俺の部屋とは大違いな。どこだろうここ、病院? 身体は鉛のように重くて動かなかったので頭だけを動かして周りを見る。

 …うん、どう見ても病院だわ。普通の、檻つきじゃない病院。嫁が増えて発狂する度によく友人から「Go to a mental hospital(精神科行け)」って罵られていたからまさかとは思ったが、杞憂だったようだ。…あ、ってことはまだ夢から覚めてないってこと?夢の中で目覚めるってなんか変な感じ。やっぱり周りの風景も、自分の身体も二次元的な構成だし、夢だよなぁ。……ん?でも痛みはしっかり感じていた訳で……どうなってんだ…?


 ベッドの上で一人うんうん悩んでいたらカラカラと控えめに扉が開かれた。お客だ。地元にいる母さんとかかな?
 頭を動かしてそちらを見ると、やっぱり二次元構成の人が立っていた。 しかし、今度は心中穏やかではいられなかった。最初から穏やかだった場面なんてないけど。



「…っ名松!!」



 彼は零れ落ちるんじゃないかと思うほどに目を見開き、次いでじわりじわりと涙を浮かべて俺に突撃してきた。



「目が覚めたんだな…!大丈夫か?痛いとこないか?」



 松野おそ松。


 どう見たってその人本人だ。彼はあの古き良き赤塚アニメ「おそ松くん」の「松野おそ松」だ。幼いころは俺はバカボン派だったのでおそ松くんは見ていなかったのだが、「さん」時代のものはすべて見た。というかハマった。松ボーイになった。因みに友人はトト子信者になってた。
 今のおそ松は俺と同じ学ランの下に赤のパーカーを着ていて、二次創作でよく見た学生松の恰好をしている。てことはまだ学生か。…何それめっちゃ萌えるんだけど。

 しかしながらどう反応していいのか分からずに返事を持て余していると、開きっ放しの扉から緑と紫がしゅっと素早く出てきた。
 チョロ松と一松だ。 彼らもおそ松に負けず劣らずに顔をくしゃ、と歪ませてこちらに駆け寄ってくる。



「名松にいさ…っ名松にいさん…!」

「名松、名松…っ」



 どうしよう、情緒が不安定だ。てか名松って誰よ。俺の名前ではないことは確かなんだけど。

 アニメでは見られない、珍しく(クソ可愛い)泣き顔の一松の頭を撫でようと腕に力をいれるがうまく動かない。
 どんだけ疲労してたんだろう俺。結構眠ったと思うんだけど。仕方なく彼らの名前を呼ぶことで何とか応対しよう。



「お゛、そ、っ――がふっえ゛、う゛ぇっ」

「! 名松、おい、どうした!?名松!」


 がらっがらの声を出せば噎せた。しにたい。おそ松が慌てて俺の肩に手を置くが、俺はそれを反射的に払いのけてしまった。ごめん、でも今はどうしても触ってほしくない。何でかって?単純に身体痛いからだよ。こちとら怪我人だぜ?肩ってアレ、ダイナミックお邪魔しましたの時に大分ダメージ受けて轟沈寸前なんだよ。今も咳をする衝撃で全身に痛みがびりびり走って仕方がない。
 それに喉もぴりぴりする。ぴりぴりっつか、いがいがっつか……がりがり?ボキャ貧ほんとスマンがめっちゃ喉痛い。割とやばい方の咳が止まらなくなる。喉より下の心臓辺りがぐるぐるする感覚が襲ってきて一層咳が止まらなくなり、吐き気すらも込み上げてきた。

 満足に動かない腕で喉元を抑えながら苦しんでいると、ばたばたと医師や看護師さんがやってきた。どうやらおそ松がナースコールで知らせてくれたようだ。


「名松兄さん…!」

「一松、一旦離れて…っ」

「離せ、離せよ!」

「落ち着け一松!」



 あっちもこっちも大騒ぎだ。病院内で本当にすみません。多分92%くらい俺のせいなんだろうけど。痛みで暴れる俺の腕を看護師さんが押さえつけてお医者さんがあちらこちらと聴診器を当てたり注射を打ったりしている。

