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▽無題

金カム
おかえりなさいませ!とコメントくださった方ありがとうございます!
※現パロ
※薩摩弁喋らないエセ鯉登少尉が居ます


おいしいはしあわせ
おいしいは正義
おいしいものは神の作りしもの

食べている時だけは本当に幸せそうだな。と周りから言われる私は常にそう考えながら生きている。
全ては食ありきである。
食べるものがなくちゃあ生きていけないのだから当然だ。

「また何か作っているのか?」
「ぼっちゃん」

深夜にこっそり夜食を作る私に声を掛けたのは、鯉登家のおぼっちゃま鯉登音之進様である。

「二人の時にぼっちゃんはやめろ」

険しい顔でそう言ったぼっちゃんは私にそう呼ばれるのを好まないらしい。
昔から鯉登家に仕えてきた我が家系は当然のように一人娘の私も鯉登家…というよりはぼっちゃんの専属お付きといったところか。
そして烏滸がましくもあるが幼馴染であるわけで、歳の近い私に対してこのぼっちゃまは使用人以外の顔を私に求めるのだ。
きっと友人か何かに近いものとして見ていただいているのかもしれない。

「音くんはこのような時間になんの御用でいらっしゃったんです?」
「その口調もどうにかならんのか」
「一応使用人ですので」
「二人きりの時は違うだろ」

成る程、やはり友人としての姿を求められているらしい。

「音くんなんて呼んでるのがバレたら私は父にどやされてしまいますよ」
「バレないように二人きりの時の約束にしたんだろう」

そりゃそうだ。
幼いながらも使用人としての精神を叩き込まれていた私がそれを素直に受け入れるわけもなく、ぼっちゃんの聞き分けのなさに呆れながらもなんとかこぎつけたのがこの約束なのだから。

「といいますか、鍵締めていたはずですよね?」
「合鍵くらい持っている」
「それは世でいう犯罪というやつでは?」
「なんだ、俺を犯罪者呼ばわりする気か?」
「どこで教育間違えたんだろ…」

軽く額を抑えていると、チンと小気味良い音がキッチンに響いた。
レンジを開けずとも漂ってくる幸せの匂い。

「今日は何を作ったんだ?」
「私のお夜食ですよぼっちゃん」

まるで自分が食べるのが当たり前かのようにテーブルに着くぼっちゃんはお行儀がいいのか悪いのか。
何故わざわざ1DKの人の部屋まで来て夜食たかりにきてるんだこの人。
育ちのよい青年であるぼっちゃんだが、私や親しい人の前では少々自由が過ぎる気がする。

「普段から良いものを食べている音くんにはあまり出したくないのですが…」
「私が食べたくてわざわざ来たのだぞ。早くしろ」
「ぼっちゃんは標準語がお上手になりましたねぇ」
「そうだろうそうだろう!だからと言って話を逸らされても私は食べるまでは帰らんぞ」

ちっ。
ぼっちゃんのことである。昔のように煽てて適当に流してご帰宅いただこうとしたがダメだったようである。
成る程、ぼっちゃんも成長したのだなぁ。

「お口に合わなくても知りませんよ」
「安心しろ!お前の作ったものが合わなかったことは一度もない!」
「しーっ、ぼっちゃんの高級マンションと違ってうちは壁が薄いんですからお静かに…!」

他所の部屋の洗濯機を回す音や、時には水道を使う音すら聞こえてくるような安アパートである。
そして深夜とくればぼっちゃんの声は少々近所迷惑である。いや、ほんとは大分迷惑だろうけど。

「なら早く出せ」

どこで教育間違えたんだろ…今度は心の中で呟いて、レンジから出した夜食にスプーンを乗せてテーブルへ置く。

「レンジで作った鯖チャーハンです」
「量が少ないぞ」
「私のお夜食ですからね。音くんが来ると知っていればフライパンで多めに作りましたよ」

基本的に私一人分であればレンジで事足りるが、ぼっちゃんにもお出しするとなればフライパンを使わねば量は足りない。

「うむ、うまい!」
「いや、だから声量…というかまさかぼっちゃん貴方ここに泊まる気ではありませんよね?」

視界の端に捉えた高級ブランドのキャリーケースは二泊分サイズだろうか。
何故それをうちに持ち込んだ。
嫌な予感がしつつ問えば、ぼっちゃんは何言ってるんだ当たり前だろう?と言いたげな顔をしていた。
成る程、歳を重ねる毎に自由度が増している。
職場でも月島さんの胃を痛める要因の一つになっているぼっちゃんはブレない。

