[▼冒険を続けますか?]

※チョロ松×母親キャラの描写が出てきます※












「…ん゛ー……」


 寝苦しくて目が覚めた。目の前には猫のドアップってデジャブだな、エスパーにゃんこ私大好きか可愛いです。



 目を擦りながら上半身を起こすと、見知らぬ部屋が視界に入る。
 エスパーにゃんこがいることから分かってはいたが、どうやら寝ても現実に戻ることはないらしい。世知辛いな。








 昨日、色々あってあれからトド松たちにもみくちゃにされた私は大人しくお風呂に入って(十四松と入った。ちょっと居た堪れなかった)就寝した。チョロ松に頭を撫でられ「先に寝てな」と言われたので大人しく私の部屋であろう障子(ご丁寧にネームプレート提げられてた)を開けて部屋に入ると二組の布団が敷いてあったのだ。
 果てしない混乱と果てしない眠気が混ざり合って私の頭はパンクしそうだった。なんだ、新婚部屋か?と真顔でツッコんで私は小さい方の布団に潜り込んで寝た。なぜかチョロ松の娘としておそ松さんの世界に迷い込んだ(?)のはいいものの、正直慣れていない部屋で寝たせいかあまり疲れは取れなかった。気怠い身体をぐっと伸ばして息を吐く。


 そして、隣に目をやる。



「…(寝顔かわええ)」

「んにぃ」

「ん。おはようにゃんこ」



 いつの間にか起きていてすり寄ってきたエスパーにゃんこの頭を撫でながら、隣で眠るわが父―――チョロ松の寝顔を堪能する。

 どうやらこの部屋は私とチョロ松共同の部屋のようだ。私としては六つ子が川の字になって寝ている光景が見たかったのだが…致し方なし…!隣で寝てもらうなんてチョロ松推しの私としてはもう死んでも悔いは残らない。人生楽しかったありがとう神様。

 そしてやはりというか、母親はいなかった。布団が用意されていないということはそういうことなのだろう。トト子ちゃんかにゃーちゃんかと思ったのにどうやら違うらしい。その証拠に私、とチョロ松の部屋には見知らぬ一人の女性が写っている写真が立て掛けられている。
 私はにゃんこを抱きながら立ち上がってその写真を手に取る。


 写真の中の女性は柔らかい笑みを浮かべていて、とてもきれいだなと思う。こんな人が私の母親だなんて…いや私のではないな、"この子"の母親か。……でも、いないんだよなぁ…。なんかちょっと悲しいというか、切ないというか。

 写真だけでも優しい人だったんだろうなというのが分かる。聖母なんじゃないかってくらい優しい笑みだし、何より雰囲気がおっとり美人風なのだ。…チョロ松…!良い人と一緒になったじゃないか…!チョロ松girlの私としては嬉しい限りです。


 写真をもと会った場所に戻し、今だすやすや眠り続けるチョロ松を見た。


「…おこしてもいいのかなぁ…」

「にぃ」

「あ、にゃん――」

「に」
「ふげぇっ」


 誰に聞くでも無しに呟いた言葉は見事にゃんこに拾われたようで、にゃんこは短く鳴いて私の腕からぴょんと飛び降りた。そしてダイレクトにチョロ松の顔面に着地する。あの子結構重量あるよな。

 スタイリッシュおはようございますをされたチョロ松は案の定奇声を上げて目を開ける。


「あーあー…」

「な、なに…!?」

「おはようお父さん」

「…? おはよう名松……いったい、何が…」

「にゃんこが、ちょっとね」




 止められませんでしたごめんなさい。それでもチョロ松は欠伸をしながら私の頭を撫でる。良いお父さん…!現実の父さんにこんなことされたらバックステップで避けて「何が…何が望みだ…?」って真剣に問うと思うけど。

