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▽無題

ダークサイド風主人公B

※残虐描写あり

「人間の困ったところは何がしたいかわからないことだ」
「ひ…っ、だからなんだっていうんだ!俺が何をした!やめろ!やめてくれ!」
「かの心理学者、マリリン・ファーガソンの名言だ」
「やめてぇ!お願いだから…っ、やめてよ!!」

嫌な事からは目を背ければいい。
聞きたくないことからは耳を塞げばいい。
やりたいことだけやればいい。
この夫婦はそんな風に今まで生きてきたのだから、もう十分だろう。

「実に的を得ていると思いませんか?流石は社会心理学者だ。やはり専門家というのは伊達じゃない」

私は未だに自分が何をしたいのかわからない。
ただ一つだけあるとするならば。

「未来ある命を。必要とされる命を。健やかに生きていくべき命を解き放つのはいいことだと思いませんか?」

さぁ、それでは仲良く夫婦揃って旅立っていただきましょう。

「どうぞ残りは黄泉の国でゆるりとお過ごしください」

嫌な事からは目を背ければいい。
聞きたくないことからは耳を塞げばいい。
それは二人の娘が今まで許されなかったことだ。
だからこの惨状からは目を背け、悲鳴には耳を塞げばいい。
そしてやりたいことをする。
それすらあの子には与えられなかった。

「さぁこれにて掃除は完了だ。これからは君の自由が待っている」
「おねえさん…おにいさん?」
「おっと、それは君の自由に考えるといい。君がお姉さんと思うのなら私はお姉さんだし、お兄さんと思うのならお兄さんだよ」

全てから目を逸らし、耳を塞いでいた少女に微笑みかければ、じゃあお姉さん!と向日葵のように愛らしい笑みが私に向けられた。

「わたしね、おねえちゃんがほしかったの」
「なるほど、君の理想のお姉ちゃんに見えるかな?」
「うん、怖いものから守ってくれるおねえちゃんがずっとほしかったの」
「私は貴女を守れたかな?」
「うん!だってもう痛い事をする人も、ひどいことをいう人もいないんでしょう?」
「ひとまずは、ね。貴女を縛るものはもういないから、好きなことをするといいよ」

赤く腫れ上がった頬にそっと手を添えれば、気持ちよさそうに擦り寄るまろい頬。
柔らかで愛おしい筈のそれを、あの夫婦は壊し尽くそうとしていた。
この温もりに気付くことなく。

「勿体無いことを」
「おねえちゃん?」
「気にしないで。さあ、可愛らしいお顔が更に腫れては大変だ。こちらへおいで、冷やしてあげよう」

きらきらと輝く笑顔はとても美しいものだろう。
絶やしてはいけない、地球の宝。
人は神の子とはよく言ったものだ。
神とは宇宙全体であり、この世に在る森羅万象は須らく宇宙、つまりは神の存在の元成り立っている。
中々に哲学じみた心理だ。
つまりはまぁ、全て神へと繋がってるってことだろう。

「君は世界に必要な神の子だ」

決して失われていい命ではない。
けれど困ったことに、どうして自分がこんなことをしているかわからないのだから、かの心理学者の言葉はやはり的を得ているのだろう。

「…ああ、その考えでいけば私も人であり、神の子になるのかな」

ふわふわと浮いているような、生きているかもわからないような存在の私もまた、血の通った一人の人間だったのだろう。

「おねえちゃん、どうしたの?」
「明日はどんなネクタイを締めようかなやんでいただけだよ」
「ネクタイするの?」
「変かな?」
「ううん、おねえちゃんはおにいちゃんにもみえるから、きっと似合うね!」
「ありがとう。それじゃあ貴女の好きな色のネクタイをしようかな。一番好きな色は何色かな?」
「ピンク!!」

なるほど。

「かわいらしい貴女にぴったりの色だ」

さて、ピンクのネクタイをした私を見てかの名探偵はなんと言うのだろうか。
きっと色なんて関係なく、私がネクタイを締めていることに彼は顔を歪めるのだろう。
私の代わりに私の在り方に疑問を持ち、そして哀れんでくれる彼はやはりどんな言動をとっていてもその根本は優しさでできている。