「薄い敷布団ですけどぼっちゃん平気ですか?寝れます?」
「そのぼっちゃんをやめろと言っている」
「ああもう、音くんは本当に自由なんだから…薄くて硬いとか言われても私知りませんからね」

美味しそうに私が作った夜食を食べるぼっちゃんを見ていると、もうどうでもよくなってしまった。
…成る程、ぼっちゃんを甘やかしているのはどうやら私らしい。
これも原因の一つだったか。

「おかわり!」
「だから声…!」

そう言いつつも冷凍ご飯の解凍をし始める私も私なのだろう。

ーーーーーー
本日のお夜食
鯖缶チャーハン
ーーーーーーーーーー


「ということがありまして…」
「お前も苦労するな」

結局買い置きの鯖缶は昨夜でなくなり、私のお腹にはぼっちゃんが分けてくれた一口分のお夜食しか入らなかった。
哀れむように私の背中を叩く月島さんは同士に近いものを感じる。

「しかしお前はちゃんと自炊をして偉いな」
「いえ、食べたくなったら簡単に作る程度なので、自炊という程ではありませんよ」
「何もしないよりは偉いだろう」

背中にあった手はいつのまにか私の頭に置かれていた。
人に頭を撫でられるのはいくつになっても嬉しいものだ。
もっとと言わんばかりに頭を無意識に擦り寄せてしまったらしく、笑われてしまった。

「…すみません、お恥ずかしいところを」
「気にするな。お前の相手をしている時が一番楽だしな」
「いつもぼっちゃんが大変お世話になっております!」
「安心しろ、他にもいるから」

月島さんの胃は大丈夫なのだろうか。

「本当に申し訳ないです。本来ならぼっちゃんのことは全て私がやるべきなのですが、どうやら月島さんをとても頼りにしているようで…」

そう、ぼっちゃんは鶴見部長を前にすると感情が高まり早口の薩摩弁になることが多く、その通訳は毎回この月島さんが請け負ってくれている。
私も基本的にはぼっちゃんと共に行動しているので側についているのだが、ぼっちゃんは毎回月島さんに通訳させるのである。

「あ、もし機会があればうちに飲みに来ませんか?最近ハマってるおつまみがあるんですよ」

普段ご迷惑をおかけしているお詫びも兼ねてそう提案すると、月島さんは真顔でこちらを見て黙りこんでしまった。
知ってる、これ知ってるぞ。
周りに振り回されて面倒だと思ってる時の反応にそっくりだ。なんでですか月島さん。

「…お前、女の一人暮らしの自覚はあるんだよな?」
「ええ。まぁぼっちゃんが勝手に合鍵入手しちゃって知らない間に来たりしますけど一応」
「職場の親しい上司でも一応俺が男である認識もあるな?」
「ええ。月島さんだから誘っているのですが?」
「…ああもういい、お前に他意がないのも危機管理能力がないのも今更な話だったな」

えぇ…なんかすごく呆れられてるんですが。

「結構自信あるんですよ、そのおつまみ」
「わかったわかった。お前が俺を労りたい気持ちは十分理解した。材料費と酒代は俺が持とう」
「それではおもてなしになりませんよ!」
「気にするな。折角招待されたんだ、それくらいはさせてくれ」

そう言って笑った月島さんはそれはもうとてもかっこよかった。
低身長と強面であることを指摘されることが多い月島さんだが、彼はとても優しいし面倒見もよく、こうして笑うととても素敵な人だと思う。

「月島さん絶対モテますよね」
「そんな事を言うのはお前くらいだぞ」
「えぇ、嘘だぁ」

うちのぼっちゃんも大変おモテになるが、月島さんはぼっちゃんとはまた違った魅力がある。
所謂大人の魅力というやつだろうか。
包容力をとても感じます。

「で、いつなら行っても大丈夫なんだ?」
「私はいつでも構いませんよ。なんなら今夜でもいいですし」
「なら仕事が終わり次第買い出しに付き合おう」
「ありがとうございます助かります」

そうして材料費と酒代だけでなく、荷物持ちまでしてくださった月島さんを心の中で神と呼ぶ事を決めたのだった。

ーーーーーーーーーー


「こんなものでいいのか?」

買い物カゴに入れられた思っていたよりも少ない材料に遠慮しているのでは?と問いかければ、部下はいいえ!と即座に首を振った。

「今日はぼっちゃんは泊まりがけの出張ですからいらっしゃらないのは分かりきっています。私と月島さんの二人だけでしたらこれだけで十分ですよ」

成る程、そのくちぶりからは頻繁に押しかけられているのが伺えた。

「あ、でも月島さん結構食べますよね。そしたらつまみだけじゃなくご飯ものも欲しいですよね」
「そうだな、チルドタイプの米も買うか?」
「うちに冷凍してあるお米がまだありますのでそれを使いましょう」
「結構マメにやってるんだな」
「どうせ炊くならまとめて炊いて冷凍しちゃった方が楽ですから」