 一松はおそ松とチョロ松に羽交い絞めにされていた。あ、なんかその構図最高です本当にごちそうさまでしたげふぁ。
 段々とまた意識のなくなる感覚にそろそろいい加減にしてくれと声を大にして叫びたかった。もうそろそろ期末試験の時期だから課題とか終わらせたい。早く現実に戻してくれ…。

 おそ松の「名松!」という声を最後に俺は再び意識を飛ばした。


 や、ほんと名松って誰だ。








***







 なーんてことがあった。いやあ、あん時は本当どうしようかと思った。なんか色々と修羅場だったなぁ。特におそ松たちがだけど。俺も俺でひっきりなしに見舞いに来る兄弟だと、家族だと名乗る松代さんや松造さんたちに真顔を貫くので精一杯だったけど。しばらくは名前呼ばれても全くのスルーで何回か呼ばれて「あ、俺名松か」ってなることが多かった。今ではもう定着しちゃって自分の元の名前思い出せないんだけどさ。リアル某神隠し映画だわ。

 隣ですやすや眠っている十四松にがっちりホールドされながら俺は一人で目を瞑って思考に耽っていたが、雨音の心地よさと十四松の子供体温にまんまと乗せられて船を漕ぎ始める。
 俺、一回目の起床はスムーズだけど二度寝すると本当に死んだように眠ってしばらく起きないからなぁ…。でもどうせこの様子じゃ今日一日雨だろうし、偶には布団の中で半日過ごすのもいいだろう。どうせニートだしな。

 そんなこんなで俺は半分抵抗していた睡魔に身を任せることにした。

































(side_ichimatsu)






 生憎と今日の天気は雨だ。これではいつもの空き地に行っても猫はおろか虫一匹いないだろう。こういう日は大人しく家に引きこもっておくに限る。…名松兄さんも今日は外出を諦めたようで、お昼前に目覚めた僕よりもよく眠っていて午後二時を回った今現在でさえも起きてきていない。偶にトド松やチョロ松兄さんが生きてるか確認しに二階に上がり、降りてきて「どんだけ眠るつもりなの…」と呟いている。しかし何もこれが初めてな訳ではない。この気温、気圧、天気の日には決まって名松兄さんは深く深く眠るのだ。まるで外界から意識をシャットダウンするように、すべての感覚を無にして自分の世界に引きこもる。こちらが声を掛けようが揺さ振ろうが全く反応を示さず、目を覚ますこともない。こうなったら兄さん自らが目を開けるのを待つ以外に起こす方法はないのだ。

 こんな天気なのでほかの兄弟も今日は誰も外に出ていない。普段はうるさい十四松やおそ松兄さんでさえ今日は大人しくテレビを見たりバランスボールに乗っかったりしていた。こういう日のおそ松兄さんは口数がほんの少しだけど少なくなる。
 外が雨では友だちの猫も遊びに来てはくれない。僕も暇を持て余し部屋の隅っこで膝を抱えてぼーっとしていた。…名松兄さんはまだ起きないのだろうか。




『…―――ました。警察は、誘拐事件とみて捜査を進め――』





 テレビのニュースキャスターのその言葉に、部屋にいる全員が反応した。画面には航空からの映像が流れていて、一軒の家を映し出していた。
 "誘拐"、その言葉に過剰に反応してしまうのはもう仕方がないことだ。



 名松兄さんは数年前のある日、数日間行方不明になった。それはまさしく"誘拐"。









 まだ中学生の時だった。みんな今の性格とは違ったり同じだったりやっぱりどこか違ったり、一人ひとり個性が顔を出したり隠れたりしていた不安定な時期。何の前触れもなく名松兄さんは消えた。
 十時を過ぎても、日付が変わっても帰ってこない兄さんに兄弟は泣いたりそわそわと落ち着きのない動きをしたり、警察に行った父さんと母さんが帰ってくるまでずっと何もできずにじっとしていた。名松兄さんが消えて二十四時間が経った頃には十四松とトド松は二人で寄り添ってぐずぐず泣きながら布団に入っていた。僕はそんな二人の頭を撫でながら名松兄さんを探しに行ったおそ松兄さんたちの帰りをずっと待ってたんだっけ。

