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▽無題

工藤姉

工藤家の長女は世間一般とは少しばかりズレた少女だった。
まだ共に暮らすようになって日の浅い彼女について幾つか分かった事がある。
それは彼女が本の虫である事。
家系柄か職業柄か、部屋に篭りきりだったり図書館で閉館時間まで過ごしたり、時にはリビングのソファーに腰掛けながら読みふけったり。
寝食を忘れるほどの熱中ぶりは両親も稀に心配になるらしく、年頃の娘と暮らす男に向けて掛ける言葉としては些か心配になる事を言われたのを覚えている。
「娘の事を宜しく頼む」
「あの子ったら本を読み出したらご飯も食べないで熱中しちゃうからお願いね」
もっと他にあるのではないかとも思ったが、これもボウヤのお陰で自分が信頼に足る人物だと思われたからか。
俺も人のことは言えんが、口数の少ない彼女はどうにも人の感情、もしくは自分に向けられる感情には疎いらしく、どういう意味なのかと聞かれることも少なくはない。
ボウヤ曰く自分に関心がないからこその結果らしいが、最近になってそれを実感するようになった。
そして見ていて危なっかしいという言葉も。

ある日ドライヤーをかけずにタオルを肩に掛けていた時、本から顔を上げた彼女が無言でそのタオルを手にとって俺の髪を拭き始めた時には驚かされた。

「君は一体何をしているんだ」
「髪を乾かしています」

彼女は言葉をそのまま受け取る。
表面上の言葉しか受け取らないが故に、含まれる意味を理解しない。
ただ聞かれた事に素直に答える様はまるで子供のようだった。

「何故俺の髪を拭いているんだ?」
「風邪をひかれては困ると思ったので」
「それは俺を心配して、ということか?」
「心配…多分、そう、かも」

僅かに首を傾げて途切れ途切れに紡がれたのは、自分自身の感情が理解できていないからか。
自信なさげなその声は、まるで自分に問いかけているようでもあった。

「君の手を煩わせる程の事ではない。自分でやってくるさ」

長い睫毛に縁取られた瞳を見ると、共同生活をする内にあまり表情を変えない彼女の僅かな変化が分かるようになった気がした。
きっとあれは不思議がっているのだろう。
一生懸命自分の感情を理解しようとしているその頭を一撫でして部屋を出た。
ドライヤーをかけながら、何故自分でもあんな事をしたのか分からない俺も彼女と同じだと思うとおかしく思えて、鏡に映った自分はどうやら笑っていたらしい。
成る程、やはり俺も彼女のことはあまり言えんな。

ある日は変な輩に絡まれていたらしい。
ボウヤに「姉ちゃんは本当に危機感なくてあぶなっかしいから、一人で外出しようとした時はこれ仕込んでおいて」と渡された追跡機。
鞄に仕込まれたそれを彼女は気づいているのだろうか。
図書館以外の場所でやけに立ち止まっていると思ってその場へ向かえば、どうやら先に助けが来ていたらしく彼女は安室くんに守られるように肩を抱かれていた。
何やら叫びながら逃げるように駆けていく男に気付いて、絡まれていたところを助けられたのだと察した。
このまま放っておいても問題はなさそうだが、ここまで来ておいて立ち去るのもどうかと思い迎えにいくことにした。

「沖矢さん」
「帰りが遅いので迎えに来ました」

名前を呼べば真っ直ぐと此方を見つめる瞳。
彼女は必ず相手の目を見つめる。
真っ直ぐと射抜くようなその瞳は、見るものによってはまるで見透かされているような、それでいて反らせない不思議な感覚に陥るだろう。

「今知らない方に声を掛けられまして、お話をしていたらどうやらよくないことをされそうだったようで、安室さんが助けてくださいました」
「あまり人を信用し過ぎるのは危ないですから、気をつけてくださいね」

そんな抽象的な言葉では彼女には伝わらないだろう。
安室くんにうなずきながら礼を述べる彼女の瞳は疑問を抱いているようだった。
その事にあの男は気づいているのだろうか。

「特に沖矢昴さんとか、ね」

全くもって疑り深い男だ。
あの件で沖矢昴と赤井秀一を別人だと確信付けるには少々相手が悪かったか、彼は未だに疑っているらしい。

「沖矢さんは信頼できる人です」

流石の彼も驚いたようで、真っ直ぐ見据えて断言した彼女にほんの一瞬空気が揺らいだ。
まるでそれが彼女にとっての真実だとでも言うような、あの瞳に見つめられて断言されては、何も言い返せなくなる。
既に経験済みだ。