倹約家なのか材料を入れる時も値段を見ながら入れていく辺り、いい嫁になるのだろう。
鯉登家の使用人、ましてや彼の付き人であれば給料も良いはずだろうし、うちで働いている分も含めればそこまで気にしなくてもよさそうだが、彼女は普通の金銭感覚の持ち主らしい。
そこがまた彼女の良さなのだろう。

「何を作るんだ?」
「とりあえず餃子ですかね」
「皮買ってないが家にあるのか?」
「皮は油揚げを使うんですよ」

これがとってもおいしくて、ぜひ月島さんにも食べて欲しいんですよ!
と普段よりも幾分かご機嫌な彼女が笑う。
食べ物のこととなると幸せそうな顔をするとよく言われているが、成る程、確かに幸せそうだ。
昼食を共にした時もおいしいおいしい幸せだ。と言っていた姿を思い出す。
そんな彼女に癒されている者も少なくはないことを彼女きっと知らないだろう。

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この後餃子以外にも鯖缶チャーハンと汁物つくるはず。
因みにヒロインはお酒強い設定だったりします。
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ああもうしつこい!

隣の部署を通り過ぎる時に聞こえてきたのは幼馴染の声だった。
なんでお前が多部署に居るんだ。
珍しく苛立ったように声を荒げているので顔を覗かせれば、あいつと同じ歳くらいの男がまあまあと宥めるようにその肩に手を置いた。
気安く人のものに触るなと言いそうになるが、私が口を開くよりも早くあいつの手がそれをはたき落した。

「私は鯉登音之進の所有物だと何度言えばわかる。いい加減しろ。そんなに引き込みたいんなら彼に言え」

まるで汚れを払いのけるように男に触れられた箇所をはたきながら言った彼女はいつか見た姿と重なった。
あれは軍服に身を包む俺に、真っ直ぐな瞳で言ったのだ。
私は貴方の物だと。
産まれた時から貴方の所有物であり、貴方だけの物だと。
だから貴方の為だけに生きるのだと。
当然のような顔で言っていた。

「ぼっちゃん?」

遠い記憶から私を呼び戻したのは、先程まで怒りを露わにしていた彼女だった。
その顔から怒りは完全に消え失せ、きょとりと不思議そうに私を見上げている。

「たまたま通りがかったらお前の姿が見えてな」
「そうなんですね。外回りお疲れ様です。今から戻られるんですよね?」
「ああ。昼は奢ってやるから何処へ行きたいか考えておけ」
「よろしいので!?」
「本当にお前は食べ物のこととなると嬉しそうにするのだな」
「当たり前じゃないです」

だっておいしいはしあわせなんですから。
と腑抜けた顔で笑うのは、やはりいつかの姿と同じだった。

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恐らく同期にしつこく勧誘されて苛立ったヒロイン。
鯉登は過去の記憶があるけどヒロインにはない。
過去は男装していて一緒に軍に所属していたとかそんなんでもいい。
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※過去話

聞こえるのは銃声、叫び声、爆発音。
視界に入るのは殺し合い。
隣で同僚の頭が吹き飛ぶを視界に捉え、それでも私は前へ進む。
耳も目も塞ぎたくなるような地獄。
それが戦場だ。
けれど私には何処に居ようが何があろうが変わらない。
天国だろうと地獄だろうと私には大差ない。
あのお方の存在だけが重要なのだ。

「おい」

地獄と呼ばれたいつかを思い出していると、あのお方の声に引き戻された。

「どうされましたか少尉」
「お前も今の聞いただろう!」

興奮気味に顔を赤くして嬉しそうな姿のこの方こそ、私にとって重要な存在。
鯉登音之進様である。
どうやら鶴見中尉に同行できることが嬉しいご様子。
月島軍曹に通訳を頼られたことにより私のお役目は一つ減ったわけだが、この流れは一つ増えたらしい。

「お前の同行も許可してくださったんだ、感謝しろ!」

月島軍曹を間に挟み私の背をばしばしと叩くぼっちゃんはまるでご主人様に褒められた犬のようだ。
…まぁこのお方が私のご主人様であるのだが。

「鶴見中尉殿、お心遣い感謝します!」

腹から声を出して敬礼すれば、彼は満足そうにうんうんと頷いた。
限られた者の中に入れてもらい、ぼっちゃんと行動を共にさせていただけるのも中尉殿のおかげである。
私がぼっちゃんのお付きというのもこの人は踏まえた上でそうしてくれているのだ。
…まぁ利の無いことはしないお方だ。
きっと私にも私自身が気づきもしない利用価値を見いだしているのだろう。