まるで私とは大違いだ。
なんだかおかしくてくすくすと笑えば、つられるようにけらけらと笑う少女。
ああほら、やっぱりそうだ。

「君の笑顔はこの世の宝物だよ」


ーーーーーーーーーーーーーー


『昨日何者かによって〇〇町に住む夫婦が殺害された模様。尚、夫婦の一人娘である4歳の少女は無傷で、警察が事情を聞くもやさしいおねえちゃんが守ってくれたとの証言を繰り返しているとのことです』

「ったく、まーたこんなニュースかよ」

テレビの向こうではコメンテーター達が好き勝手に持論を展開する中、毛利さんはうんざりだと言わんばかりに手に持っていた新聞を机の上へと放り投げた。

「おや、馬が決まりませんでしたか?」
「…お前ってやつぁほんっとーに腹立つやつだな!」
「だって毛利さん、競馬の所しか読まないんでしょう?」
「うるせー。お前みてぇな新聞も読みもしないボンクラと違って俺はちゃんと読んでんだよ」
「ではちゃんと読まれている毛利名探偵にご質問です。本日の朝刊に掲載された沖野ヨーコ入籍ニュースついていかがお思いですか?」
「はあっ!?どこだそんなニュースが載ってんのは!」

慌てて新聞を広げて探す彼は正しく血眼だ。

「載ってませんよ」
「…おい」
「ははっ、だって私の嘘ですから」
「てめぇいい加減にしろよこのボンクラ社長が!!」
「まぁまぁ、そんな事よりどうです?このネクタイ」

今にも掴みかかりそうな勢いの彼にわざと身を乗り出せば、勢いに押されて引き下がる体。
つれないなぁ。なにもそこまで引かなくともいいでしょうに。

「ネクタイだあ?」
「ええ、愛らしいレディの見立てなので是非ともご感想を」
「けっ、ボンクラの次はナンパになろうってか?」
「まぁそう言わずに」
「…悪かねーよ。ったく、満足したならとっとと出てけボンクラ!」

ふむ、彼にとっては精一杯の褒め言葉だろう。
昨夜の少女の見立てがいい評価をされたのは実に喜ばしいことだ。

『でも子供を虐待していた両親だったようですし、なんとも言い難い事件ですね』
『娘さんはとても幸せそうだという話もはいってきてますしね』
『二つの命が失われたことにより、幸せになれた命があるというはやはりなんとも言えないものがあります』

テレビの向こう側の彼らと同じような顔でテレビを眺める彼は、いつもと変わらず虫を追い払うような仕草で私を追い出そうとする。
出る寸前、こちらをむいた目と視線が交わった。