 少し眠たそうな目でぱちぱちと数度瞬きを繰り返してやっと覚醒するチョロ松。もう一度おはよう、と声を掛けると彼も笑っておはよう、と言ってくれた。



「ちょっと早いけど、もう起きようか」

「うん。……おそまつ兄さんたちは?」

「うーん、まあいいんじゃない?」


 すり寄ってきたにゃんこを抱き上げながら襖に目を向ければ、一枚挟んで向こう側で寝ているであろうおそ松たちにチョロ松は白い眼を向けた。


「昨日、アレからまた飲んでたみたいだしね…」

「おそまつ兄さんおさけ好きだよね。おいしいの?」

「いや、アレはお酒が好きなんじゃなくて、お酒を飲んでる自分が好きなんだと思うよ」


 な、なんだその年頃の女子の哲学みたいな理屈は…。「かわいい〜」って言ってる自分が可愛いみたいなそんな感じのやつ。


「もうおばあちゃんが朝ごはん作ってくれてるから、着替えたら居間に降りてきなさい。今日学校お昼までなんだろ?」

「うん」

「にゃー」


 ごめん知らない。昨日幼女に着任したばかりだから。

 適当に返事をしたが、チョロ松はにっこりと笑って廊下に続く障子に手を掛けた。


「今日、カラ松兄さんと十四松兄さんがおやすみだから、帰ったら一緒に遊んでくれるって」

「ほんと?」


 リアルにそれは嬉しい。チョロ松は頷いて「まあ、まずは学校だね」と言って廊下へ出て行ってしまった。
 わあ、わあ…!カラ松と十四松が遊んでくれる…!昨日のカラ松の取り乱し加減は二十歳越えの男性としてどうだ?と少し真剣に悩むものだったが、それほどこの幼女――"名松ちゃん"が大事だったのだろう。確かに、昨日洗面所で見たけどめちゃくちゃに可愛いよねこの子。誘拐されたって言われたら「やっぱり!!だって可愛いもん!!」って素で言っちゃいそうなくらい可愛い。

 チョロ松によれば今日はお昼までのようだし、今日一日はヌルゲーだな。小学生っぽいから勉強だって簡単だし。
 うんうんと頷いたが、とあることに気が付きはた、と動きを止める。


 …制服あんの? ぐるりと室内を見回したけれど、それっぽい服は見当たらない。赤いランドセルしかないんだけど。んんん?どこだろうか。首を捻って考え込んでいると、一つの衣装箪笥が目に入る。あ、もしかしてこの中か?

 にゃんこを下ろして左右開きのそれを開ける。見ると、予想通りその中に女児学生の制服がハンガーに掛けられてあった。しかも制服めちゃくちゃ可愛い。
 普通、小学生の制服ってあの肩ひもがあるやつとポロシャツが標準装備だと思うんだけど、目の前にあるのは白を基調としたワンピース型のものだ。洗濯大変そうだな…。どんなお嬢様学校へ通っているんだ…?


「…これ、なんだよ、ね…?」

「にー」


 にゃんこに聞くと返事をしてくれる。YESかNOかよくわからないが、まあYESということにしておこう。

 あーこの歳で制服は心が痛いが、同時にこんな可愛い服を着れるという事実に年甲斐もなく少しだけテンションが上がってしまう。


「はやくまつよさん…おばあちゃんのごはん食べたいね」

「なーう」


 小さな小さな声でそう言うと、にゃんこも返事をしてくれた。本当に良い奴だなお前は…!





***







「あら、おはよう名松」

「おはようおばあちゃん…おじいちゃんは?」

「今日は早いんですって。ニートたちもちゃんと働きだしたんだから、もうそろそろ落ち着けばいいのにねえ」


 松代さんは私の目の前に白いご飯を置いてくれる。つやっつやの白いご飯に湯気が立っているみそ汁と、宝石のように輝いているだし巻き卵が並べられていて「これぞジャパニーズブレックファースト…!!」と拍手を送りたくなった。母の味最高か…!
 いただきます、と言うと優しくはいどうぞと返ってくる。一人暮らしに慣れ切っていたせいか、誰かが同じ空間にいてこんなちゃんとした朝ごはんを作ってくれることに涙を禁じ得ない。実家思い出す…。

 私の膝で丸くなっているにゃんこは時折尻尾で足をたしたしとしてきた。何、欲しいの?


 ご飯を咀嚼していると、パーカーではないちゃんとした服に着替えたチョロ松が居間に入ってくる。


「おはよう母さん」

「おはようチョロ松。あの子たちは?」

「一松はさっき起きたけど他はまだ寝てる。カラ松と十四松は今日休みみたいだよ」

「あらそうなの?」


 松代さんからお茶碗を受け取ったチョロ松は私の隣に座る。ああ、ほんとこの絵面素敵過ぎないか。ちゃんと家庭を持った松とそれに並ぶ子供って…もう、もう、お腹いっぱいです…。


「僕今日遅くなるかもしれないから」

「あらま。夕飯は?」

「家で食べるけど…時間にはちょっと遅れるかも」

「分かったわ。名松は今日お昼までよね?」

「そうだよ。カラ松と十四松が構ってくれるって」

「構ってもらうの間違いでしょ」

「そうとも言うね」


 くすくすと二人は笑う。
 ほのぼのとしたこの空間だけで五回は死んで輪廻転生できそうな気がする。今素に戻ってもいいのなら、私は涙を流しながら二人に拝むだろう。ありがてえ…ありがてえ…!

