Virginia

秋の夜というのは、どうしてここまで色が抜けてしまうのでしょうか。
朱が闇夜の黒に負けたこの風景を見ると、肌寒い風も相まって寂しさがじわじわと滲む思いをするのは皆同じではないかな、と思うのです。
だって、隣の彼もこの物悲しい雰囲気にのまれて寂しそうにしているのですから。

「本当にあなたって可愛らしい人ね」
「いつもそう言うが、俺のどこが可愛いんだ」
「うさぎさんみたいな所、かしら。でも、勘違いしないで頂戴。何時もではないわ、いつものあなたは素敵でハンサムよ。くまさんみたい」
「……わからん」

照れた仕草をする彼をじっと見つめていると、もっと恥じらってしまったみたいで落ち着かない様子で煙草を取り出しました。
そんな様になる事したら、もっと私は見とれてしまうのに。
つい浮かれて紫煙をくゆらす唇に指を這わせようとしましたが、そっと大きな掌で静止されてしまいました。

「あら、残念」
「外でからかうんじゃない」
「ちょっかいとか、からかいじゃないわ。触れたかったんだもの」
「こうして手を触れるだけじゃ不満か?」
「……いいえ、とっても満足。あぁ、でも」

そこいらの2人組より密に。そして睦み合うように私は歩みを止めて彼の腕の中へ潜り込みます。
彼の香りが鼻腔を擽るのがとても気分が良くて。「こうした方が、もっと満足」と、いつもより声を弾ませて伝えたら、くわえたたばこの灯を消して優しく抱き入れられました。
そこまで力強くないのに、とても密に距離を縮めたような温かさ。あぁ、なんて私は幸せ者なんでしょうか。

「ねぇ、春賀。秋は寂しくなる季節だと思わない?」
「街並みとか、空気とか、何より寒くなるから寂しくなるってのはあるな」
「でしょう?だからこうして夜冷えや寂しい気持ちを人肌で全てを満たせばいいのだわ」

秋風は冬の訪れを告げています。
褪せた街の色を包む様に広がる夜の帳の中で、私は、きっと私達は幸せだと感じていると思っています。ですからなおのことさら、それを確かめ、その気持ちに終わりが来ないようにと自分が思う嬉しい触れ合いをするが一番だと思うのです。

だって今日は、とても冷えますから。

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