[IF.よゐこわるいこおびえるこ(そのさん)]
※モブおじさん注意
ハァ―――――ッ やってらんね―――――。
現在俺は商店街のコンクリート道をトボトボ歩いている。その背中はさぞかし哀愁が漂っているだろう。いつもなら元気に声を掛けてくるおっちゃんやおばちゃんも「あっ…(察し)」みたいな反応でそっとしといてくれるんだもん。ハァ―――――ッ(二回目)。
何故俺のテンションがこんなに低いのか、それはつい先ほど寄ったショップのせいだ。
「(ハァァァァァァシーズー可愛すぎか―――)」
ペットショップに寄ってきました。
本当にただ魔が差しただけというか、マジで最初は寄るつもりなかった。カメラとか持ってるからあんまり堂々と入るのもな〜と思って素通りしようとしたんだけど、店頭に設置されていた柵の中にちょっとだけ大きめなゴールデンレトリバーの子供がいて、めっちゃ尻尾振ってこっち見てんの。これ、もう、寄れっつってるようなもんでしょ?誘惑に負けた俺はふらふらと店の中に入り、インコやらうさぎやらハムスターやら可愛らしい小動物たちと触れ合ってきた。しかも一番目を引いたのが生後一ヶ月?二ヶ月?かそこらのシーズーの赤ちゃんで、毛がもっふもふでつぶらな瞳でもう本当に可愛いんだこれが。思わず泣き崩れそうになった。二次元構成の癖になんでここまで可愛いんだよちくしょう…! ただでさえ最近煮干しが足に無数に突き刺さるとかいう謎の悪夢見て寝ざめ悪いのに…癒しが欲しくなってしまう…!
しばらくショップでもふもふ天国を楽しんだが、そこを出た途端に虚無感に襲われたのだ。ああ…なんでうちには犬のペットいないの…。そんな感じ。偶に一松が猫を招待してるけど、割とランダムだしずーっと一松と遊んでてこっちに見向きもしてくれないんだよなぁ…しかも猫だから結構気儘なんだよね。 猫も良いけど犬も好きだから、全力で構えて全力で構ってくれるもふもふが欲しい…そう、犬が…! ……え、十四松?いやアレも確かに犬っぽいけど…パチンコ警察の時とか警察犬してて俺の犬になりませんかとか真剣に考えたけど。ちゃんとしたもふもふが欲しい…もふもふ…もふもふ……俺の…もふもふ……。
重たい溜息を吐きながら俺はふらりふらりと適当に歩いていく。
しばらく進んでハッとしたらそこは前に来たあの場所だった。今俺が立っているのはちゃんと舗装された道だが、少し外れればすぐにあの林があり、そこを進めばあのボロ小屋もあるのだろう。何故無意識にここに来たんだ自分は。
しかしまあ折角来たのだから少しだけ散策してから帰ろう。…そういえばあの小屋ってあの雨の日以来一度も行っていないな。行こうとも思わなかったし。いい機会だ、この際ちょっとだけ資料として写真を撮らせてもらおう。
しばらくは道なりに進み、適当なところでガサ、とモロに林の中に突っ込む。あの時は身体は学生だったからこの林が森みたいに見えたけど、今見るともう大人なのでそうでもない。 ……いや結構森っぽいな…。
ざりざりと時折落ち葉や小枝を足で寄せながら進んでいくが、お目当てのボロ小屋は一向に見えてこない。
「…なんでだ…?」
なんでもくそもねえ。と自問自答する。己の方向音痴が憎い。同じところをぐるぐる回っている気がしないでもない、これどうやってループから抜け出そう。
ハァ、と軽くため息を吐いたときだった。
「―――っ」
この前感じたとてつもない悪寒がまた背筋を走り抜ける。しかもこの前よりもずっとずっと嫌な感じで、思わずその場で立ち止まった。
腕を擦りながら周りをきょろきょろを見回すも何もない。…気のせい? しかし鳥肌と身体の震えは一向に収まらない。そのうち立っていられなくなりずるずるその場に座り込んでしまう。これ俺自力で帰れるか…?もしもの時の為にとりあえず携帯出しておこう。
震える手で携帯を操作し、某緑のSNSのトーク画面(松野家兄弟グループ)を開いた状態にしておく。
落ち着け、落ち着け自分。全くもってなんの問題もない、そう、言うなれば今はオールパーフェクトな状態だ。
見ろ、周りの景色を。綺麗な木漏れ日、瑞々しい葉、全身黒づくめの男。
「…――ひっ」
ずざ、と尻もちをついたまま後ずさる。 なんだ、こいつ。さっきまでいなかったのに急に出てきやがった。…まさかスタンド使いか……?
