暇を持て余した幹部による、


※やや注意ネタ


滞り無く任務が終わり、首領への報告も済ませた中原は足早に自身の執務室へ向かう。

今日の為にとっておいた好みのワインを開けられると思うと、思わず足取りが軽くなるようだった。
漸く明日は一日非番。時間を気にせず有意義な夜を過ごそうと足を進めていたが、何やら騒がしい声が聞こえて来た。



(…何処からだ?)


聞こえてくる声が悲鳴や怒号であれば急ぐ所だが、どうやら違う。

気にせず自室に戻ろうとする中原だったが、通り道にある一室が声の元だった為に足を止めた。
其処が誰の執務室か理解しているが故に扉を開けるのに躊躇したものの、声の中に聞き慣れた高く澄んだ声が混ざっている事に気付いた中原は渋々ドアノブに手を掛けた。



「はい、またナマエの負け」
「一条君のババ抜きの弱さは変わらん様だね」
「い、意外っす」
「く、うぅ…」


「…何してんだ手前ら」


声の元である部屋、太宰の執務室には部屋の主である太宰を始め、黒蜥蜴百人長の広津、同じく黒蜥蜴に属する立原、太宰の部下数人と何故かナマエが居た。

そしてソファに座ったナマエの手にはトランプのカードが握られており、何をしていたのかは一目瞭然だった。



「あ、中也」
「あ、じゃねぇよ。何してんだこんな所で」
「いや何ね、ナマエと次の任務について話していたら偶然カードが出てきたのさ。で、皆でババ抜きをしようって話になってね」
「どうやったら偶然トランプが出てくるかは置いておくが、この面子は何だ」
「だって二人でババ抜きをしても詰まらないだろう?偶然広津さん達が通りかかったから誘ったまでさ」


太宰の納得するようで納得しない説明を聞き流し、中原はテーブルに項垂れるナマエに近寄った。


「お前ババ抜き弱かったのか」
「…運は誤魔化しようが無いの」


ナマエはカードゲームで負けた事が無いと云っても過言では無い位にギャンブルには強い。マフィアが経営する裏カジノや賭博場でも右に出る者は居ない程で、不貞な輩にはそれ以上の報復をする。
と云っても、ナマエも真っ向勝負をしている訳では無く、相手が気付く暇も無い位の速さと手品の様なカラクリで計算された言わばイカサマである。種も仕掛けもあれば負け知らずの類と違い、ババ抜きは運が全て。相手の表情や仕草である程度は切り抜けられても、太宰を目の前にすると運に頼らざるを得ない。

結果、ナマエの惨敗だった。



「悔しい…やっと太宰に報告書を書かせられると思ったのに」
「ポーカーの腕は見事な物だったがね」
「あれは幾らでも誤魔化せますからね。食べていける位は稼げますよ」
「これは末恐ろしい。却説、私はそろそろ失礼しても?」
「嗚呼、ありがとう広津さん」


偶然、と太宰は云っていたが、きっと無理矢理な理屈を並べられて引き込まれたであろう広津に、中原は同情の目を向けながら見送った。


「却説、」


太宰の声にナマエの肩がピクリと反応する。


「約束通り、敗者には罰ゲームだ」



そう云うと、何処から出したのか太宰は一本の棒付きアイスを取り出した。



「ハイ、これ食べて」
「え、食べて良いの?」
「勿論」


罰ゲームとは云ったものの、此れではむしろご褒美なのでは?とナマエ本人を含め周りも首を傾げていたが、中原は太宰という人間を嫌という程理解している為、本当の意図を探っていた。


「はーい口開けて」
「え、え?」
「私が持ってるから、ナマエはそのまま」
「…………」



成る程。
太宰の意図を理解したナマエはジトリとした目で目の前の男を見上げるが、負けた事は事実であり内容は聞いていなかったが罰ゲームにも了承していた為、出かかった文句を飲み込む。

アイスを支える太宰の手に自分の手を添えながら、ナマエは静かにアイスを咥えた。



「…ん、」


ゆっくり舌を動かしながら、アイスを啜る姿は何とも艶かしく。
ただアイスを食べているだけの筈なのに、別の何かを彷彿させる。

加えて、ナマエが今舐めているアイスはバニラ味と思われる白い物。
口の端から漏れる液体は、まさしく男のソレにしか見えない。


兎に角、股間に悪い光景である。


しかし悲しい事に、その場に居た男達は目が離せなかった。

ポートマフィアが誇る特別幹部であり、外見も含め全てが完璧であるナマエ。
その彼女が跪き、まるで奉仕をしているかの様なその姿は、マフィアに属する男であれば一度は想像したのでは無いかというもの。
見てはいけないと理解していても、身体は動かなかった。



そんな周りの反応に気付いたナマエは、内心ため息を吐いた。


(男って本当、)


馬鹿よね、と思いながら、そろそろ良いかとナマエは口を開き、


ガリッ


「「「…っ!」」」


音を立ててアイスを噛み砕いた。


周りの人間は反射的に息を飲み込み、想像力豊かな者は冷や汗を浮かべている。


「…もう良いでしょう?」
「うん、合格。あ、皆もう戻っていいよ」


太宰の笑顔の裏に、他に行く所あるでしょう?と云う別の意味を感じ取り、慌てて執務室を後にする部下の男達と立原。

その後ろ姿を見ながら、中原は呆れたような目線を太宰に向けた。



「相変わらず悪趣味だなァ手前は」
「うふふ、何の事だい?」
「少しは自制しろよ」
「中也に云われたくないなぁ」




太宰の行動は独占欲の表れ。

ナマエを彼処まで手懐けられるのは自分だ、他の人間に入る余地は無いという事を周囲に知らしめたいが故の行動だと、中原は理解した。

本来、自分が好いた女のああいう姿等、他者に見せたい物では無いと思うが、いかんせん此の男は変人と云っても過言では無い程変わっている。愛情表情が特殊なのである。


但し、悔しい事にナマエに関しては自分も似たような感情を抱いている。
太宰程、あからさまに出しているつもりは無いが。


「中也」
「あ?」
「これあげる」


と云うと先程噛み砕いたアイスの残りを棒ごと中原の口に入れるナマエ。



口に広がる甘さに、中原は胸焼けを感じた。



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