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▽無題

工藤姉



「く、工藤さん!」

慌てるように掛けられた声に振り向くと、そこに居たのは一人の青年だった。
見た目的に姉ちゃんと同じくらいか?
やや赤みがかった顔を見る限り、どうやら姉に気があるらしい。
一方の本人は誰か分からないのか微かに首を傾げていた。
まぁそうだよな、姉ちゃん他人への興味関心も薄いからな。

「俺君と同じクラスだったんだけど覚えてるかな…?」
「ごめんなさい、全く覚えてなくて」
「そっか、いや、気にしないで!工藤さん休み時間の度に図書室に居たし、実は話しかけれたことなかったから」

そりゃそうだ。
卒業しても尚図書室のマドンナとして噂の残る姉ちゃんに話しかけれる奴が居たらそいつは勇者だ。
姉が纏う空気は独特で、声をかけることはおろか近寄る事も躊躇すると聞いたことがある。
それが思春期真っ只中の高校生なら声を掛けれなくても当然だろう。
大方偶々道端ですれ違ってチャンスだとでも思ったんだろう。
相手が姉ちゃんじゃなけりゃチャンスだったろうが、残念、相手が悪かったな。
鈍感な姉にあの男の気持ちを理解するのは難しいだろう。

「その子ってもしかして工藤さんの子供、とか…?」

んなわけねぇだろ。
だとしたら13で生んでることになるじゃねーか。

「この子は遠い親戚の子供で江戸川コナン君」
「こんにちはお兄さん!」
「こんにちは、コナン君」

あからさまにホッとしてんじゃねーよ。

「もしよかったら今からその子も一緒にお茶でもどうかな?ほら、折角再会したから話したい事も沢山あるし」

やっぱりそれが目的か。

「お姉ちゃん、僕トイレ行きたい!」
「うん、わかった。ごめんなさい、そういうことだから私たちはこれで失礼します」
「あ、じゃあそこのカフェならどうかな?」
「やだー!漏れちゃうよー!」

ふざけんな誰が行かすかよ。
姉ちゃんの手を引いて駄々をこねるようにして言えば、男に軽く会釈をして俺の手を引きながら早足で歩く姉。
振り向きざまに見えた男は肩を落として居た。
残念だったな、高嶺の花はおりてはこねーよ。

「行っておいで」
「…ああ、うん、嘘なんだけどな」

そうだった、姉ちゃんはすぐ人を信じる、というより言葉を真っ直ぐ受け取るんだった。

「いつもの僕トイレ?」
「…うん」

いつもので悪かったな。
ああでもしなきゃ着いていっただろーが。

「つーか最近どうしたんだよ。元気無さそうに見えっけど」
「そうかな…?」
「自覚ねぇのはいつものことだろうけど、何年弟やってると思ってんだ。最近なんかあったろ」

この間のテレビといい、こっちから追及しない限り何も言ってこない姉にはこれくらい言わないと駄目だ。

「少しだけ、困った事ならあるよ」
「それだっつーの!つーか直ぐ言えよ!」

なんで昔っからこうなんだろうか。
誰かに相談することも頼ることも滅多にしないこの姉は、全て一人で背負いこむ。
自分の感情に疎いからこそだとは分かっていても、口出しせずにはいられない。

「コナン君」
「…わーってる、今はコナンだからって言いたいんだろ。姉ちゃんが自分に無頓着すぎるからだよ」
「ごめんね」

江戸川コナンでは口出しすらまともにできないのか。
この姿は不便だ。

「家に行く?」
「あー…でも昴さん居るしな」
「じゃあ博士のお家でお話するのは?」
「いや、そっちのがまずいかも」
「盗聴器あるから?」
「知ってたのかよ」
「なんとなく」
「あっそ…」
「でも私の鞄に発信機入れるように言ったのは新一でしょう?」

おいバレてんじゃねぇか昴さん、聞いてねぇぞ。

「ごめん」
「心配だから、だよね」

自分に向けられる感情に疎い姉が自ら気づいたとは思い難いが、それでも本人の口から聞けたことが嬉しかった。
自分が周りにどう思われて居るか、どれだけ周りが心配しているのかを知って欲しかった。

