愛しきキャラメリゼ

駅前に新しくできたカフェのスイーツが何やらとっても美味しいらしい。と、目をきらきらと輝かせた銀時に腕を引かれ有無も言わさずそのカフェに連れて行かれた。奴は甘いものには目がなく、新しくできたお店に美味しいスイーツがあるという情報が耳に入ると、すぐに私を引き連れお店へ向かう。というのも、新しいお店では大抵客を呼び寄せるために色々な割引を行なっているため、私は「カップル割引」を使うために連れられているただの都合の良い割引クーポンなのである。毎度毎度悪びれもなく、恋人でも無い私を連れて店員さんに「二人、あ、カップル割で」と言う銀時は嘘つきだ。
「見ろよなまえ、このチョコパフェ絶対うまい。でもこのストロベリーチョコパフェも、季節の果物パフェも絶対うまいよな…なあ、俺チョコレートパフェ頼むから、お前季節の果物パフェ頼んで半分こしねえ?」
「私アイスカフェラテと抹茶のスコーン」
「おい!話聞いてたか!?」
レトロ調のかわいい制服に身を包んだ店員さんが苦笑を浮かべながら静かに水の入ったグラスを置き、後ほどご注文伺いますねと奥へ去っていった。店内はアンティークインテリアで統一されていて、静かで居心地が良い。水を一口飲んで、早く選びなよという視線を銀時に向けると、真剣な顔で手書きのメニュー表と睨めっこをしていた。
実を言うと私は甘いものが得意ではない。生クリームを大量に食べると胸焼けがするし、甘すぎるカスタードにこれまた甘そうなフルーツが上に飾られていると見ているだけで苦笑いを浮かべてしまう。でもこれは銀時には言っていない。隠しているわけではないが、なんとなく、言うともう二度と誘ってくれないんじゃないかと思って言えなかった。言えなかったってことは、やっぱり隠していることになるのかな。
「ご注文お決まりでしょうか」
さっきの店員さんが、人当たりの良い笑みを浮かべて声を掛けてくれる。こういう可愛くて、今時っぽい子はきっと銀時と一緒にどのパフェにするか悩んだり、パフェを半分こしたりできるんだろうなあ…と、考えても仕方ないことを考えた。
「私はアイスカフェラテと抹茶スコーンで、銀時、決まった?」
「ス……チョ……季節………うーん………」
「ストロベリーチョコパフェ一つ」
「あ!?何勝手に頼んでんだ!俺の一週間に一度の楽しみを勝手に決めんなよ!」
「悩みすぎ。それに一番にス…って言ってたから、それが一番食べたいのかなって思ったの」
「…確かにそうかもな、じゃ、それで」
「かしこまりました」
いやでもやっぱり季節の果物…と店員さんが去った後もぶつくさ言う銀時に半ば呆れた。どんだけ執着しているんだ、そんなんじゃ血糖値は上がる一方だ。
「まあ、でも、アレだな、なまえがいるとスパッと決めてくれるから結構楽かもな」
「割引クーポンも使えるしね」
嫌味を込めて言うと銀時はそうだなといつもと同じ顔で、普通の顔をして答えたのでなんだか胸がツキンと痛んだ。
先に届いた私のアイスカフェラテとスコーンを食べながら、また窓の外を見つめる。まだ学生だろうか、若いカップルが手を繋いで仲良さげに歩いているのを見て、心底羨ましいなあと思うばかりだった。
「この前客から聞いたんだけどよ、この近くにもまた新しいカフェができたらしいんだよ。お前来週どっか空いてるか?」
あそこもパフェがうまいらしいんだよなあと見たこともないパフェに想いを馳せながら銀時がうっとりとした表情で言う。いつもなら少し嬉しいお誘いも、今はなんだか少し虚しい。というかなんで銀時は私ばかり誘うんだ。一緒に行ったって甘いものも一緒に食べれないし、割引を使いたいだけなら他の女の子を誘えばいいのに。テーブルの下でぎゅうっと拳を握りしめた。
「…私もう行かない」
振り絞った声が震えた。嫌われるかもしれないけど、言葉が止まらなかった。
「割引使いたいだけなら、他の子誘いなよ。妙ちゃんもさっちゃんも月詠さんも、銀時と一緒なら喜んで着いてきてくれるよ」
なるべく何ともないように、言い終わった後スコーンを齧った。ガリガリと噛み砕く音だけがやけに響く。銀時は何も喋らない。恐る恐る銀時の顔を見ると、珍しくぽかんとした顔をしていた。
「え、な、何?」
「…え?俺たち付き合ってんじゃねえの?」
「は!?」
持っていたスコーンがぽろりと手から抜け落ちてお皿に落ちる。あぶな、床に落ちなくてよかった、いや、じゃなくて、この男なんて言った?
「だ、誰と誰が」
「いやいや、なまえと、俺」
「いつから!?」
「覚えてねえの?」
数週間前、銀時にカップル割引のあるお店に連れられたときのことだそうだ。あの時も有無を言わさず連れていかれ、銀時はケーキを頼み、私はカフェオレとデニッシュを食べていたとき、あの時も私は皮肉を込めて「カップル割が使える女が近くにいて便利だね」と言ったそうだ。銀時はそれに「じゃあこれからも遠慮なく使わせてもらうな」と返したらしい。どうやら銀時は私の皮肉を告白だと捉え、了承の意を込めてそう言ったそうだ。
「そんな滅茶苦茶な…」
「お前すげえ照れ屋だから、遠回しな告白だと思ったんだよ」
「違うわ!いや、え?てことは銀時、私とずっと、付き合ってたの?」
「俺はそのつもりだったけど…」
さすがに自分の勘違いと気づいて恥ずかしいのか、銀時の耳が少し赤くなっている。それがどうしようもなく可愛くて、思わず触りたくなってしまった。外だから触らないけど。
「で、どうなんだよ」
「え?」
「俺なまえのこと好きなんだけど」
一変。どストレートな告白。今度は私が耳まで真っ赤になって口をはくはくと開ける番だった。とりあえず、パフェ届いたから、早く食べて。あと、さっき言ってた新しいカフェって甘さ控えめのパフェあるのかな。