ネタ

勝手に増えたり消えたりするネタ倉庫
赤井妹
工藤姉
星屑関連
勧善懲悪には程遠い
その他
他ジャンル
つぶやき

▽無題

ジンくんの幼馴染A


※虐待の表現があります
※主人公のコードネームはバーバラ

ーーーーーーーー

痛いのは嫌だ。
暗いのは嫌だ。
冷たいのは嫌だ。
大きな声で怒鳴られるのは嫌だ。
全部全部怖いから。
なにを言ってるのか分からない。
いつもお父さんは大きな声で喚きながら私を押さえつけて痛いことをする。
血が出ても、謝っても、泣いても許されない。
何がいけなかったなんて分からなくて、ご機嫌の取り方もわからない私は馬鹿で出来損ないだから、いつもそうだった。
お母さんは私をぬいぐるみか人形だと思ってる。
だからどんなに私が声をあげてもお母さんは反応しない。
お父さんに痛いことをされてる私を見ても、お母さんは何も言わないしすぐに何処かへ行ってしまう。
私よりも幼くて、私と違ってちゃんとした人間の子供を抱きながら、背を向けて去っていく。
助けてって言葉は言えなかった。
だってこれはされて当然のことで、私はきっとぬいぐるみか人形だから、何も言えないのが当たり前なんだ。
でも、でもね、変なの。
痛いし怖いし悲しいし苦しいって感じてしまう。
出来損ないだから?ぬいぐるみが、人形がそんなこと感じるからお父さんは怖いことするのかな。

「…ジンくん、ジンくん」

幼い頃の事が頭の中をぐるぐるして寝付けない。
偶にこんな夜が訪れる。
まるで死んでるみたいに静かな寝息を立てるジンくんを揺さぶれば、起こされて機嫌が悪いのか視線だけで人を殺せそうな目が私を射抜く。

「こわいよジンくん」

ぺたりとベッドに座り込めば、ジンくんは面倒そうに舌打ちをしてその長い腕を私に伸ばした。

「だから言ったろ。死んだ奴の顔なんざ一々覚えてんじゃねぇ」

引き寄せられるままに抱き抱えられて、掠れた声が私に囁いた。

「ジンくんみたいに都合のいい出来してないんだもん」
「テメェ…それは褒めてるつもりか?」
「褒めてるよ。ジンくんはいつだってかっこよくて強くて大好きだから」
「ったく、ガキみてぇなこと言ってねぇでさっさと寝ろ」

ジンくんの胸に耳を当てるようにくっつけば、とくん、とくん、と落ち着いた鼓動が聞こえてくる。
包まれる暖かさと鼓動の心地よさに、ゆっくりと意識が遠のいていく。
眠りに落ちる直前、おでこにカサついた唇が触れた気がした。
明日起きたらジンくんにリップクリーム買ってきてあげよう。

この腕の中が、私にとって一番安らぐ場所だ。


ーーーーーー
死んだ奴の〜っていう台詞を言わせたかっただけ。
なんだかんだでワンコの面倒見いいジンさん
ーーーーーーーーーーーー

「あ、レコーダー忘れた」

ドレスで着飾った彼女が出したのは、見た目にそぐわない酷く気の抜けた声だった。

「貴女が忘れ物常習犯というのは本当だったらしい」
「…ごめんねバーボン」
「そういう事もあろうかと予備を持ってきていたのでどうぞ」

あらかじめベルモットから聞いていて余分に持ってきていたボイスレコーダーを手渡せば、彼女はへらりと笑って受け取った。
まるで子供のような表情を見せる彼女は、それ以外の顔を見せる事があるのだろうか。
ジンの犬と言われるほどジンに近しい筈の彼女は、日の下で笑っている方が似合うと思ってしまう時がある。
必ずと言っていいほど忘れ物をする彼女は単独の任務は滅多になく、こうして誰かと組む事が多い。
普段はジンと共に行動するらしいが、最近はベルモットに潜入の仕方も教わっているらしい。
確かに彼女のように一見裏表のないタイプは人の油断を招くには丁度いいのだろう。
そして自分からは情報の集め方と懐への入り方を学ばせようといったところか。

「準備はいいですか?」
「うん、もう大丈夫。ちゃんとできるよ」

今回の任務は資金繰りに関した契約を交わすだけだから問題なく終わらせる事ができるだろう。


それは任務を終えて部屋を出た時だった。
使用人らしき小学生位の少年が彼女にぶつかった。

「ねぇ、大丈夫?」
「っ、申し訳ありませんでしたっ!僕の不注意で大切なお客様に…っ、お怪我はありませんでしたか!?」

しゃがんで少年に手を伸ばした彼女は無傷で、尻餅をついて頭を軽く壁にぶつけた筈の少年は自分の事など気にもせず彼女を気遣った。
だがいくら客人にぶつかっただけであそこまで焦るだろうか。
怯えるようなその顔は、青ざめているように見えた。

「…ねぇ、いたい?」

その時だった。
彼女が少年の腕を掴んだのは。

「…っ、」

そして今度は脇腹を押すようにして触れた手に、少年の顔が歪んだ。

「…っいえ、なんともございません」
「私は痛かったよ」

…あの少年はもしや虐待を受けているのだろうか。
そうならば先程の言動にも納得がいく。
けれど引っかかったのは彼女の言葉。
私は痛かった。
それはまるで彼女も同じ事があったかのように聞こえた。

「痛いのも暗いのも大きな声で怒鳴られるのも私は怖いから嫌だよ。君はいやじゃないの?」
「…い、やだ…っ」
「なら解決方法を教えてあげる」

そう言って笑った顔は、どこか狂気じみてみえた。
いつもと変わらない筈の笑みは、背負っているものが違うのか、酷く歪んでみえた。

「そういうことする悪い大人は、この世に存在しなくていい人なんだよ」
「でも、あの方がいらっしゃるから僕は生まれて…っ」
「じゃあそのままでいいの?」
「バーバラ、貴女何を…」
「掃除の話」

ドレスの下から取り出されたのは小型の爆弾だった。
ボイスレコーダーは忘れて爆弾は持ち歩いているなんてどういうことなんだ。
元々ここを爆破するつもりだったのか?…いや。そんな任務は聞いていない。
そもそも契約は無事結べたし、ここを爆破する必要もないだろう。

「君を直接助けることはできないけど、もし怖くて嫌だって思ったら使うといいよ。そしたらお掃除も完璧!」

なにを言ってるんだ奴は。

「…貴女は、使われたのですか?」
「ううん、爆破持ってなかったし。でも私は仕事あるから助けてあげれないし、これで君がなんとかするしかないから」
「その結果ここが爆破して契約者が死んでは元も子もないでしょう?」

虐待されている子供を救う手なんていくらでもある筈なのに、子供に何をやらせようとしてるんだ。

「決めるのは本人だよ」

目だけが、笑って居なかった。

「…っいえ、折角のお申し出ではございますが、僕にはその様なものは必要ありません」
「そっか、一発で済むからオススメだったんだけど、自分まで一緒に死にたくないもんね」

突き返された爆弾を仕舞う彼女は、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。

「酷いことする大人はもう壊れているから、まともに向き合おうなんて思わない方がいいよ」

じゃないと君が壊されちゃう。と笑って見せてから踵を返して歩き出す背中はいつもと変わらなかった。

ーーーー
実はどっかのお偉いさんの娘だったとかそんな裏設定があったりなかったり。
ーーーーーーーー


2017/07/23(12:56)


←prev | next→

※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
top