貧しい家で産まれたがために、奴隷として地球から他の星に売られた時、最初はどうなることかと思い泣いてばかりの日々だったが、ある日突然星に降り立った鬼兵隊とこの星の天人との戦争の混沌に紛れ、働かされていた場所から逃げられた。外をしばらく走っているときに見えた久しぶりに見る人間に安堵し、戦場で泣きながら土下座して縋った相手は、人斬り万斉と恐れられる河上万斉だった。とてつもなく酷い顔だったであろう私の顔をじっと見つめ、血のついた刀を収めて私の手を引いてくれた。
「また子ちゃん、いつ万斉さんに告白しようかな?やっぱりまだはやいかな?」
「またその話ッスか?もう聞き飽きたッス。早くコクって玉砕すればいいッス」
「ひどい!」
あれから数ヶ月。助けられた万斉さんにすっかり惚れてしまった私は、鬼兵隊の一員としてーと言っても、戦闘はてんでダメだったので食事や掃除など、女中のようなものだがー働かせてもらっている。また子ちゃんとは歳が近く、女同士ということですぐに仲良くなれた。最初こそ万斉さんの話を優しく聞いてくれていたが、最近だと万斉さんの話をしすぎてまともに聞いてもらえない。ひどい。
「ってかバレバレッスよ。万斉先輩ももうなまえの気持ち知ってると思うッス」
「ええ!?うっそ!だって、この話はまた子ちゃんにしかしてないよ!」
「いや態度が違いすぎるッス」
また子ちゃんはその後、高杉さんから次の戦いの作戦について話があるらしく、さっさと席を外してしまった。今日の夜ご飯はハンバーグがいいッス〜!ととびきりの笑顔でスキップしながら行っていたので、次の戦いもまた子ちゃんが頑張れるように心を込めて作ろうと台所へ向かった。
「なまえ」
「万斉さん!」
台所の扉を開けると、冷蔵庫から水を取り出している万斉さんと出会った。ラッキー!正直鬼兵隊のみんなの分を作るのは結構大変なので少し気持ちが落ち込んでいたところだったけど、万斉さんの顔を見れたことで一気にやる気が満ち溢れる。そりゃ手伝ってくれる人もいるが、最近は忙しいせいか手伝ってくれる人も少なく人手が足りないのだ。
「台所にいるの、なんだか似合わないですね」
「そうでござるか?」
かっこいい服にほんわりとした台所がアンバランスで、思わず微笑む。また子ちゃんがくれたエプロンをさっとつけて手を洗っていると、万斉さんがいつの間にか横に立っていた。どきりと胸が鳴る。近い。
「そ、いえば、また子ちゃんがさっき、高杉さんに次の戦いについての話を聞きに行ってました」
「ああ、拙者も先程晋助から聞いた」
「どこの星に行くんですか?」
「地球でござる」
「わあ、久しぶりの地球!楽しみですね!」
「…家に帰りたいか」
「へ?」
流しっぱなしだった水を止められて、濡れたままの手を握られる。どっきんと心臓が喉から出そう、いや、もう胸を破って飛び出るかと思った。
「ば、万斉さん、手、濡れてますから」
「拙者はあの日からなまえのリズムが耳から離れない」
「あの、」
「戦いの後、なまえの飯を食べると安心するでござる」
「ひえ、」
「帰したくない」
「う…」
「拙者のために毎朝味噌汁を作って欲しいでござる」
カーッと手の熱が顔に一気に集まる。いつもクールで喋ってもすぐにどこかへ行ってしまう万斉さんが、私の手を握って、私のこと褒めてくれて、帰したくないって、毎朝味噌汁を…?言われた言葉を噛みしめながら、震える口で言葉を紡ぐ。
「あの、わたし、地球の家に帰りたくなんか、ないです。あの日、わたしを、助けてくれた日から、わたしの家は、万斉さんのところだと、勝手に思ってました。う、あの、わたしなんかで良ければ、お味噌汁、たくさん作らせてください…」
気持ちが通ったことがどうしようもなく嬉しくて、ボロボロと大粒の涙が流れた。万斉さんの優しい指が涙を掬い取り、そのまま口付けられる。
「相変わらず泣き虫でござるな」
大切な宝物を見つめるような、サングラス越しの万斉さんの瞳が優しくて嬉しくて、また涙が溢れた。