 心の中で合掌していると、障子がスッと開いて普段のぼさぼさ髪をもっとぼさぼさにして目を擦る一松が入ってきた。まだおねむか、分かる。小学校高学年辺りから朝起きるの死ぬほど辛いよね。中学高校あたりがそのピークだと思うんだ。


「おはよう一松」

「……ぁ゛ょ…」

「おはよういちまつ兄さん」

「…ん゛……」


 どうやら彼は低血圧らしい。まあ、それっぽいなーとは薄々感じてた。

 松代さんが一松の分の朝食を取りに行ったのと入れ違いで一松が私の隣に座る。そのまま流れるような手つきで私とにゃんこの頭を撫でた。目瞑ってるのに撫でられるのすごいね。



「…一松、まだ寝てる?」

「………おきてる…」

「いちまつ兄さん、目あいてないよ」

「……だいじょうぶ…」


 時折カクンッ、と首が落ちる彼は見ていてひやひやする。大丈夫か本当に。

 そのまま一松を見続けても私は全然OKむしろバッチコイだったのだが、チョロ松の「学校遅れるよ」という声に学生時代の遅刻ペナルティの過酷さ(トラウマ)を思い出し、慌ててご飯を詰め込んで部屋にランドセルを取りに行く。

 部屋を出たところで、これまた前衛的な髪型をしているおそ松とすれ違った。彼も又目を擦りひたすらにだるそうにしている。


「おはようおそまつ兄さん」

「ぉ゛〜…もうそんな時間か…」

「うん。いってきます」

「車に気を付けろよー」


 手を振るとへにゃ、と笑って手を振り返してくれるおそ松。おそ松も何だかんだで父親向いてるよな。長男特有の包容力的な何かが滲み出ている気がする。


 小走りで廊下を駆け抜け、居間に差し掛かるとにゅっと手が出てきて私の頭に制服と同じ色合いの通学帽をぽすっと被せてくれた。それは一松の手で、箸を口に入れ頬にご飯粒を付けながら彼は本当に薄らと笑う。


「…いってらっしゃい」

「いってきます」

「名松、道路渡る時は右左ちゃんと確認してだよ」

「わかってるー」

「にー」



 居間に向かって手を振って玄関まで来ると後ろからにゃんこがついてきた。
 昨日から何となく思っていたのだが、この子もしかして常に私と行動してくれてるのか?松野家の一人娘のSP的なアレなのか…?


「…いっしょにいくの?」

「なぅ」


 当たり前だろJK、みたいな目で見られた。

 幼女が猫と通学とか何ソレどこぞのファンタジーな上に私の個人的な趣味ドストライク。
 私は笑ってにゃんこの頭を撫でてから茶色のローファーを履いて玄関を開けた。


「いこっか」


 にゃんこはそれに返事をし、私の肩にぴょんと飛び乗る。
 某モンスターマスターを目指している彼の気持ちが何となくわかった気がする。






***







「なめてた」



 机に項垂れる私はさぞかし滑稽なことだろう。ただ今の時刻は午前十一時。SHRの担任待ちだ。

 あれから学校に着くとにゃんこは肩から降りて何処かへ行ってしまった。帰りになったらまた現れてくれることを祈る。 学校の場所がわかるかどうか物凄く不安だったのだが、途中で運よく同じ制服を来た集団を見つけそれをスニ―キングすればなんとか学校へ着いた。
 そしてその次の難関である自分の靴箱及びクラスなのだが、胸元についているネームを見れば発覚したのでさして手間は取らなかった。一番厄介だったのが校内だろうか。何しろ今の私は小学校低学年。大人にしてみても学校という施設は大きいのに、幼女の私からすればその大きさは図り切れない。

 案の定迷った私は「この階にあの学年があるってことはこの上…おい待て何でB組だけ二階で後の組は三階にあるんだよ喧嘩売ってんのか」等と愚痴を心の中で吐きながら、学校特有の謎配置をなんとか理解し自分の教室までたどり着いた。


 友人関係で色々と手間取るだろうな、と思ったが、そこは低学年クオリティ。みんななかよしを掲げる小学生なので話しかけてきた子と話して一緒に居てくれる子と居れば何の違和感もなく溶け込めた。



 で、だ。一番衝撃的だったこと。それは数学…いや、算数の問題。



「べつに……すうじどっちでもええやんけ……」



 三つのりんごと五つのみかん、全部で何個? そんな問題を私は大きい数を最初に持ってくる癖があり、「5+3=8」と書いて提出した。しかし結果はバツ。先生が言うに、「問題文では3が最初にあるから、3+5が正解です」らしい。
 どれだけ問題文を破り捨てて頭を机に打ち付けたいと思ったことか。だって、答えあってるんだよ?過程がどうであれ結果を出すことに意味を示すのが数学でしょ?過程は国語系でしょ?最早文章読解力の問じゃねえか!と半泣きになりながら逆切れしていた。因みに現実での私が小学生の時は別にバツじゃなかった。何、私がゆとりだからなの?