「お前、この辺に引っ越したって言ってなかったか?」
「ああ、すでに他へ移りました」
「これで何回めだよ…最早驚かねぇわ」
「ははは、だってもう用もないですから」

私の住居が定まる事はあるのやら。
わざと肩をすくめる私に彼は呆れたように息を吐いて、そしてまた追い払うように手を振った。

「それでは名探偵、またお会いしましょう」
「二度とくんなボンクラ」

そんな事を言いながらも彼は私に付き合ってくれるのだろう。
もてなされるわけではない。
歓迎されるわけでもない。
けれど彼は訪れる私を静かに迎え入れるのだ。

「もうちょっと素直になれたら奥様もお戻りになるのでは?」
「いいからさっさと行け!!」

バサリ。
当たる前に閉めたドアに直撃したのは先ほどの新聞だろう。
ゆるりと緩む口元はいつものことだ。
この事務所を出るときはいつもこうして笑ってしまう。

「おや、何かいいことでも?」
「おや、これは喫茶店のイケメン店員さんではないですか。本日は助手のお仕事で?」

階段で鉢合わせしたのは喫茶ポアロの人気店員だった。
裏の読めない笑みを浮かべる彼は一体なにを考えているのやら…おっと、これは私も人の事は言えないか。

「ええ、といっても先生にサンドイッチの差し入れです」
「それはいい。名探偵は寂しく一人のようですから、一緒に食事をするのもいいかもしれませんよ?」

それでは私はこれで。
会釈と共に横を通ろうとした時、掴まれてしまった腕。

「困ったな、そういった趣味はないんですが」
「それは奇遇ですね。僕もですよ」
「ではその手を離していただいても?ボンクラとは呼ばれますが一応私も忙しい身でして、これから会議があるんです」

にこりと互いに笑みを浮かべ軽口を叩くこの様を第三者が見たのなら、腹の探り合いをしてるとでも思うのだろうか。

「あ?なんだまだ居たのかお前」

ほんの数秒訪れた沈黙を破ったのは、毛利さんだった。

「それがこちらの美丈夫に捕まってしまいまして」
「はあ?やめとけやめとけ、そこのボンクラ程食えねぇやつはいねぇよ。それより飯か?」
「ええ、そろそろお昼ですので差し入れにと思い持ってきました」
「そこのボンクラと違って気がきくじゃねぇか」

一瞬私の腕を掴む手に力が込められたのは気のせいではないのだろう。

「それにしても鳳さんは細いですね。ちゃんと食事はされているんですか?」
「人のコンプレックスを遠慮なく指摘するとは、成る程、顔がよければ許されるってやつですか?」
「おめーは一々嫌味ったらしいんだよ。どーせ気にもしてねぇだろうが」
「ははっ、流石名探偵!なんでもお見通しですね。なら私が今どうしたいかも見抜かれていらっしゃるのでは?」
「ったく、安室、そいつもボンクラ社長なり忙しいだろうから離してやれ。こいつのことで知りたいことがありゃあ俺が答えてやるよ」

ほらね、やっぱり彼は優しい人だ。

「では今度こそ、失礼しますね」
「ええ、また」

成る程、逃す気はないということか。
そちらの事などどうでもいいというのに、あちらはそうではないらしい。
面倒ごとは勘弁願いたいものだ。
不要なことで頭の容量を使うのはもったいないでしょう?

ーーーーーーーー
彼と彼女の腹の探り合い
というよりは安室の一方的な、かな?(笑)
ボンクラ社長は全く気にもとめていない。
ーーーーーー


気の抜けた声をあげてふらりふらりとよろめき座り込んだ名探偵。
どうやら眠りの小五郎がご降臨なさったらしい。
ちょろちょろと人目を盗んで物陰へと隠れた小さな名探偵。
…成る程、いつ見ても面白いものだ。
推理にお熱な彼には私の視線は気にならないらしい。
名探偵に小物はつきものだ。
素敵な赤の蝶ネクタイを巧みに使いこなす彼は果たして本当に小学生だろうか。

「いやぁ、流石は名探偵毛利小五郎ですね。とても興味深い推理ショーでしたよ」
「ガハハハ!この俺様にかかればこんなもんちょちょいのちょいよ!」
「もう、お父さんったら調子に乗らないの!」

豪快に笑い飛ばす彼はこれっぽっちも推理ショーの中身は覚えて居ない筈なのに、こうして疑問を持つ事なく受け入れているのだから流石は毛利さんといったところだろうか。

「ねぇ、そういえば鳳さんはどうしてここに居たの?」

真の名探偵は不思議そうに首を傾げてこちらを見上げていた。
その瞳に浮かぶのは疑問、疑惑、疑念。

「小さな名探偵はなんでも気になるようだ」

にっこりと笑みを深めてしゃがみ込めば、半歩引かれてしまった。
おや、おかしいな。
結構子供と女性受けはいい筈なのだけれど。

「おい、ンなことよりいいのか?取引先の社長が亡くなったんだ、こんなとこでガキと喋ってる余裕ねぇだろ」
「毛利さんのおっしゃる通り私はお仕事で来ていてね、これが質問の答えだ。やる事があるのでこれで失礼しますね」