「そうですか」
「はい。安室さんもありがとうございました」
「それなら…いえ、また是非ポアロにもいらしてくださいね」
「はい、またお伺いします」

それなら自分は信頼できる人間かと聞きたかったのだろうか。
言葉を変えたのは自信がなかったからか、それとも感情の見えない彼女に問うても無駄だと思ったからか。

「彼女を助けてくださりありがとうございました」
「何故貴方がお礼を言う必要が?」
「実は彼女のご両親にも彼女の事を任されていたものでして。何事もなく安心しました」

自分でも何故そんな言い方をしたのか分からなかったが、本当の事だ。

「これはこういう時の為でしたか」

鞄から取り出された発信機。
ボウヤ、どうやら彼女は君が思っているよりも感がいいらしい。

「おや、気づかれていましたか」
「はい。コナン君かと思ってましたが、成る程。私に何かあった時の為のお守りでしたか」
「ええ。というよりも、何もない為の、ですね。貴女のことが心配だからこそです」

はっきり言わなくては伝わらない彼女には、これ位言わなければ自分が心配されていることすら気づかないのだろう。

「ーーまるでお姫様を見守るナイトですね」

それは僅かな変化だったが、確かに笑っていた。
ほんの少し細められた瞳は優しげな色を映し、普段は真一文に結ばれたような口元が、微かに緩んだ。
まるで照れているようにも見受けられるその顔に目を見張れば、直ぐに何時もの無表情へと戻っていた。
…ああやって笑うのか。

「…発信機まで付けるとは随分なやり方ですね」
「どうにも彼女は危なっかしいからと頼まれまして」
「まるで監視でもしてるかのように僕には見えますけど」

文句を付けなければ気が済まないのか、どうやら発信機について責めているらしい。
あのボウヤが仕込めと言ったのであって俺が自主的にした訳ではないが、それをわざわざ教えてやる必要もないだろう。

「監視、ではなくお守りです」

普段よりも柔らかく見えたのは果たして気のせいだろうか。

「…そうですね、貴女がそう言うのならもう触れません」
「安室さんは私がこれを付けているのが気に入らないのですか?」

それは真っ直ぐで純粋なただの疑問。
それに調子を崩されたように見えたのは気のせいではないだろう。
真っ直ぐで直線的な言葉でしか伝わらない彼女の話し相手になるのは骨が折れる。
まるで此方が見透かされそうな瞳。
ただじっと答えを待つその瞳はあまりに純粋で美しいとさえ思う。

「ーーーーええ、僕は貴女が誰かに、特にその男に監視されているような現状がどうも気に入らないらしい」

点数をつけるとしたら50点、というところか。
彼にしては素直になったつもりだろうが、それでは彼女には伝わらない。
そうだな、言うのなら

「僕は貴女が見知らぬ誰かに連れ去られるのも、ついていくのも嫌ですね。貴女のことが心配なんです。どうか余所見も寄り道もせずに家に帰ってきてください」

彼に向けられて居た瞳は俺を真っ直ぐと見据えていて、きちんと意味を理解したようにはっきりと頷いた。
視線の片隅で彼が悔しそうに拳を握るのが見えたが、それは君がちゃんと伝わる言葉を使わなかったのが悪い。

「心配かけてしまいすみません。次から真っ直ぐ帰宅します」
「ええ。では一緒に帰りましょうか」
「はい」

不意に握られた右手。

「一緒に帰りましょう」

ふむ、どうやら彼女の一緒に帰るとは手を繋ぐことらしい。
わざわざ解く必要も感じなかったのでそのまま握り返すことにした。
背中に突き刺さる視線には知らぬフリして、彼へ礼を述べるのを見届けてから足を踏み出した。

ーーーー
大人気ない安室VS余裕のある沖矢
安室サイドを書く気力がありませんでした。
どんどんヒロインが不思議ちゃんになっていく…でも我が家で一番若い20歳ヒロインですから仕方ない。
妹ヒロインズは兄がいるせいか子供っぽい。
お姫様を以下略台詞は絵本作家だからたまに言うとかそんな感じですかね!やっぱり天然かもしれない工藤姉

2017/06/09(10:33)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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