 三日かそれくらいの日が経ち、もういよいよダメなんじゃないかと思っていた頃に警察から「息子さんが見つかりました、今病院にいます」と連絡が来たときは本当に全身の力が抜けた。その日が丁度こんな天気の日だったのだ。

 やっと見つかった、やっと会える。やっとまたいつもの"七つ子"に戻れる。 その時はそんなことばかり考えていた。逸る気持ちを必死に抑えて病院へ行き、そしてまた絶望した。


 名松兄さんはベッドの上で眠っていた。その腕に、足に、首に包帯を巻かれ。額や右目にガーゼが貼られていて、頬や指先にある細かな切り傷や擦り傷が痛々しかった。顔色は悪く医者の「眠っているだけなので大丈夫ですよ、命に別状はありません」と言う言葉すら信じられなかったのだ。僕や弟たちは名松兄さんに縋りついた。何度も何度も名前を呼ぶが、全然反応してくれない。
 なんで、どうして、なんで兄さんが、なんでなんで。 言葉にならない言葉を泣きながら何度も叫ぶ。



 それからやって来た警察から何か話があったらしいが、僕は全然聞いていなかった。ただ兄さんの傍に居て、起きて笑ってくれるのをバカみたいにひたすらずっと待っていた。




 例え名松兄さんが起きたとしても、もう元通りの日常が戻って来ないとも知らずに。


















 ドッと観客が笑う声で我に返る。
 いつの間にかテレビのチャンネルはニュースからバラエティに変わっていた。おそ松兄さんが変えたのか。


 居間にはカラ松と十四松がいなかった。おそらく名松兄さんの様子を見に行ったのだろう。



「今日母さんたちいないんだってさ、晩飯どうするよ」

「え、そうなの?じゃあ僕オムライス食べたいな〜」

「材料ないだろ」

「買いに行ってよチョロ松兄さん」

「嫌に決まってるだろ!外土砂降りだっつの!」




 わいわいといつものように騒ぐ兄弟たちを見る。



 名松兄さんを誘拐し、暴行した犯人は未だ捕まっていない。あちこち逃げ回っているのだろうか。最初こそ噂話で持ち切りになったものの、一ヶ月もたてば自然と人々の興味から外されて目撃情報も少なくなってくる。
 時効までまだあるとはいえ、このまま犯人のはの字も出ずに終わるのは全くもって納得がいかない。せめて、名松兄さんと同じ場所に同じ痛みとケガを味合わせて、そのあとで殺してやりたい。僕の、僕らの手で。



「一松は?」

「っ…何が?」

「晩飯だよばーんーめーし!」

「ね、オムライスだよね?ね?」

「別に…何でも…」



 てか、どうせ作るの兄さんたちだし…食べられれば何でもいい。そう返事を返せばトド松は不満そうにえーと声を上げる。


 その時障子が音もなくスッと開いた。目だけを動かしてそちらを見ればパジャマ姿で目を閉じたまま立っている名松兄さんの姿があった。



「お、名松おはよ〜」

「おなよう名松。顔洗った?」


「…………ぉぁ゛…」



 訳の分からない擬音だけを喋りまたカクン、と頭を下げる。絶対まだ寝てるだろアレ。

 名松兄さんの後ろではカラ松が兄さんの肩に手を置いていた。



「名松、まずそのお寝坊さんな顔とCuteな寝癖を直しに行こう」

「死ねクソ松引っ込んでろ」

「えっ」



 カラ松を押しのけて名松兄さんの手を引っ張る。されるがままの兄さんに少しだけ心配になった。本当にこの人二度寝起きはポンコツだ。
 向こうで十四松が「名松にーさーん!ウォッシングキャッシングー!」と意味不明なことを叫んでいた。多分顔洗えって言いたいんだろう。



 僕は自分の手をきゅっと握る名松兄さんの手を少しだけ強く握り返した。



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