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▽無題

工藤姉

人が死ぬ瞬間を
人が人を殺す瞬間を
人が人に殺される瞬間を
私は見た事がある。

6歳の誕生日、両親が死んだ。
人気女優の美しくて優しい自慢の母を、人気俳優のかっこよくて優しい父が殺した。
父はぼろぼろと泣きながら、母は一筋の涙を流しながら、幸せそうに笑って息を引き取った。
首を絞める父を見つめながら、穏やかな顔で、幸せそうな顔で見つめながら死ぬ姿は、まるでドラマようで、もしこれがフィクションであったのなら、人は美しい死だと讃えるのだろうか。
願ったのは母だった。
拒めなかったのは父だった。
華奢な母の体から力が抜けたのを見届けた父は画面の中でも見た事がないくらい声を上げて泣き叫んで、それから大好きなあの優しい瞳で私を見つめて言ったのだ。

「お前は決して追ってきてはいけないよ。お父さんと約束できるね?」
「どこへ行くの?」
「母さんとデートをするんだ。だからお留守番、できるかな?」

帰って来ないのは分かりきっていた。
しってるよ、全部全部しっている。
けれど知らないフリをした。
それは二人が私に知らせたくないことを知っていたから。

「約束する。ありがとう、お父さん、お母さん」

ばいばい。
私を抱きしめたまま、父は自分のこめかみを撃ち抜いた。
二人は二人の愛を選んだ。
それはきっと美しい愛で、誰にも知られてはいけない愛の終わり。

ーーーーーー

「マスコミはまるで警察か探偵のようだね」

なんの感情も籠らないような声で無表情でテレビを眺める姉は、一体何を感じ、何を思って見つめているのだろうか。
14年前の人気女優と人気俳優の夫婦が死んだ真相に迫る!とテロップが流れる番組は、過去の事件を追うものだった。
そこに映る整った顔立ちの男女は、姉の実の両親だ。
6歳の誕生日に目の前で両親の死を眺めた姉はどんな心境だったのか。
掘り返してはいけない、愛の終わりを見届けた姉は誰にもその真相を語らなかった。
知るのは姉の産みの母と友人であった母さんと、引き取る事を受け入れた父さん、そして俺の三人だけ。
真相は無理やり襲われた妻が絶望し、このままでは苦しくて生きていけないと嘆いて死を望んだことから始まった。
愛する人以外に穢された身で愛する娘を抱く事はできないのだと、うちの母にメールで送られた遺書に書かれていたらしい。
一人で辛い思いをさせるわけにはいかないと、そばにいるのだと、妻を殺した夫も後を追ったのだろう。
うちの母が駆けつけた時にはもう二人共息絶えていて、夫婦の愛娘が一人表情を変える事なく己の父を抱きとめていたらしい。
泣くこともなく、ただその光景を、現実を受け入れるように、まるで人形のように、そこに居た。

「過去の事件の特集ですか」
「はい。こういったものが世の需要なのですね」
「おや、貴女はあまり興味がないと?」
「過ぎた事を掘り返す事の意味が私にはわからないのです」

機械的で感情を映さない顔で話す姉を、昴さんはどう感じるのだろう。
姉が養子だという事は知っているが、テレビに映る二人が姉の血の繋がった両親であると彼は知らない筈だ。

「そうですか。テレビ、消しましょうか?」
「何故ですか?」
「どうやら観たくないようでしたので」

その言葉に僅かに首を傾げた姉は、自分の感情について考えているのだろう。
はて、私はこの番組に嫌悪感を抱いているのか。と。
自分自身に興味のない姉は、どうにも己の感情にも疎いらしく昔からこうだった。
共に暮らすようになって日の浅いはずの彼は、姉の微かな感情を掬いあげることができているのだろうか。
俺でも姉ちゃんの事がわかるようになるまで何年も掛かったのにと思うと、喜ばしい反面面白くないとも感じてしまう。
確かに姉の理解者が欲しかった。
いつかは側で守り続けてくれる存在が現れる事を願っていた。が、いざその要素を持ち得る人間が現れただけで子供のように面白くないとおもうのだから自分もまだまだ子供なのかも知れない。
…そう思うのもなんか悔しいけど。

「テレビはこのままで構いません。先日取材にも来られましたがお断りしましたので」
「はあっ!?」

さらりと落とされた爆弾発言。

「聞いてねぇんだけど!」
「言ってないよ」

いやそうだけどそうじゃねぇよ!
何を怒っているのだろうとでも思ってんだろ。
自分に関心がないが為に、自分に向けられる感情には気づけないのが姉ちゃんの短所だ。

「いつ来たんだよ!」
「沖矢さんとコナン君たちがお出かけした日」
「あああもう、なんで言わねぇんだよ…」
「コナン君?」

ああわーってるよ。今はコナンって言いたいんだよ分かってるよ。
分かってはいるがこんな爆弾発言されて素を出すなって方が無理だろ。
思わず頭を抱えていると、テレビから聞こえて来た娘が居るという話に顔を上げた。