男を視界に入れると身体の震えがより一層強まった。心臓もどくどくとうるさく手汗が滲み、足の傷がまだ生々しかったあの頃のように痛みだす。
「ああ、やっと会えた…! そっちから会いに来てくれるなんて嬉しいよ…!」
いやいやいや…誰だ…おま、誰だ…??? 本当に心当たりないうえに本能が全力で「こいつ ダメ」みたいに告げてるんだけど…おっさん、本気で誰だ…。見た目は、まあ、どこにでもいそうな感じの…もっと言えばモブおじさんで使われてそうなビジュアルをしている。でも案外こういう人の方が普通の人より優しかったりするんだよね。…今はぶっちゃけ逃げたいとしか思えないんだけどね。俺人を見た目で判断するような奴じゃなかったはずなんだが…俺も見た目ぶっちゃけ不審者だし…。
おっさんが一歩近づく度に嫌な感じは増す。奥歯がかちかちと音を立て呼吸が荒くなった。
……怖い、のか? "俺"はこの人のことを心の底から恐怖対象として見ているのだろうか。だとしたらまあこの俺の挙動不審加減は納得ではあるんだけど、いやでも本当に初対面なんだよ、誰だ。
「折角会いに来てくれたのに…ごめんね、まだ準備が整ってないんだ。
…でも、勿体ないから二人で思い出の場所に行こう?今度はきっと大丈夫だよ」
「…っあ、」
俺は見てしまった。
不気味なくらいに笑みを深めたおっさんの左手に黒いものが握られているのを。それは時折バチ、と音を立てて白い閃光を放っている。
ダメだ、マジで怖い。これ普通にエロ同人的な展開になれば命は助かるかもしんないんだけど、それだと色々と失うものが多すぎる。そして万一おっさんがリョナラーだった場合俺の人生はそこで終了する。あまりの恐怖と混乱で俺はただガタガタと震えるだけで逃げ出すことはおろか、立ち上がることもできなかった。腰抜け辛い。
全く動く気配のない俺に歩み寄ったおっさんはスッと俺の首にその黒いもの、スタンガンを宛がう。ビクリと震えた俺を見ておっさんはちょっとだけ困ったような笑みを浮かべた。
「ちょっとだけびっくりするかもしれないけど、我慢してね?」
ちょっとどころじゃない気がするんですがそれは。おっさんのその表情はそこだけなら日常的に出てきそうなちょい頼りない親父って感じの顔だった。しかしまあ全体図がとんでもないことになっているのでヤバさは変わらない。現実逃避したい。
話し合いで何とかできないだろうか。俺の一番苦手な分野であるコミュニケーション力を駆使しなければならないが、この際我儘は言ってられない。エロ同人になるにしろならないにしろ、この男をこれ以上シャバにのさばらせておくわけにはいかないだろう。だって本当に目がやばいんだもんこの人。
「ぁ、の、」
「おやすみ」
話すら聞いてくれなかった。もうしらないおっさんのバカ!