 他の授業はなんだか童心に帰った気持ちで受けたので楽しかったが、これから算数で苦労しそうだと遠い目をする。

 そんな小学生とは程遠い哀愁を漂わせているといつの間にか先生が来ていたようで、元気な声で注意事項を発表してから「せんせー、さようなら!!」という元気な日直の号令と共に我がクラスは解散した。

 因みに誰も一緒に帰ろうと誘ってくれなかった。泣きたい。














「にゃあ」

「うん、ただいま」



 ぼっちで、ぼっちで正門を出るとそこにはにゃんこが塀に上って待っていてくれた。よかった、一人で帰れって言われても正直道をちゃんと覚えているわけではない。頭のポンコツ具合が憎い。いざとなったらにゃんこを頼ろう。

 にゃんこの頭を撫でるとすりすりとすり寄ってくる。癒しだぁ…。

 そういえば、にゃんこは私が"名松ちゃん"ではないことは分かっているのだろうか。色々と一緒に行動をしてくれているが、何しろこの子普段の表情が読めない顔なのでなんとも言えない。
 懐いてくれているところをみると警戒はされていないようだけど…。



「にぃ」

「…え、あ、うん、かえろっか」



 暫し考え込んでいると痺れを切らしたのか、にゃんこは塀を降りて私の少し先を歩き振り向きざまに一鳴きした。早く帰ろうぜ、と。それに慌てて返事をして後ろをついていく。

 …なんかかっこいいなにゃんこ。







「あ、名松ー!!」


「え?」



 にゃんこと一緒に暫く歩き、河川敷に差し掛かったところで前方から黄色の彼が笑顔でこちらに走ってくるのが見えた。
 何故、十四松がこんなところに…?確かに今日休みだとかなんだとか言っていたが。


「じゅうしまつ兄さん…?」

「にゃあ」

「えへへーおかえり名松!待ちきれなくて迎えに来ちゃった!」


 てへ、と頭を掻く十四松に私は再び今朝と同じ拝むポーズをしてしまいそうになる。
 我、天使発見セシ。十四松はしゃがみこんでにゃんこを抱き上げるとぐりぐりとその頭を撫で頬ずりをする。



「にゃんこ!名松の送り迎えご苦労サマンサタバサ!」

「に゛ぃ」

「く、くるしそうだよ…!」


 思った通り、にゃんこはこの幼女のSPだったようだ。…心配性だなぁ……。
 十四松はにゃんこを頭に乗せて私の手を取るとゆっくりと歩き出す。 大人が子供に歩幅を合わせてくれるのってなんか、すっごいイイよね…!それが普段幼い言動の目立つ十四松がやると「あー成人男性だなあー」ってなってギャップがとてつもないことになる。ホンマ眼福やでぇ…!



「今日はねえ、家帰ってーご飯食べてーカラ松兄さんと僕とにゃんこと名松でお出掛けしましょう!」

「どこにいくの?」

「まだ決めてない!」



 純度100%の笑顔を向けてくる十四松。眩しい…。成人してから暫く経っているというのに、何なんだこの無垢さは…。正直、今の私の方が汚れきった大人感が否めない。汚い大人ですみません…!


「野球したいな〜」

「さんにんと、いっぴきじゃできないね…」

「じゃあセク…――しょん!セクション!!」


 待て今セクロスって言おうとした?流石に小学生()の前では言えないから慌てて言い直した?
 やはり本質は変わっていなかった十四松は空いている手をあわあわと動かして、珍しく目をあっちゃこっちゃにやり焦りを現わしている。チョロ松とかトド松辺りから止められてるのだろうか。

 それが何だかおかしくて私は吹き出す。


「なあに?せくしょんって」

「うーんと、うーんと…わかんない!!」


 だろうね。私も正直理解してないもん。
 それがおかしくてまた笑えば、十四松もにぱーっと笑う。


 二人でニコニコと笑いながら、手を繋いで帰宅した。



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