毛利さんたちに向けて一礼をすれば、いつものように彼は虫を払うような仕草で私を追い払った。

「ねえっ!」

背中に掛かった呼び止める声。

「お兄さんはいい人?」

いい人。
これはまた面白い質問だ。

「君がいい人と思えばそうだろうし、違うと思うのなら違うよ」

なら今度はこちらが質問をする番だ。

「君とっての正義とは何かな?」

真っ直ぐとこちらを見据える青い瞳はどこまでも澄んでいて、きっと彼の持つ正義とはとても綺麗で一点の濁りも無いものなんだろう。
己の信じる正義にこれっぽっちも疑問を持つことなく、ただ真っ直ぐと信じ続ける。
そんな彼にとっての正義とはなんだろうか。

「鳳様、こちらへ」
「またいつか、聞かせてくれると嬉しいな。それでは今度こそ、失礼しますね」

ほんの少し緩みの気になるネクタイを締めなおしてから踵を返した。
まあ気が向いたならそのうち教えてよ小さな名探偵さん。

ーーーー
考えたって仕方のないことは考えるのをやめればいい
ーーーーーーーー


その人の価値とは一体誰が、何が、どれを基準として決めるのか。
かち、かち、かちゃ、かちんっ。

「これに価値はありますかねぇ」
「おめーはほんっとに暇な奴だな」

外れた知恵の輪をぷらりと指に引っ掛けてぶら下げれば、新聞から顔を上げた毛利さんから呆れた視線をプレゼントされた。

「昔はまだ可愛げがあったってのに、一体どう育てばこうなるんだか」
「おや、私が可愛らしいと。名探偵は嬉しいことをおっしゃる」
「嬉しいなんざこれっぽっちも思ってねぇだろうが。あと今のお前は可愛げもなけりゃあ小憎たらしいガキだ」
「まぁまぁそう仰らずに」

ぷらん。とぶら下げた知恵の輪をポケットに仕舞い込んで机に腰かければ、おい。と抗議の声が上がった。

「これは失礼、行儀が悪かったようで」
「お前のその面どうにかならねぇのか」
「残念ながら生まれつきでして」
「うさんくせぇ笑顔が生まれつきなわけねぇだろうが」

ぱこり。
丸めた新聞紙が私の頭の上で小気味よい音を立てた。

「私の頭を叩くのは毛利さんだけですよ」
「馬鹿、てめぇの両親が生きてりゃ俺より先に叩いてらぁ」
「そうですか?」
「少なくとも今のお前を見たらあの人はこうするよ」