バチン!という音と共に、目の前が一瞬真っ白になって首を中心にして全身に鋭い痛みが走る。その後すぐに俺はふらりと地面に倒れこんだ。
その拍子に俺の手からするりと携帯が滑り落ちた。
「あ゛…っぅ、」
「あれ、まだ意識あるの? 電力間違えちゃったかな…ごめんね名松くん」
ごめんねで済むかボケ。
あと本当にどこで会ったんですかね俺たち、俺の名前知ってるってことは本当に知り合いなの? びく、と痙攣している俺の頬をおっさんは優しく撫でた。うう…きぼちわる゛い…。
「い゛…ぁ…っ」
「さて、じゃあ行こうか」
「…っだ、…たす、け…」
「大丈夫、俺が助けてあげるからね」
はいはい勘助乙。本気で誰か助けてくれ…おそ松にいさ――ん!
(side_jyushimatsu)
「なんか最近名松兄さん変じゃない?」
最初にそう言い出したのはトド松だった。
なんでも、先日名松兄さんと偶然駅で会ったときに様子がおかしく、その後もふと見れば何か違和感を感じる雰囲気を醸し出している、らしい。そういえば、と僕も今日までの名松兄さんのことを思い出す。
天気が良くてもあまり外出しなくなったしなんだか食欲も落ちちゃってるみたい。夕飯も半分くらいしか食べないで僕に「お腹いっぱいだから、十四松にあげるよ」って言ってくるし、肉とかだったらカラ松兄さんにあげちゃうし。それに夜寝ている時に偶に魘されているようだ。本当に小さな小さな声で寝苦しく唸っているので、多分僕とかチョロ松兄さんしか知らないかもしれないけど。
最近は目に見えて調子が悪いのか、大好きな絵も描くことなく日がな一日死んだように眠っていることが多くなった。理由を聞いてもうまくはぐらかされるが、この前食い下がって食い下がって名松兄さんの弱点である半泣き攻撃を仕掛けたところ、ぽろっと話してくれたのだ。
―「…最近、足の痛みがひどくて…」
足の痛み、ということは、あの日にできた傷のことだろうか?それなら病院に行った方がいいんじゃ?なんて兄さんに言っても、「そんなに大したことでもないから、大丈夫だよ」と言ってくれただけだった。あんな最悪な顔色で言われても説得力皆無でっせ…。
そのことをおそ松兄さんに相談すると兄さんも気づいていたようで、携帯を取り出してとあるアプリをあっけらかんとした態度で見せてくれた。それはおそらく近所のマップで、とある一点に丸いマークが点滅している。
「これなあに?」
「GPS、名松のカメラにつけてる。最近は便利な時代になったもんだよなー」
「じーぴーえす」
ちょっと難しくて分からなかったけど、簡単に言えば名松兄さんの居場所がすぐにわかるものらしい。すげえや流石おそ松兄さん! これで安心していいのかな。名松兄さん、元気になってくれるかな。
そうだ、今日兄さんが帰ってきたら一松兄さんと一緒に子猫を見に行こうって誘ってみよう。動物が大好きな名松兄さんだからきっとついてきてくれるだろう。一松兄さんは先ほどまで素振りに付き合っていてくれたのでその辺で気絶している。名松兄さんが帰ってくる前に叩き起こしておかなくちゃ!
ふんふん、と機嫌よく鼻歌を歌いながら「だぁ――…負けたぁー……」なんて言って丁度部屋に入ってきたおそ松兄さんに「名松兄さん今どのへん!?」と聞くとおそ松兄さんは面倒くさそうに携帯を取り出し電源を入れた。
「んーとぉ…アレ、どこだここ」
「どこどこぉ?」
床に転がっている一松兄さんをひょいと跨ぎながらおそ松兄さんに近づく。画面をのぞき込むとそこは普段僕らがいかない場所の地名を記していた。
「多分それ隣町じゃない?」
「うわっ、いつの間に…」
「チーッスチョロ松兄さん!」
音もなく背後に現れたチョロ松兄さんにおそ松兄さんがびくりと肩を震わせた。チョロ松兄さんやっべーね、全く気配なかった!
