1643

『ああ、ADHDだね。俺もそう、っていうか俺を見てるみたいだな』
『こんなん合法麻薬だ。無いなら無い方が良い。が、今のお前には必要だ』
『お前もう少し我儘になれ。それで薬もなくなるし、多分治る』
『お前は洗脳されやすい。なら逆に、自分で自分を洗脳すりゃ良いんだよ。自分の頭だ、上手く使え』

医者のくせに薬は無い方が良いと言い切ったり、完治しないと切り捨てたり。
医者が全てでは無いと、その先生のせいで理解をした。その上で、それでも医者なんだと思い知らされた。全てを受け入れるのでは無く、実行するのは私自身だと投げて来た、面白い先生だった。

『あ、そうだ。彼氏と別れたんだよな?』『はい。ちょっと前に言ったばっかっすよ、また忘れたんすか』『まあまあ。――より戻すなよ』『……まさか。ようやっと別れたのに』『戻ると思っただけだよ。そのつもりならそれで良い』

その感情は言わなくて良いと、一言も言わなかった。何で感じ取ったのかも分からないその感情を、ただ淡々と言い当てた。

「あーー……あの人そういえば、曲がりなりにも心療内科の医者なんだなあ……」

そんな、さも当然のことが病院を出た途端に溢れた程度には、良い医者だった。

1640

不思議と、帰りたいとも思わない。嫌いではないが、元々居心地の良い場所でも無かった。
実家にいた頃と大差は無い。そう考えてしまえば感覚は抜けた。自室が無い、それくらいの変化。
そうやって、いつまで感覚から目を逸らし続けるのだろう。

1638

さっきから、部屋のドアにガリガリと爪を立てる音が聞こえる。
早いもので、引っ越してもう4ヶ月目に入るんだろう。まだ姑だけ抜けない敬語と、痛みを怖がって上手く扱えない猫と。
慣れる気がしないなあ、と。