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それは彼と──ドラコと知り合ってから一週間と三日経ったときだった。
いつものように彼と別れ、家路につこうと踵を返した途端、林の影から出てきた男が壁のように立ちはだかった。
「やあ、息子がいつもお世話になっているようで」
サラサラとした長い金髪が風にたなびく。石炭のように真っ黒なローブを纏う彼は風体だけはドラコにそっくりであった。しかしその瞳は彼とは比べものにならないくらい澱んでいる。
「すまないが、アー……きみとドラコでは住む世界が違うのでね」
すまないだなんて微塵も思ってなさそうな声音と表情で、ルシウス・マルフォイは言葉を紡いでいった。わざとらしく非常に言いづらいのだが、とでもいうような口調だ。
……ドラコと仲良くする限り、いつか来るだろうとは思ってたけど。想像以上に早い接触だ。
「……ドラコは納得してるんですか」
「納得させる必要もない。あいつは分かっている。私の息子なのだから」
自信満々に、それでもどこか意地悪く告げてくる目の前の男が憎い。なにが分かってる、だ。親が子供の感情を勝手に決めつけてなんの問題もないと思っているのか。……思っているんだろうな、きっと。そんな傲慢が通用するよう狭い世界で生きてきたのだろう。それで成功してきてしまったんだから、今更考えを変えることもできないし、そもそも変える気もないに違いない。
ルシウス・マルフォイ。長い物には巻かれに巻かれ、権力のみを信じて強きにおもねることしかしない。
寄り添って支え合うことの大切を理解しようとも思えない、哀れな人。
そう思った途端、感じていた怒りがすっと引いていきなんだか逆に可哀想になってくる。私は絶対、こうはなるまい。そしてドラコだって。ルシウスさんの眉がピクリとつり上がった。早く返事をしろってか。はいはい。とりあえず今だけは従順なふりして頷いとけばいいか。生きてさえいれば、彼のことを忘れさえしなければどうにでもなる。
「分かりました、もう彼には会いません」
「……」
「もう行っていいですか? そろそろ夕飯の時間なので──」
「いいや待て。だめだ」
ルシウスさんはせせら笑うようにそう言ったかと思えば素早い動きで杖を取り出した。初めて見る、魔法使いの杖に目を見開く。彼は杖先を前髪越しの額にぐりっと押し付けた。
「きみはどうも、信用できなくてね」
「な、なにを……!」
「悪く思わないでくれよ。……オブリビエイト!」
しまった、と思った。
彼は私の憐憫を鋭く察知してしまったのだろう。そして見事反感を買ってしまったのだ。
消えていく。
ドラコに会ったことも。
二人で秘密の花畑に行ったことも。
全てがなかったことになっていく。
目の前の男すら霞がかり、そしてやがては露と消えていった。ああくそ、あんまりだ。悔しい。こんなの殺されるよりきつい。
しかしもう私にはどうしようもなかった。
ごめんね、──────
その場に響いたバチンという大きな音にハッと目を覚ます。気分がふわふわとしていて、なんだか夢見心地だ。山に、行って──? そうだ、いつもみたいにスケッチをしてた、んだっけ……? ほんとうに? なんだか足りないような気もする。それだけでは、なかった、ような。
どうしてこんなに疑いたくなるんだろう。自分の思考回路なのに追いつけず、理解ができなくて首をひねる。山に行って絵を描いていた──これで合ってるはずなのに。それ以外の記憶なんて、どこにもないのに。それなのにどうしてこんなに──なにかが足りないような気がするんだろう。
突如として強い風が吹き上げる。風に煽られると、頬がやけにひんやりしていることに気付いた。
「……あれ?」
なんで私、泣いてるんだろう。
驚いてこぼれた声は、誰にも拾われることもなく、夕暮れ時の寂しい風にさらわれていった。
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