「ほら、ここの公園…というか広場? ちょっと前に不審者が出たってので人があんまり来なくなったとこでしょ」
「へえ…てか何でそんなとこに…」
「名松人混みとか騒がしいの嫌いだからじゃない? ここちょっとした森みたいなのあるからそこで写真撮ってるのかもよ」
「不審者が出たんだろ?あぶねーなぁ…」
ぶつぶつ文句を言うおそ松兄さんは数回携帯をタップした後ん゛〜〜〜、と唸った。
「…ちょい迎えに行ってくるわ」
「え、名松を?」
「名松を」
携帯をポケットに仕舞い部屋を出ていこうとするおそ松兄さんにチョロ松兄さんが声を掛ける。いつの間にか一松兄さんも復活していて上半身だけを上げておそ松兄さんを見ていた。
僕もついてっていいかなー。早く名松兄さんと遊びに行きたいし。
「名松ももう成人男性なんだから、何も迎えにくことはないんじゃない?」
「まあそうなんだけどさ〜虫の知らせっての?なんかちょっと変な感じがするからお兄様直々に名松を保護しようと思って」
「…保護と言う名の捕獲…」
「うっせえぞ一松! それにあいつ最近様子おかしかったろ?」
何だかんだでおそ松兄さんも名松兄さんを心配していたのか。それを聞いてチョロ松兄さんも何も言えなくなったようでぐっと押し黙った。
「ねえねえ!みんなでお迎え行こうよ!」
「ハァ?なんで?」
「だってどうせニートだから暇デショ?」
「うっ…心に来ることサラッと言うじゃねえか…」
「帰りにさ〜子猫見に行きたい!」
「じゃあ俺はお馬さん見に行きたいな〜」
「ほんとクズだなお前…負けたんじゃなかったのかよ」
「それはほら、回すほうだから」
ああだこうだ言いながらも名松兄さんを迎えに行くのは異論無しのようで、みんなして玄関へと向かう。生憎とカラ松兄さんはチビ太んとこで、トド松は女の子と用事があるらしく家に居なかったので二人は誘えなかったけど。
「じゃ、行きますかね〜」
おそ松兄さんは気だるげに靴を履きながら言った。
早く名松兄さんに会いたいな〜。
ハァ―――――ッ やってらんね―――――。
現在俺は商店街のコンクリート道をトボトボ歩いている。その背中はさぞかし哀愁が漂っているだろう。いつもなら元気に声を掛けてくるおっちゃんやおばちゃんも「あっ…(察し)」みたいな反応でそっとしといてくれるんだもん。ハァ―――――ッ(二回目)。
何故俺のテンションがこんなに低いのか、それはつい先ほど寄ったショップのせいだ。
「(ハァァァァァァシーズー可愛すぎか―――)」
ペットショップに寄ってきました。
本当にただ魔が差しただけというか、マジで最初は寄るつもりなかった。カメラとか持ってるからあんまり堂々と入るのもな〜と思って素通りしようとしたんだけど、店頭に設置されていた柵の中にちょっとだけ大きめなゴールデンレトリバーの子供がいて、めっちゃ尻尾振ってこっち見てんの。これ、もう、寄れっつってるようなもんでしょ?誘惑に負けた俺はふらふらと店の中に入り、インコやらうさぎやらハムスターやら可愛らしい小動物たちと触れ合ってきた。しかも一番目を引いたのが生後一ヶ月?二ヶ月?かそこらのシーズーの赤ちゃんで、毛がもっふもふでつぶらな瞳でもう本当に可愛いんだこれが。思わず泣き崩れそうになった。二次元構成の癖になんでここまで可愛いんだよちくしょう…! ただでさえ最近煮干しが足に無数に突き刺さるとかいう謎の悪夢見て寝ざめ悪いのに…癒しが欲しくなってしまう…!