そう言って私の頭を叩いた新聞紙を顔に乗せた毛利さんはお決まりのポーズで私を払いのけた。

「俺ぁもう寝るからとっとと帰るんだなボンクラ」
「おや、お仕事はよろしいので?」
「今日はなんもねぇよ」
「それでは一つ、頼まれてはくれませんか名探偵」

ばさりと新聞紙を取り上げてその顔を覗き込めば、見事なまでに嫌そうに歪められた顔。

「報酬金額はこちらと、今なら出血大サービスで沖野ヨーコのスペシャルライブチケットS席をプレゼント」
「受けた!」
「商談成立、ということでよろしいですね?」

0を多めに付け足した小切手とライブチケットを揺らせば、頭の中は金と沖野ヨーコしかない彼は同じように首を揺らした。
成る程、これは面白い。

「あれ、鳳さんいらしてたんですか?」

ひらひらと揺らして遊んでいると、どうやら蘭さんが帰ってきたようだ。
足元には小さな名探偵がまるでナイトのように佇んでいた。
いやはや、恋とはかくも面白いものだ。

「相変わらずのお美しさですね」

小切手とチケットを机に置いて彼女へ歩み寄れば、足元の番犬が敵意むき出しの瞳で睨み上げてくるのを感じた。
嫉妬とは、これまた可愛らしいことをするね。

「実は毛利さんに依頼がありまして。二人で話したいので申し訳ないのですが少しの間席を外してはいただけませんか?」

小さな体でソファーへ駆け寄る彼は盗聴器でも仕掛ける気だろうか。

「君も、いいよね?」

ソファーにその手が触れる寸前、優しく掴んで抱き上げた。
細くて小さくて華奢な体。
子供の感触にはもう慣れた。

「もしくは私が毛利さんと出てきましょうか?」
「でも折角きたんだし事務所で話して行ったら?」
「君も聞きたいのかな?」
「うん、だって鳳さん不思議な人なんだもん!」
「ちょ、コナン君!?鳳さんごめんなさい…」
「蘭さんが気にすることはありませんよ。それに子供は素直が一番だ」

ここまでして無邪気な子供を演じているのだから、大人としてそれを受け入れてあげようじゃないか。

「で、依頼ってのは?」
「雪菜の気を引いていただきたいのです」
「雪菜さんって、以前お会いした…」
「ええ、私のかわいい従姉妹である彼女です」

花も恥じらう女子高生の婚約者、そしてほぼ洗脳に近い形で恋と錯覚させては可哀想というものだ。

「つきましては毛利さんの一番弟子をお借りしたいと思いましてね」
「安室さんを?」
「そう、安室さんを」

あの甘いマスクはまさに乙女が恋をするにはうってつけの相手だ。

「なんたって安室なんだよ」
「おや、では毛利さんが女子高生に恋心を抱かせると」
「馬鹿野郎!誰がんなこといったよ!!」
「なら貴方の一番弟子を使ってください。そうでなくては懐の小切手とチケットが消えます」

そう言って笑みを深めれば言葉を詰まらせコンマ二秒。

「しょうがねぇ!この名探偵毛利小五郎が出る幕もねぇな!俺の一番弟子である安室にやらせらぁ!」
「流石名探偵、一番弟子を上手く使えるのも毛利さんだからこそですね」
「でも安室さんがそんな依頼を受けるとは思えないけど…」

確かに、少年の言う通りかもしれない。
だが、彼は必ず引き受けるだろう。

「彼には私の秘書という名目の元、社内と屋敷をすきに出入りして構わないとお伝えして下さい」

叔父が資金援助をしている犯罪組織の事をより知る事もできるだろうし、彼の本業にはもってこいの好条件だ。

「それでは、後は頼みましたよ名探偵」

決して実らぬ恋だとしても、誰かが仕組んだ出会いだとしても、私に恋をするよりはいいだろう。
洗脳じみた恋心など、恋とは言わないよ。


ーーーーーーーーーーーー


「ということで、彼には私の秘書として社内とこの屋敷の出入りを自由にしてもらいますので、よろしくお願いします」
「お前はまた勝手なことを…!」
「おや、それは貴方も同じでは?」

鳳家の長男であり鳳グループの取締役社長でもある彼は、掴みかかる叔父へと顔色ひとつ変えずにそう告げた。
それは組織への資金援助のことを指しているのだろう。

「私のこれはビジネスだ!何も分からないお前が口を出すことではない!だというのにお前はまた福祉児童施設への寄付を増やしたな!?」
「おや、その何がいけないので?」
「これで何件めだ!一件や二件ならまだしも、次々に増える上に本の寄付だけでなく資金援助までだと!?これはボランティアじゃないんだ!!お前は会社の金を何だと思ってるんだ!」
「まぁまぁ、彼の前ですから落ち着いてください」

そっと背を押されたのはここで口を挟めと言うことだろう。
会社とこの屋敷を好きに出入りできるということで受けた依頼だが、本来なら受けたくもないようなそれは全て組織との繋がりを知る為だ。

「はじめまして、僕は安室透と申します。よろしくお願いします」
「フン、また胡散臭い奴を…」
「これでも毛利探偵の一番弟子でもあるので、よければ色々お話されてみてはいかがでしょう?」
「毛利探偵の?」
「ええ。雪菜も呼びましたから、あとのことは三人で話し合って下さい」
「まて、お前はどこへ行くんだ!」
「だってこの家に住んでいるのは叔父さんと雪菜でしょう?私は住んでませんから、色々とルール決めなりものの場所なり教えてあげて下さい」