「よくわかったね」
「沖矢さんに言われたから」

やっぱり。
でも自覚できたのならそれでいい。

「やっぱ家で話そうか」

ほんの僅かな進歩だけれど、きっとあの人と暮らすようになってからだ。
あの人はもうどんな言い方をすればこの姉に伝わるか知っているんだろう。

「ほんと、昴さんは凄いね」
「そうだね。有希子さんにお料理も教わっているようだから、なんでもできてしまうね」

そこじゃねぇよ。
やっぱり姉はズレている。


ーーーーーー
僕トイレ!を姉にいつものって言わせたかっただけ。
ーーーーーー


困った。
目の前で頭を抱える担当編集者に何と言葉を掛けたらいいか分からない。

「僕は少しでも先生が穏やかに執筆活動できるようそれだけはやめましょうって言ったんですよ…なのに編集長ときたら話題性に乗るなら今だなんて言い出して…」

先日放送された過去の事件特集は、メディアでは触れるのがタブーとされたが、ネット上ではその視聴者達が各々の見解を主張し合っているらしい。
そしてモザイク処理をされた私の顔写真についても、誰なのか特定しようと躍起になっている人も居る。というのは目の前の担当者から聞いた。
…新一が知ったら怒るかもしれない。
テレビ放送については優作さんや有希子さんが他のメディアが騒ぎ立てないようにしてくれたけれど、一般の人々は違う。
好奇心という物で中途半端に流された情報の真実を追い求める。
二人の真実を知るのは私だけでいいのに。

「先生が目立つことを好まないから絵本作家としても表に出ないようにするという方針だったのに、それがまさか過去の事件の当事者という扱いで世に出そうなんて編集長もどうかしてるんだ…!」

絵本作家となってからずっと担当を務める彼は、きっと優しい人なのだろう。
まるで自分の事のように顔を歪める彼には、何と言葉を掛けるのが正解なのだろう。
感情に疎いと言われるのは、きっと私のこういう所が原因なのかもしれない。

「ねぇおじさん、それって本当?」
「え、えっと君は…?」

どうしたものかと考えて居ると、いつの間にか近くに来ていた新一は、幼い顔で担当者に問いかけていた。

「コナン君、来ていたの?」
「僕姉ちゃんより先に居たんだけど」
「気づかなかった」
「おじさんが来るまでずっと本読んでたからだよ」
「担当さんはお兄さんだよ」
「ズレてるズレてる。今そんな話してないよ」

でも彼は以前老けて見えることを気にして居ると言っていたのだから、あまりその呼称は良くないのでは。

「僕は姉ちゃんの遠い親戚の江戸川コナン。それよりさっきの話は本当なの?」
「ああ、先日変わったばかりの編集長が話題集めも含めてそうしようって言い出して…」
「その編集長さんってもしかして工藤優作が姉ちゃんの父親って知らないんじゃないかな」
「…そういえば元々ファッション誌の担当だったから、作家には疎いって言っていたな…」
「なら簡単だよ。その娘をそんな風に世に出すのなら、きっと工藤優作はそこの出版社では絶対に本を出さないって言えばやめると思うよ」
「そうか、あの工藤優作先生なら流石に知って居るだろうし、ありがとうコナン君!先生、僕は電話して来るので、先生は何も気にせず作家業に集中してくださいね!」

気づけば担当者は笑顔で店を出て行った。
きっとこの子が居なければ、彼はずっと頭を抱えたままだったかもしれない。

「ありがとう、コナン君」

ありがとう、新一。
工藤家の娘になってからずっと、私は彼らに守られている。

ーーーーーー
やっぱり姉視点だと中々上手くすすみませんね…!
工藤姉は周りの人たちの視点で進む方が書きやすいです。
因みに安室さんは静かに聞き耳立ててるんじゃないかなこれ。
ポアロでたまに打ち合わせをする姉。

2017/07/27(17:01)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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