しばらくショップでもふもふ天国を楽しんだが、そこを出た途端に虚無感に襲われたのだ。ああ…なんでうちには犬のペットいないの…。そんな感じ。偶に一松が猫を招待してるけど、割とランダムだしずーっと一松と遊んでてこっちに見向きもしてくれないんだよなぁ…しかも猫だから結構気儘なんだよね。 猫も良いけど犬も好きだから、全力で構えて全力で構ってくれるもふもふが欲しい…そう、犬が…! ……え、十四松?いやアレも確かに犬っぽいけど…パチンコ警察の時とか警察犬してて俺の犬になりませんかとか真剣に考えたけど。ちゃんとしたもふもふが欲しい…もふもふ…もふもふ……俺の…もふもふ……。
重たい溜息を吐きながら俺はふらりふらりと適当に歩いていく。
しばらく進んでハッとしたらそこは前に来たあの場所だった。今俺が立っているのはちゃんと舗装された道だが、少し外れればすぐにあの林があり、そこを進めばあのボロ小屋もあるのだろう。何故無意識にここに来たんだ自分は。
しかしまあ折角来たのだから少しだけ散策してから帰ろう。…そういえばあの小屋ってあの雨の日以来一度も行っていないな。行こうとも思わなかったし。いい機会だ、この際ちょっとだけ資料として写真を撮らせてもらおう。
しばらくは道なりに進み、適当なところでガサ、とモロに林の中に突っ込む。あの時は身体は学生だったからこの林が森みたいに見えたけど、今見るともう大人なのでそうでもない。 ……いや結構森っぽいな…。
ざりざりと時折落ち葉や小枝を足で寄せながら進んでいくが、お目当てのボロ小屋は一向に見えてこない。
「…なんでだ…?」
なんでもくそもねえ。と自問自答する。己の方向音痴が憎い。同じところをぐるぐる回っている気がしないでもない、これどうやってループから抜け出そう。
ハァ、と軽くため息を吐いたときだった。
「―――っ」
この前感じたとてつもない悪寒がまた背筋を走り抜ける。しかもこの前よりもずっとずっと嫌な感じで、思わずその場で立ち止まった。
腕を擦りながら周りをきょろきょろを見回すも何もない。…気のせい? しかし鳥肌と身体の震えは一向に収まらない。そのうち立っていられなくなりずるずるその場に座り込んでしまう。これ俺自力で帰れるか…?もしもの時の為にとりあえず携帯出しておこう。
震える手で携帯を操作し、某緑のSNSのトーク画面(松野家兄弟グループ)を開いた状態にしておく。
落ち着け、落ち着け自分。全くもってなんの問題もない、そう、言うなれば今はオールパーフェクトな状態だ。
見ろ、周りの景色を。綺麗な木漏れ日、瑞々しい葉、全身黒づくめの男。
「…――ひっ」
ずざ、と尻もちをついたまま後ずさる。 なんだ、こいつ。さっきまでいなかったのに急に出てきやがった。…まさかスタンド使いか……?
男を視界に入れると身体の震えがより一層強まった。心臓もどくどくとうるさく手汗が滲み、足の傷がまだ生々しかったあの頃のように痛みだす。
「ああ、やっと会えた…! そっちから会いに来てくれるなんて嬉しいよ…!」
いやいやいや…誰だ…おま、誰だ…??? 本当に心当たりないうえに本能が全力で「こいつ ダメ」みたいに告げてるんだけど…おっさん、本気で誰だ…。見た目は、まあ、どこにでもいそうな感じの…もっと言えばモブおじさんで使われてそうなビジュアルをしている。でも案外こういう人の方が普通の人より優しかったりするんだよね。…今はぶっちゃけ逃げたいとしか思えないんだけどね。俺人を見た目で判断するような奴じゃなかったはずなんだが…俺も見た目ぶっちゃけ不審者だし…。
おっさんが一歩近づく度に嫌な感じは増す。奥歯がかちかちと音を立て呼吸が荒くなった。
……怖い、のか? "俺"はこの人のことを心の底から恐怖対象として見ているのだろうか。だとしたらまあこの俺の挙動不審加減は納得ではあるんだけど、いやでも本当に初対面なんだよ、誰だ。
「折角会いに来てくれたのに…ごめんね、まだ準備が整ってないんだ。
…でも、勿体ないから二人で思い出の場所に行こう?今度はきっと大丈夫だよ」
「…っあ、」
俺は見てしまった。
不気味なくらいに笑みを深めたおっさんの左手に黒いものが握られているのを。それは時折バチ、と音を立てて白い閃光を放っている。
