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そんな幼い記憶は、もう薄れて思い出すこともなかった。
「グッモーニン、マイリルシスター!」
けたたましい騒音のような声で目が覚めると、私はまず深くため息を吐いた。
「カラ松お兄ちゃん…そんなに大きな声出さなくても起きてるよ」
見上げると、ぐいっと顔を寄せて私の顔を覗き込む兄。
「泣いていたのか?」
「はぁ?そんなわけないでしょ、欠伸よあ、く、び」
何を寝ぼけたことを言っているのだこの兄は。脳が起きていないのはあなたの方でしょ、なんて言葉は口に出さないが心の中でそっと罵る。
「なになに、名前泣いてんのぉ?」
「大丈夫か?」
またうるさいのが来たなぁ、と頭を抱えてしまいそうになった。一番上の兄と三番目の兄だ。
「もう、泣いてたんじゃなくて欠伸が出ただけ。カラ松お兄ちゃんが勝手に勘違いしたの」
そう言うと一番上の兄おそ松は、興味がなくなったと言わんばかりに階段を降りて行った。対して三番目の兄チョロ松は、なおも心配そうな顔をしている。
「心配しすぎだよ二人とも。私なんともないもん。ほら朝ご飯食べに下に降りよう」
二人の腕を引っ張り強引に部屋を出る。若干不安が残っている様子だったが、母松代の朝食にありつくと、先ほどの出来事はもう忘れていた。
「十四松お兄ちゃん、醤油とって」
そう言うと、五番目の兄十四松は、にっこり微笑んで取ってくれた。その様子をどこか不服そうな面持ちで見つめるのは、六番目の兄トド松だ。
「僕の方が近いのにどうして十四松兄さんに頼んだの?」
始まった。私の兄は六人いる。しかも六つ子で優劣はない。しかしいくら同じ日に生まれたとはいえ、自然と順番は出てくる。ずっと一番下だったトド松は、自分よりも下の存在ができた時、それはもうべらぼうに喜び、唯一無二の私の世話を甲斐甲斐しく焼いた。その結果、私に一番頼られるのは自分だと思っている節が強く、このように些細なことでも突っかかってくる。
「だって、十四松お兄ちゃんなら他のお兄ちゃん達と違って見返り求めないじゃん」
べっと舌を突き出すと、五人の兄は、五色それぞれの反応を示していた。
「ごちそうさまでした」
キッチンへ食器を運ぶと、母が微笑んだ。
「名前ちゃんはきちんと皿を持ってくるのにお兄ちゃん達ときたら…」
今度は呆れるような目つきで兄達を見る。
「お皿をちゃんと片付けるお兄ちゃんって素敵だなぁ」
ぼそりと呟くと、途端に六人とも立ち上がって皿を持ってくるから、私と母は吹き出した。
これが、松野家の日常である。
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