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▽無題

工藤姉



世界はきらきら輝いていて、とても美しいものなんだと、いつかの父が言っていた。
女の子は誰でもお姫様になれるってどうしてだと思う?それはお姫様にしてくれる素敵な王子様が現れるからよ。といつかの母が言っていた。
幸せそうに笑う二人と暖かい空気に満たされた中で、いつかの私は言ったのだ。
素敵な王子様がお父さんで、お姫様がお母さん。だからお父さんの世界はきらきらしていて、お母さんは綺麗なお姫様なんだね。
幸せだった。
幸せな二人に愛されるのは、幸福で、私はただ、そんな綺麗な二人と共に居ることができるのなら、それだけでよかったのに。

「…美しい世界には必ず邪魔をする人が居る」

それは白雪姫の継母であったり、シンデレラの継母と三人の姉であったり、人魚姫に出てくる魔女だったり。
結局、人魚姫は泡となって消えてしまい、ハッピーエンドには辿り着けない。
けれどそれまでの過程は、両親が語ったきらきら輝く美しい世界と、王子に出会えた人魚姫は共に過ごせた時間だけはお姫様になれたのかもしれない。
まるで父と母のように。

「執筆中の絵本のお話ですか?」

真っさらなスケッチブックを抱える私に掛けられた声は、共に過ごすようになった沖矢さんのものだった。

「どうしてこちらに」
「そろそろ日も落ちて来ますのでお迎えに」

言われて気付いた空は微かに暗くなり始めていた。
さっきまではあんなに明るかったのに。

「携帯掛けたんですが繋がらなくて、図書館にもいらっしゃらなかったようなので此処かと思いまして」

前回の一件以降、心配を掛けないように時間を意識するようになったものの、どうやらまた忘れていたらしい。
考え事や何かに熱中すると周りが見えなくなるのは私の良くないところだ。
有希子さんや優作さんは放任主義なところがあるからあまり注意をされたことはなかったけれど、新一にはよく怒られていたことを思い出す。

「すみません、少し考え事をしていたので」
「人気絵本作家の考え事ですか、是非ともお聞かせ願いたいものだ」
「きらきら輝く絵本のように面白い話ではありませんよ」

綺麗なものは、綺麗なままでは手に入らないのだろう。
いつかはその綺麗なものを脅かす存在が現れる。
それは現実でもお伽話の世界でも同じ。
乗り越えられるか乗り越えられないかの違いくらいだろうか。
けれど、二人の結末は美しいと思う。
お互いに相手を愛したまま人生を終わらせたのだから、最期は美しかったのだろう。
そこに私の存在は果たして必要だったか否かは別として。
二人の愛の証人は、この世界でたった一人の、二人の娘であるこの私だけだ。

「絵本の中でさえ綺麗なままで居させてあげられないなんて、世の中というのは実に不思議にできていますね」
「貴女の描く絵本は綺麗だともっぱら噂のようですが?」
「綺麗なだけのものなんて、この世には存在しません」

私の描く絵本もそう。
必ず訪れるハッピーエンドの前には必ず何かしらのハプニングが付き物だ。

「綺麗と感じる感性は、対となる物を知って居るからこそ生まれるものです」

比較対象を知らなければ、それを評する感性など生まれない。
きらきら輝く美しい世界も、お姫様にしてくれる素敵な王子様も、それらを知ったのはそれ以外を知っていたからだ。
そして出会って過ごした美しい日々の合間に起きた悲劇があったからこそ、二人の結末は美しい愛で閉じられたのだろう。
…美しい愛で、閉じたかったのだろう。

「帰りましょうか」
「ええ、その為に迎えに来ましたから」
「お詫びに今夜は私が夕食を作ります」

差し出した手を握り返す大きな手は、父とも優作さんとも弟とも違う、少しだけ硬い手だった。

ーーーーーー
父親はイケメン俳優で優男風だからきっと傷一つはい綺麗な手。
優作さんはペンダコとかが少しありそう。
赤井さんは職業柄なんかこう、皮膚が厚そうだなっていう勝手な解釈。
優作と有希子の事は父母とは呼ばない設定になりました。
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14年前に心中したと言われる有名女優と有名俳優の夫婦の特集が流されて居たのは最近のことだった。
二人には一人娘が居たというナレーションの後に表示されたのは、モザイクが掛けられていたが工藤家の長女に似ているように見えた。
幼い写真と成長した現在の写真の両方を表示した液晶画面。
名前は伏せられてはいたが、現在はとある有名作家と元大女優の夫妻の養子となっている。という情報までを流したテレビ。
恐らくは有名作家こと工藤優作と元大女優の藤峰有希子の長女である彼女のことだろう。
以前彼女に絡んでいた男の子が口にした仕事というワードは、このテレビに関係したことだったのだろう。
後日その番組は打ち切りとなり、雑誌業界も騒がれるかと思われたが、その件に触れる雑誌が一切出ないのは何らかの圧力が掛けられたからだろう。
それはきっと、彼女を守る為の手段。
だが世間一般の人間はこぞってネット上で好き勝手な情報を流してはやりとりをしている。