ダメだ、マジで怖い。これ普通にエロ同人的な展開になれば命は助かるかもしんないんだけど、それだと色々と失うものが多すぎる。そして万一おっさんがリョナラーだった場合俺の人生はそこで終了する。あまりの恐怖と混乱で俺はただガタガタと震えるだけで逃げ出すことはおろか、立ち上がることもできなかった。腰抜け辛い。
全く動く気配のない俺に歩み寄ったおっさんはスッと俺の首にその黒いもの、スタンガンを宛がう。ビクリと震えた俺を見ておっさんはちょっとだけ困ったような笑みを浮かべた。
「ちょっとだけびっくりするかもしれないけど、我慢してね?」
ちょっとどころじゃない気がするんですがそれは。おっさんのその表情はそこだけなら日常的に出てきそうなちょい頼りない親父って感じの顔だった。しかしまあ全体図がとんでもないことになっているのでヤバさは変わらない。現実逃避したい。
話し合いで何とかできないだろうか。俺の一番苦手な分野であるコミュニケーション力を駆使しなければならないが、この際我儘は言ってられない。エロ同人になるにしろならないにしろ、この男をこれ以上シャバにのさばらせておくわけにはいかないだろう。だって本当に目がやばいんだもんこの人。
「ぁ、の、」
「おやすみ」
話すら聞いてくれなかった。もうしらないおっさんのバカ!
バチン!という音と共に、目の前が一瞬真っ白になって首を中心にして全身に鋭い痛みが走る。その後すぐに俺はふらりと地面に倒れこんだ。
その拍子に俺の手からするりと携帯が滑り落ちた。
「あ゛…っぅ、」
「あれ、まだ意識あるの? 電力間違えちゃったかな…ごめんね名松くん」
ごめんねで済むかボケ。
あと本当にどこで会ったんですかね俺たち、俺の名前知ってるってことは本当に知り合いなの? びく、と痙攣している俺の頬をおっさんは優しく撫でた。うう…きぼちわる゛い…。
「い゛…ぁ…っ」
「さて、じゃあ行こうか」
「…っだ、…たす、け…」
「大丈夫、俺が助けてあげるからね」
はいはい勘助乙。本気で誰か助けてくれ…おそ松にいさ――ん!
(side_jyushimatsu)
「なんか最近名松兄さん変じゃない?」
最初にそう言い出したのはトド松だった。
なんでも、先日名松兄さんと偶然駅で会ったときに様子がおかしく、その後もふと見れば何か違和感を感じる雰囲気を醸し出している、らしい。そういえば、と僕も今日までの名松兄さんのことを思い出す。
天気が良くてもあまり外出しなくなったしなんだか食欲も落ちちゃってるみたい。夕飯も半分くらいしか食べないで僕に「お腹いっぱいだから、十四松にあげるよ」って言ってくるし、肉とかだったらカラ松兄さんにあげちゃうし。それに夜寝ている時に偶に魘されているようだ。本当に小さな小さな声で寝苦しく唸っているので、多分僕とかチョロ松兄さんしか知らないかもしれないけど。
最近は目に見えて調子が悪いのか、大好きな絵も描くことなく日がな一日死んだように眠っていることが多くなった。理由を聞いてもうまくはぐらかされるが、この前食い下がって食い下がって名松兄さんの弱点である半泣き攻撃を仕掛けたところ、ぽろっと話してくれたのだ。
―「…最近、足の痛みがひどくて…」
足の痛み、ということは、あの日にできた傷のことだろうか?それなら病院に行った方がいいんじゃ?なんて兄さんに言っても、「そんなに大したことでもないから、大丈夫だよ」と言ってくれただけだった。あんな最悪な顔色で言われても説得力皆無でっせ…。
そのことをおそ松兄さんに相談すると兄さんも気づいていたようで、携帯を取り出してとあるアプリをあっけらかんとした態度で見せてくれた。それはおそらく近所のマップで、とある一点に丸いマークが点滅している。
「これなあに?」
「GPS、名松のカメラにつけてる。最近は便利な時代になったもんだよなー」
「じーぴーえす」
ちょっと難しくて分からなかったけど、簡単に言えば名松兄さんの居場所がすぐにわかるものらしい。すげえや流石おそ松兄さん! これで安心していいのかな。名松兄さん、元気になってくれるかな。
そうだ、今日兄さんが帰ってきたら一松兄さんと一緒に子猫を見に行こうって誘ってみよう。動物が大好きな名松兄さんだからきっとついてきてくれるだろう。一松兄さんは先ほどまで素振りに付き合っていてくれたのでその辺で気絶している。名松兄さんが帰ってくる前に叩き起こしておかなくちゃ!