「バーロー!なんで撮られてんだよ!」

がっつりモザイクは入って名前も出ていないが、そこには姉の写真が映っていた。
年齢出されてるじゃねぇか。

「おや、まるで貴女にそっくりですね」
「はい、あれは私です」
「隠す気あんのか…」
「隠なくてはいけないことなの?」
「…いや、ごめん、今のは僕が悪かった」

隠せと誰かが言ったわけではない。
ただ、こんな風に世間に晒されるように出されるのがいやだった。
目立つ事が苦手で絵本作家としても謎の人物として出ているのに、こんな風に誰にもいう事をしなかった姉の過去が、姉のことが勝手に流されるのが嫌だった。

「ごめんね、私の言葉が足りなかったね。沖矢さんには隠さなくてもいいと思ったから答えただけだよ」
「どうやら僕は思っていたよりも貴女に信頼されていたようですね」
「両親とコナン君が信頼する方ですから」

そこに本人の情は果たしてあるのか。
姉の基準は両親か弟が信頼しているかどうかで決まる。
自分で相手の人となりを見て判断することは滅多にない。
それは全て自分に関心がないからだと分かっているだけに、早く誰かこの姉に心を与えて欲しい。
もっと自分らしく、湧き出る感情を感じられるような、そんな人が現れるのを今でもずっと願っている。
両親にも、弟の俺にもできなかったことをしてくれる人が現れるのを、俺たちはずっと願っている。

「わかるのかな」
「…顔は隠れているけど、お母さん似だから気づく人は気付くかもしれないから、何か言われた時は誤魔化した方がいいと思うよ」
「それは娘だと否定するということ?」

そう言われてしまうと何も言えなくなる。
好奇の目に晒したくないのに、それをしようとすれば姉に自分で娘ではないと否定させる事になる。
果たしてそれは本当に姉の為になるのだろうか。

「ごめんね、困らせてしまったね」

ああほら、こんな時、決まって姉はその感情の見えにくい顔に微かに切なげな色を乗せて言うのだ。
親しいものにしか分からない、ほんの僅かな変化。
自分は言葉が少ないから。
どうしたらいいかわからないから。
感情が、わからないから。
そう言っているようだった。

「もし聞かれたら自分の名前を名乗るだけに留めてはどうでしょう」
「名前ですか」
「はい、名前です。工藤であることをはっきり告げれば嘘をついたことにはなりませんし、後は忙しいからとでも言ってその場を去ればいい」
「それは、思いもしませんでした。ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたようで何よりです」

妙に気の抜けるような会話だった。
沖矢昴ってちょっと抜けてるようなズレてるところがあるから、そこが姉の空気と混じって何とも言えない気の抜けた会話に聞こえるのだろう。

「コナン君、そろそろ帰らないと蘭ちゃんが心配するよ」
「もうこんな時間か…とにかく、姉ちゃんは昴さんの言ったようにうまくやってね?」
「大丈夫、ちゃんとできるよ」

っとに大丈夫か…?
分かっているのかいないのか。
どうにも不安になる姉に別れを告げて実家を後にした。
どうか誰も姉をかき乱すような事だけはしないで欲しい。
恐らくテレビで知った両親がテレビ局へ連絡を入れているのを予測しながら歩みを進めた。

ーーーーーー
初期の設定から大分ブレましたが、ネタなのでしょっちゅうこんな感じです。
園子ちゃんからは姉さん呼び
蘭ちゃんからはお姉ちゃんって呼ばれてたらいいなとか。
多分安室さんオチのヒロインだなって思っていたのに何故か沖矢昴と徐々に親しくなっていきそうな流れを察知。
あれ、おかしいな。
ふとした瞬間に見た微笑む顔を見て無意識に目で追ってしまう乙女な安室透が頭を過ぎったのに、共同生活により互いを知って近づいていく沖矢昴もとい赤井秀一がいるぞ。
ネタなのでどうとでもなるしオチもこない。
相手の目を真っ直ぐ見ながら純粋な疑問だけをぶつけてくるので、向けられた方はたまったものじゃないだろうなと。
真っ直ぐな瞳にたじたじになると思うし、見とれそう。

吸い込まれるような綺麗な瞳で真っ直ぐと此方を見据える彼女は、俺が何を考えているかなどこれっぽっちも気づきやしないのだろう。
だからこそ、知りたいのだと瞳が訴えている。
もし言葉でなく行動で伝えたのなら、彼女は一体どんな顔をするのだろうか。

とかなんとかモノローグ流しながらキスとかハグとかしちゃえばいいんじゃないですかね。
お相手はご自由にどうぞ。

思っていた以上の不思議ちゃんで私が困惑しています。
どうしてこうなった。

2017/06/08(00:29)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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