「ねぇお姉さんってこの間テレビでやってた有名人夫婦の娘に似てるって言われない?」

いつも通り窓際の席に座って本を読む彼女を妨害したのは、恐らくネット上で騒ぐ人間のうちの一人だろう。
本に夢中な彼女が一声で気付くことはない。

「おい、聞いてんのか?」

無視をされたと思った男が肩を掴むと、漸く上げられた顔。
相変わらず何を考えているか読めない顔と澄んだ瞳が真っ直ぐと男を見据える。

「…っ、邪魔したみたいで悪かった」

どうやら彼の負けらしい。
独特の雰囲気とあの瞳に見つめられて言葉を返せる男がいるとしたら、それは身の程知らずの馬鹿か彼女と親しい人間かのどちらかだろう。
ふと思い出した男の姿を振り払うように、ケーキを乗せたトレーを持って彼女の元へ向かった。

「寝不足ですか?」

そそくさと去っていった男に微かに首を傾げながら小さく欠伸をした姿に問いかければ、あの瞳が俺を見上げた。
まるで心の奥を見透かすような純粋で澄んだ瞳は全てを暴かれそうで、それでいて反らすことができなくなる。
なのに一切不快な気持ちにさせない瞳はいっそ美しいとすら感じるのだから不思議だ。

「…考え事を少し。執筆の方が疎かになっていたせいか、担当者に懇願されたもので」
「執筆、ですか?」
「はい。絵本を描いているのですが、そろそろ新作を欲しいと言われまして」

成る程、物書きだろうとは思っていたが、絵本作家だったのか。
困りました。とい続ける声は平坦で、表情もまた変わらないせいか全く困ったようには見えないが、彼女がそう言うのならそうなのだろう。
長い付き合いではないが、以前よりは少しだけ彼女の事が分かるようになってきた。

「姉ちゃん、お待たせ」
「こんにちはコナン君」
「こんにちは安室さん。姉ちゃんとお話ししてたの?」

彼女がポアロにいる時は必ず彼との待ち合わせとしてだった。
今日も例外なく現れたコナン君に、微かに緩んだ口元と優しさを纏った空気。
蘭さんや園子さんにも向けられるそれは親しい者にだけ向けられる特別なもののように見えた。

「眠そうに見えたから寝不足かなって」
「え、もしかしてまた本読んで寝てないの?」
「違うよ。今回はお仕事」
「って言いながらどうせ新しい本読んでたんじゃないの?」
「嘘じゃないよ。新しい本も読んだけれど」
「やっぱり。姉ちゃんはもう少し他の事も意識したほうがいいよ」
「君も人のことは言えないよ」
「今は姉ちゃんの話してるんだからね」

ズレているようないないような、そんな会話はいつもの事だった。

「ったく、昴さんにお願いしとくかな…」
「彼は私の保護者じゃないんだから駄目だよ」
「そう言うのなら自分でちゃんと…んぐ」
「美味しい?」
「…おいしい、けど人の話きけよ…」

喋ってる途中のコナン君の口にケーキを放り込んだ彼女と、されるがままになった彼の会話はまるで姉弟のようだ。

「沖矢昴とは随分と仲がいいんですね」
「あー、ほら、姉ちゃんって抜けてる所が多いから、姉ちゃんの両親から頼まれてるみたいで…!」
「ご両親に?」
「そう、放っておいたらごはん食べるのも寝るのも忘れて本読みふけったり、図書館に入り浸ったりするから心配らしくて」
「最近はちゃんと沖矢さんのこと思い出して帰ることが多くなったよ」
「それでも迎えに来てもらってるでしょ」

彼女と彼の関係は親も絡んでいたのか。

「電話、してくるね」

着信を知らせる携帯を手に一度店の外へ出る彼女。

「沖矢さんと彼女は一体どんな関係なんだい?」
「どんなって、ただの同居人だよ」
「ただの同居人が盗聴器つけるとは思わないけどなぁ」
「あはははは…姉ちゃん危なっかしいから、家族の誰かに頼まれのかもね」

この反応を見ると驚いた様子はないし、元々家族に発信機をつけられる程だったのか?
いくらなんでも成人済みの子供にするにしては過保護に思えるが、以前の事を思い出すとそうとも言い切れなかった。

「それに姉ちゃん、防犯ブザー持たされてるしね…」
「まぁ今は物騒な世の中だし、防犯ブザーを持つ女性も多いからね」
「…早く誰か守ってくれる人ができたらいいのにな」

微かな声で呟く横顔は、小学生が浮かべるにしては不釣り合いなものだった。
大切なものを見守るような、まるで親が子を思うように、兄弟を思うような、そんな顔だった。

「って、新一兄ちゃんも言ってたよ!」
「お姉さんの事が心配なんだね」

電話を終えて戻ってきた彼女は、いつもの無表情だった。

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中々近づけない安室透と、自然と近づけている沖矢昴こと赤井秀一。
この安室さんは無意識に嫉妬しちゃう系。
やや大人気ない安室さんでお送りします。

2017/07/09(22:57)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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