ふんふん、と機嫌よく鼻歌を歌いながら「だぁ――…負けたぁー……」なんて言って丁度部屋に入ってきたおそ松兄さんに「名松兄さん今どのへん!?」と聞くとおそ松兄さんは面倒くさそうに携帯を取り出し電源を入れた。
「んーとぉ…アレ、どこだここ」
「どこどこぉ?」
床に転がっている一松兄さんをひょいと跨ぎながらおそ松兄さんに近づく。画面をのぞき込むとそこは普段僕らがいかない場所の地名を記していた。
「多分それ隣町じゃない?」
「うわっ、いつの間に…」
「チーッスチョロ松兄さん!」
音もなく背後に現れたチョロ松兄さんにおそ松兄さんがびくりと肩を震わせた。チョロ松兄さんやっべーね、全く気配なかった!
「ほら、ここの公園…というか広場? ちょっと前に不審者が出たってので人があんまり来なくなったとこでしょ」
「へえ…てか何でそんなとこに…」
「名松人混みとか騒がしいの嫌いだからじゃない? ここちょっとした森みたいなのあるからそこで写真撮ってるのかもよ」
「不審者が出たんだろ?あぶねーなぁ…」
ぶつぶつ文句を言うおそ松兄さんは数回携帯をタップした後ん゛〜〜〜、と唸った。
「…ちょい迎えに行ってくるわ」
「え、名松を?」
「名松を」
携帯をポケットに仕舞い部屋を出ていこうとするおそ松兄さんにチョロ松兄さんが声を掛ける。いつの間にか一松兄さんも復活していて上半身だけを上げておそ松兄さんを見ていた。
僕もついてっていいかなー。早く名松兄さんと遊びに行きたいし。
「名松ももう成人男性なんだから、何も迎えにくことはないんじゃない?」
「まあそうなんだけどさ〜虫の知らせっての?なんかちょっと変な感じがするからお兄様直々に名松を保護しようと思って」
「…保護と言う名の捕獲…」
「うっせえぞ一松! それにあいつ最近様子おかしかったろ?」
何だかんだでおそ松兄さんも名松兄さんを心配していたのか。それを聞いてチョロ松兄さんも何も言えなくなったようでぐっと押し黙った。
「ねえねえ!みんなでお迎え行こうよ!」
「ハァ?なんで?」
「だってどうせニートだから暇デショ?」
「うっ…心に来ることサラッと言うじゃねえか…」
「帰りにさ〜子猫見に行きたい!」
「じゃあ俺はお馬さん見に行きたいな〜」
「ほんとクズだなお前…負けたんじゃなかったのかよ」
「それはほら、回すほうだから」
ああだこうだ言いながらも名松兄さんを迎えに行くのは異論無しのようで、みんなして玄関へと向かう。生憎とカラ松兄さんはチビ太んとこで、トド松は女の子と用事があるらしく家に居なかったので二人は誘えなかったけど。
「じゃ、行きますかね〜」
おそ松兄さんは気だるげに靴を履きながら言った。
早く名松兄さんに会いたいな〜。