つるまるさん、と丸い声が耳を打つ。
なんだいとだけ答えたまま振り向かない俺にほんの一瞬だけ息を詰め、それでも彼女はこそばゆい信頼をもってして、いじらしい足音を引き連れて隣へと並んだ。


「さむいね」


我があるじの声が白い息に溶ける。
そうっと目線をやった先ではあり合わせの羽織を肩にかけたあるじが、はあ、と息を吐いて、まっしろだとでもいうように目を細めていた。


「ああ、寒いなあ」


続いた俺の声も、白い息へと溶けて消える。
たったそれだけの揃いの出来事が嬉しいのだと、体の底から震えるようになったのは、さて、いつからだったろうか。
肩を寄せて眺める先の庭は、音もなく冬の気配を深めている。まだ雪も降らない冬の初め。去年と同じように「今年も雪降るかな」という問いに、降るだろうさと笑った。
羽織りも布団も冬用にしなくっちゃなあ、防寒具もさっさと日干しして、こたつだって出さないとならない。いつかの冬よりうんと大きくなった本丸には、いつかの冬とは比べ物にならないくらいに刀も増えた。
長い冬が来る。
戦はまだ終わる気配は毛頭なく、冷えきった空気の中振るう刀の音が耳の奥に響くような心地。
ヒトのからだを得た俺にあらゆることを教え込んでくれた季節は、一年で最も長く、静かで、死に例えられる季節であると知ったのは、二度目の冬であった。音の無い雪の夜、己の纏う色と同じだと眺めながら庭に佇む俺を呼び止めた声は、未だやわらかな傷のように身体の真ん中に刻み込まれている。
冬の空気を切り裂く、俺を連れ戻す、祈りのような声であった。


「春が待ち遠しいかい?」

「もう?」

「きみ、春が好きだろう」

「ああ…でもほら、冬も好きなんですよ」

「雪?」

「それもありますけど、鶴丸さんと出会った季節だから」

「……こりゃ驚いた、熱烈だな」


肩を揺らして覗き込んだ先、口を滑らせたと拗ねながら頬を染める娘は、仕返しだとでもいうように軽く俺の胸元を叩いてからとろけるように笑う。
もうにぎやかだから冬も寂しくないと細められた目がスイと流れて、庭の景色をなぞる。きみが作った本丸だと抱き寄せた腕は振り払われることもなく、遠慮なく抱きしめた腕の中、本丸のあるじは褒められたこどものように肩を揺らした。
冬が来て、あっという間に一年が終わる。
長い冬を終えたら、庭の木々たちはゆっくりと蕾を付けて、そうして、腕の中の娘はまた「春が来ますね」と笑うのだろう。かつて、死ぬのなら春が良いと笑った己のあるじを、今年も守り抜く覚悟を静かに心へ落とし込んだ。



冬を呼ぶ



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240326


Rondat