ーーーー

「時にぼっちゃん。その写真は如何なものでしょうか」

月島軍曹から貰った写真にはお怪我をする前の鶴見中尉と月島軍曹が写っていたはずだが、今や月島軍曹の顔はぼっちゃんのお顔となっている。
わざわざ自分の顔だけ切り取り貼り付けるとは、今更ながらぼっちゃんの鶴見中尉への敬愛はいささか歪んでいる。

「なんだ!文句があるのか!」
「…折角いただいたお写真であるのに申し訳ございません、軍曹」
「いや、気にするな」

喚くぼっちゃんをよそに頭を下げれば、彼は真顔でそう言った。
…あぁ、これは面倒臭いと思っている時の顔だ。

「近くに温泉があると聞きましたので、よろしければ時間のある時に行かれてみては?」
「本当か?」
「ええ。少しばかり女中と世間話をした時に、お勧めの温泉があるのだと耳にしまして」

にっこり。と愛想笑いを浮かべれば、人をナンパ男かのように「たらしこむのも程々にしておけよ」と返されてしまった。
確かに優男風なこの顔はご婦人方から中々の好印象をいただくが、軍曹のおっしゃるようなことは断じてない。
が、男として紛れている身としては好都合なので特に否定することもなく笑っておいた。

「おい!私は聞いてないぞ!」
「軍曹はお疲れなのです。軍曹のお耳に先に入れても構いませんでしょう」
「私だって疲れている!」
「ぼっちゃんは鶴見中尉殿にお会いしてお元気でしょうに。ほら、中尉殿の為においしい甘味を探しに行くのもよろしいのでは?」

鶴見中尉殿の名を出せば先程までの膨れっ面は何処へやら。
意気揚々と早くしろ!と私を急かす声は楽しそうである。
ふと視線を感じて目をやれば、お前も苦労しているな。とでもいうような軍曹からの哀れみの視線だった。
お互い様ですよ。という代わりに一つ頭を下げて急かすぼっちゃんの元へと駆け出した。

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無表情増し増しの過去ヒロイン。
しかし食べ物のこととなると話は別である。
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「ぼっちゃんぼっちゃんとまるでカルガモの雛だな」

はんっ、と人を蔑むように笑うのは尾形上等兵である。
影でぼっちゃんをボンボン呼ばわりしたりと人を馬鹿にするのが特技の男。
しかしぼっちゃんがボンボンなのは事実である。
事実を言われて怒るほど愚かな性格ではないので私はいつも黙認していたが、今日は私に直接突っかかってきたようで、大変面倒くさい心境だ。
成る程、ぼっちゃんが嫌うのも道理である。

「まぁ、私は鯉登少尉殿の付き人でもありますので」

早くおいしいものが食べたいと私の意識は昼飯のことでいっぱいだ。

「鯉登少尉は男色の気があると聞いたが本当か?」
「何故わざわざ私に聞くのですか」
「相手をしてんのはお前じゃないのか?」

全くよくもまぁ上官をここまで言えたものだ。
まぁ尾形上等兵だからこそであるのだろうが、私をぼっちゃんのお相手と馬鹿にし噂するのはこの男だけでないのもまた事実。

「あれだけの家の出であり、見た目も整ったぼっちゃんを放っておく女性がいるのですか?相手には苦労しないぼっちゃんがわざわざ男を選ぶとは思えませんが」

事実ぼっちゃんはおモテになる。
鶴見中尉大好きっ子なせいでそれ以外は大して興味はないご様子だが、決して男色家ではない。

「私もお相手をするのであれば逞しいぼっちゃんよりも、華奢な女性の方がいい。声も低い男性のものより聞きやすくて心地いいですから」

にこり。
ご婦人方から受けのいい笑顔を向ければ、尾形上等兵は気持ち悪いとでも言うように顔を歪めた。

「おや、ご婦人方からは中々に評判がよかったのですが」
「やめろ気色悪い。それとも俺をたらし込もうって?」
「ははっ、それこそご冗談を。貴方こそ男色家だと噂されてしまいますよ?」

ああ早くおいしいものを口にしたい。
こんな男に付き合ったところでしあわせの時間は訪れないのだから。

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尾形のことは別に嫌いではないけど確実に好きではない。
面倒な時はいつも食べ物のことを考えている。

2019/07/02(14:16)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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