そういって自分はさっさと部屋を出ていってしまった。
本当に自由な奴だ。

ーーーーーーーー
広がらなかったので尻切れトンボ。
ーーーー


乾いた音が響いた。

「っ、何しやがるてめぇ!」
「毛利さん」

私の頬を平手打ちした叔父に掴みかかる毛利さんを制すれば、怒りに満ちた瞳が私を見下ろした。

「これは鳳家の問題です。貴方の出る幕ではない」
「お前はそれでいいのか」
「いいんです。だってそう決めましたから」

もうとっくの昔に決めたんだ。
くだらない揉め事をしたところで両親が帰ってくるわけもなく、ましてや会社が大きくなることもない。
私はハリボテの社長でいい。
経営も分からない私が一人でやるよりも、会社を好きにしたい叔父がやればいい。

「こういうの、両親はあまり好かない人でしたし」

骨肉の争い、血と血を分けたもの同士のくだらない、醜い争い。
そんなことをするのなら、会社などなければいい。

「前にも言ったが会社はボランティアの為にあるわけじゃない!兄さんもそうだったが、慈善活動も程々にしろ!!」
「ごもっともです。ならば一つ、お約束していただけませんか?」

その条件を飲むには、それだけの条件が必要だ。
取引というものはそうやって行われる。
何事も等価交換。
もしくはなんらかの利益があってこそ成り立つものだ。

「貴方が資金援助されている組織との関係を綺麗サッパリきっていただけるのなら、私も児童施設への支援を控えましょう」

知らないとでも思っているのだろう。
何故それを、と絞るように紡いだ叔父に笑みを深めて詰め寄れば、よろりと揺らめく体。
畳み掛けるなら今だろう。

「今貴方の目の前にいるのは誰でしょう?ただの甥っ子ですか?残念ながらたかが肩書とはいえ一応取締役社長の名がついているんです。何も知らないわけがないでしょう?」

叔父がどうしようが関係ないが、そのかわり、私が何をしても叔父には関係ない筈だ。

「お互い好きにすればいいだけの話でしょう?何も私は会社に不利な商談をしたことはありませんし、赤字を出す気もない。それに私が支援している金額は自分の稼ぎから出している筈ですが、叔父さんはどこからそのお金を流されているんでしょうね」

まさしく蛇に睨まれた蛙というやつだ。

「っ、分かった、お前のこの件については一切口出しするのはやめよう」
「お話の通じる叔父が居て私は恵まれていますね」
「だからお前もこちらのことには…」
「分かってますよ。お互い自由にやりましょう?ねぇ、叔父さん」

ふん、と鼻を鳴らして逃げるように去って行く背中にひらひらと手を振って見送った。

「…ほんっとイイ性格してやがんな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてねぇよ!」

さて、これで問題はひとまず解決だ。

「ああ、折角なのでゆっくりして行ってくださいね。私はこれから用事がありますので」

そろそろハロウィンの時期だ、イベント事は積極的に楽しまなくては損だろう。

「あんまり子供にそのうさんくせぇ笑み見せんなよ」
「おや、結構受けはいいんですけどね」
「ケッ、性格の悪さが滲み出てんだよ」
「ははっ、そんな事を言うのは毛利さんくらいですよ」

まさかここでもいつものをやられるとは。
しっしっと手で追い払う仕草をする彼にわざとらしく深々とお辞儀をすれば、さっさと行けボンクラと言われてしまった。


ーーーーーーー
救った?子供を預けた児童施設へ資金援助や本やぬいぐるみなどを寄付している社長でした。
あっちこっちでやってるからどんどん数は増えていくけど、その分ちゃんと仕事もしてるのでなんとかなっている。
と言うよりは、なんとかしている。

※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません

2017/10/18(15:39)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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